日本の人事の在り方そのものを変えていく
――そうすると、市場づくりのためにはユーザー側のマインドチェンジを促すための啓発活動もやっていかなければならないということでしょうか。
そういう取り組みを、実はすでに積極的にやっています。コンソーシアムのような活動のお手伝いをしたりしているんですが、日本の将来の人事はどうあるべきかということがいろいろなところで活発に議論されています。日本の人事の在り方に大きな課題を感じて、ワークデイと同じ方向を向いている方は企業側にも相当数いらっしゃると実感しています。
実際に、グローバルビジネスをやられている日本企業で米国などの海外拠点からワークデイを使い始める例はかなり出てきていて、お客様からは「ワークデイを入れると聞いて、海外の人事担当者が自分の仕事がクリエイティブになると喜んでいた」という話もうかがっています。
また、欧米のグローバル企業の日本拠点でワークデイを使っているケースが500社ほどあります。そういうところで働いている人は流動性が高いですから、彼らの評価、口コミが日本での成長を後押ししてくれる側面もあります。
――ユーザー会を立ち上げるようなことも考えていらっしゃるんですか。
ユーザーコミュニティーのアクティベーションも戦略に入っています。私が前職で日本のビジネスを成長させられたのは、ユーザーコミュニティーの力が大きいんです。その仕掛けについてはノウハウと成功体験があるので力を発揮できると思っています。
――まだクラウドHCMの市場規模は小さいというお話でしたけれども、この1~2年は「HRテック」という言葉もバズワード的に浮上した印象です。競合と比較して、ワークデイの決定的な差別化ポイントは?
ワークデイのユーザーには各産業をけん引するグローバル企業も名を連ねていますが、そうした企業を含むユーザーのデータを基に弾き出したさまざまなベンチマークを活用できることです。
――例えばどんな風に活用できますか。
優秀なタレントがいて、この人を引き留めておくためにマーケットデータを調べて、ほかの会社の給与と比べてみようというのはよくある話ですよね。ただ、それをやろうとすると、調査会社に頼んで、結果が出るまでに1カ月くらい待つことになりますし、コストも高い。しかしワークデイの場合は、グローバルの2600社のお客様のうち3分の1がデータを提供してくれていて、もちろん他社からは会社名も個人名も見えませんが、業種、職種、ポジションによってどのくらいの給与をもらっているのかが分かるようになっています。
――製品としての特徴についてはどう見ておられますか。
人事評価や昇給管理、組織のデザインなどの業務を、完全に統合された一つのデータベース、完全なシングルインスタンスのシステムでカバーしているのが売りです。事業責任者から人事の担当者まで非常にスムーズに仕事をこなしていくことができ、もちろんデータの転記のような非効率な業務は発生しません。人事管理にかかわる複数の多様な業務を一元化されたものにでき、担当の人員もシステムのコストも最適化できることがエグゼクティブの方には非常に高く評価しているポイントだと思います。
――ワークデイは基本的に直販ですが、日本市場では特例的に間接販売でビジネスを拡充していく方針も示されました。グローバルコンサルファームを中心にパートナーも整備されましたね。
ワークデイにはかなりシビアなコンサルの認定制度があって、更新も1年単位です。現在、日本市場では5社のサービスパートナーがありますが、ワークデイの日本市場における成長可能性を評価していただき、ここに本気の投資をしていただいています。パートナーは社数を重視するのではなく、まずはこの5社に認定コンサルタントを増やしていただき、多様な事例をつくっていくことが大事だと思っています。しっかりしたリファレンスがあることが、市場への普及を最も強く後押ししてくれますからね。
Favorite Goods
趣味のゴルフでは、グリップを巻き直して長年使い込んでいるクリーブランドのサンドウェッジが頼れる相棒。ワークデイはフィル・ミケルソンなど著名なゴルファーをスポンサードしており、経営層への認知度向上には抜群の効果があるという。
眼光紙背 ~取材を終えて~
英国の1/4なんて絶対に許せない
「ワークデイの日本のビジネスは、米国どころか英国と比べても4分の1程度なんですよ」。それなりに名の通った外資系ベンダーであれば、日本市場のビジネス規模は米国市場に次ぐ2位グループを形成しているのが一般的だ。「現在の日本市場の状況は許せない。ワークデイが米国以外に投資を始めたのは5年ほど前からで、英仏独日がフォーカスエリアではあるが、私の在任中に米国に次ぐビジネス規模に育てたい」と語る鍛治屋氏の眼には、日本でのビジネス拡大に重い責務を負っているという責任感とともに、日本企業には成長を見据えた戦略的な人事施策が欠けているケースが多いという憂慮が宿る。
日本市場でのワークデイのビジネスは、現在のところグローバルにビジネス展開する大企業向けに特化しているが、2020年中には財務会計モジュールや中堅企業向け製品も日本市場に投入し、ポートフォリオを拡大する。さらに日本市場だけの戦略として、「パートナーと一緒にビジネスのエコシステムをつくって間接販売をメインに成長を図る方針を本社に認めさせた」という。ここにも日本のHCM市場そのものに対する鍛冶屋氏の強烈な危機感が表れている。
プロフィール
鍛治屋清二
(かじや せいじ)
1966年、大分県生まれ。福岡大学経済学部卒。日本タイムシェア(現TIS)、日本パラメトリックテクノロジー(現PTCジャパン)を経て、98年よりモールドフロージャパンの代表取締役を務める。その後、オートデスクのモールドフロー買収に伴い、オートデスク日本法人でモールドフロー本部長に就任。2009年、ダッソー・システムズに移籍。12年には社長に就任。13年からは同社グループ会社のソリッドワークスの社長も兼務。18年10月より現職。
会社紹介
旧ピープルソフトの経営陣が2005年に設立したクラウドERPベンダーである米ワークデイの日本法人。13年8月設立。15年1月から本格的に日本市場での活動を開始した。米ワークデイの19年1月期売上高は前年比31.7%増の28億2000万ドル。