ユーザー数は個人向けで4億人以上、法人向けで27万社以上に上るカスペルスキー。セキュリティー業界を代表するグローバルベンダーである。一方で、2016年の米大統領選挙においてロシアの諜報活動に関与した疑いにより、米政府調達企業リストから除外された経緯を持つ。順風と逆風が想定される中で、日本法人の新たなトップに就任したのは、ネットワークセキュリティー領域のビジネスで10年以上のキャリアを持つ藤岡健氏である。就任会見で掲げた目標は「21年までに法人向けビジネスの売り上げを3倍に」というもの。その野心的な目標を達成するために、藤岡社長はどのようなロードマップを描くのか。
直近の第1四半期は
法人向け事業が2桁成長
――就任会見では3年で法人向けの売り上げを3倍にすることを掲げましたが、日本経済の状況からすると、かなり高いハードルに感じます。
確かに、難しい数字だと考えられる方は多いでしょうが、見込みは十分あります。まず、ドイツの市場を例に挙げさせていただきます。ドイツの人口とGDPは、日本よりも低い値です。しかし、ドイツ市場におけるカスペルスキーの収益は、日本の3倍程度あるんです。単純計算でも、数年以内に3倍という目標は現実的だと思います。当社の年度始まりは1月ですが、第1四半期の結果が大体見えています。詳しい数字はお話できませんが、法人向け事業では2桁成長が確実になりました。
――成果の要因としては、どういったものが考えられますか。
いくつかあって、まず大手企業での採用が増えたこと。そして、製品だけでなく、セキュリティー対策のためのデータやノウハウ、インテリジェンスを提供するサービスがけん引する形で伸びています。特に昨年は、公共分野でインテリジェンスなどの提供が進みました。データの機密性が高い公共系で認められたことは、信頼の証しだと自負しています。
ただ、サービスのセグメントは、まだ大きくありません。セキュリティー対策のデータがあっても、ユーザー企業のエンジニアがうまく活用できないといった課題があるからです。そこで、専門のトレーニングを用意し、サービスのセグメントを盛り上げていきます。さらに、ここで得たノウハウを横展開することも考えています。
その他にも、セキュリティーにおける予測や検知、防御、対応といったあらゆるステージにおいて、当社は強力なラインアップを持っています。伝統的なエンドポイントという主力製品には引き続き注力しますが、さまざまなサービスを包括的に提供していくことが成長には欠かせません。こういった施策を堅実に取り組んでいけば、3倍という数値は決して絵空事ではないことが分かります。
マネージドサービスで
SMB向けの販売を強化
――企業向けで販売力を強化するには、販路の拡大が不可欠だと思います。パートナービジネスに関してはどうお考えですか。
当社は11年より法人向けのエンドポイント製品を提供していますが、認知に関しては課題を感じています。その解消には、パートナー戦略が欠かせません。現状のパートナーに対するフォローはもちろん継続していきますが、一番のプライオリティーに位置付けているのは、新しいパートナーのリクルーティングです。現在、競合製品を扱っているところも含め、活発に提案を進めているところです。パートナーを通してお客様に当社の製品をより広く、深く理解していただこうと思っています。
そして同時並行で進めるのは、製品の理解を深めていただくためのトレーニング体制の整備です。これまでもエンジニアと営業それぞれでトレーニングを実施していましたが、不定期でした。これをメニュー化し、当社が発信したい情報を定期的に届けていきたいと考えています。
――SMB(中堅・中小企業)向けの取り組みを強化するとの方針を打ち出されておりますが。
SMB向けの販売を強化するに当たり、独自の施策を用意しています。SMBのお客様は、セキュリティー専門の人材を確保できないため、何かあったときに自ら対応することができません。そこで、サービスという形でお客様のセキュリティー対策をマネジメントできるように、パートナーとの連携を強化します。
また、SMB市場に強いMSP(マネージドサービスプロバイダー)パートナー向けのトレーニングも提供します。これがMSPパートナーの強みとなるよう、トレーニング内容を充実させていきます。
さらに年内には、新たなパートナープログラムの導入を予定しています。従来のオンプレミス製品を販売するパートナー向けの新しいプログラムを用意しますので、ぜひビジネスの活性化につなげていただければと思います。
[次のページ]「当社にかけられた疑惑は業界全体の問題だ」