仮想ワンカンパニー化に成功
――トランスフォームの実現には、ITインフラだけでなくビジネスそのものの変革も進める必要があると思いますが、製品の提供以外にどのような支援の方法があるのでしょうか。
われわれ自身が自社のMATを進めるにあたり、Pivotalのアジャイル開発の手法や、Cloud Foundryのプラットフォームが非常に役に立っています。このような、シリコンバレーのスタートアップ企業やオープンソースの知見を取り入れながら製品を開発することで、変革の経験やノウハウを積み重ねてきました。また、私たちは長年ストレージを手掛けてきた会社ですので、データサイエンティストやアナリストの育成ではかなりの歴史があります。このような知見を活用しながら、実際に金融機関や自動車メーカーなど大手のお客様に対しても、人材育成や組織変革でお手伝いしているところです。このオフィスには毎週のように米国本社の人たちが来ていますが、ほとんどはお客様のプロジェクトに参加させていただくための人材です。
――昨年秋、営業とプリセールスエンジニアの部門で200人規模の採用を行うと発表されました。冒頭、オールフラッシュやHCIが好調というお話がありましたが、Dell EMCとして売りたいものがきちんと売れているという印象です。
売上高の成長は事業の良し悪しを示す一つの指標ではありますが、経営陣は全員、お客様に対して「すぐに製品の話はしない」ということを徹底しています。いくら革新的な製品であっても、その話から入ると、最終的にお客様の変革に役立つ提案にはならない可能性が高い。変革を支援することがわれわれの仕事ですから、ともかく要望や潜在的な課題を、できるだけ掘り下げてお聞きしていく。売上高は一つの指標ですが、重視しているのはお客様満足度の調査結果です。
人材の部分に関しては、教育やトレーニングに相当の力を入れていると自負しています。テクノロジーの進化はものすごく速いですから、全ての営業・SEは毎週、製品やソリューションに関する教育プログラムを受けていますし、四半期ごとに社内で実施している試験に合格する必要があります。
――国内では、EMCジャパンとデル日本法人という二つの企業体が現在も並立し、オフィスも別々に置かれている状態です。顧客やパートナーから、早く完全に統合してほしいといった声が寄せられることはありませんか。
統合以降は仮想的なワンカンパニーとして、お客様からの窓口は一本化しています。製品で言えば、サーバーでもストレージでも、どちらの営業にお聞きいただいても最終的に同じ答えを差し上げられる体制になっています。おかげさまでこの体制下で、新規ビジネスの獲得、両社の強みを生かしたクロスセルは相当増えています。今の段階では企業の形態に関してお話しできることは特にないのですが、いずれにしても法人格やオフィスにかかわらず、この2年あまり、非常に良い形で統合の効果を出してこられたのは間違いありません。今後は「Make it Real」をいっそう推進するため、Dell EMCとして変革のより具体的な実現方法をお客様にお伝えしていく考えです。
Favorite Goods
人目に触れる機会の多い名刺入れは、2年ぐらいのサイクルで買い替える。こだわりは一つ、「黒」だ。5~6年前にデザインのいい名刺入れに目が止まり、それがブルガリだった。それ以来、新作をチェックし、気に入れば購入するようになった。
眼光紙背 ~取材を終えて~
どう考えるか、どう感じるか
金融や製造の国内トップ企業やグローバル企業に向けてストレージ製品を提供していたEMCと、中堅・中小企業を中心に幅広い顧客へPCとサーバーを提供してきたデル。補完的なM&Aであるだけに、両社の企業文化を融合させるのは容易なことではなかった。
そこで、経営統合に際しては、「お客様」「共に成功する」「イノベーション」「結果」「誠実さ」の五つに価値を見出すべきと定義。全世界の経営層を本社に集めてこの価値観と事業戦略を共有し、各国に持ち帰って全社員に伝えた。
伝えたことを社員が本当に吸収できたか、大塚社長は二つの聞き方があると指摘する。一つは「How do you think ? (どう考えるか)」。戦略の実行には、それを一人一人が自分の頭で考えて理解する必要がある。しかし、それだけでは不十分だ。もう一つの質問が「How do you feel ? (どう感じるか)」。理詰めで理解するだけでなく、共感できる価値観やビジョンでなければ、人はついてこない。理性と感情の両面に訴えることで、全社員を同じ方向へ導いていく。
プロフィール
大塚俊彦
(おおつか としひこ)
1962年、東京都出身。85年、早稲田大学理工学部卒業後、日本IBMに入社。米IBMへの出向を経て、日本IBM理事、執行役員を歴任。2006年、シスコシステムズに入社し執行役員、専務を歴任。10年、日本オラクルに入社し、同社傘下のサン・マイクロシステムズ社長に就任。その後、日本オラクルで専務、副社長を歴任し、14年10月に退任。14年12月より現職。
会社紹介
1979年、米国マサチューセッツ州で創業。最初の製品は容量64キロバイトのチップを使ったメモリーボードで、その後、業務用コンピューター向けのストレージベンダーとして業界首位の地位を確立した。2004年にヴイエムウェア、06年にRSAセキュリティを買収した。16年、デルテクノロジーズの傘下となり、サーバーを含むITインフラ製品群を「Dell EMC」ブランドで提供している。日本法人のEMCジャパンは94年設立。