「当社にかけられた疑惑は
業界全体の問題だ」
――カスペルスキーは17年、米国政府の調達企業リストから排除されました。それによって、近年は透明性に関するアナウンスを強めていると感じます。
確かに、当社は地政学的な問題やバックボーンの関係で根拠のない疑惑をかけられています。そもそもの話ですが、セキュリティーというのは1社では成り立ちません。いろいろな企業である程度連携した状態で初めて脅威から守ることができます。その意味では1社だけを排除するというのは非常にナンセンスです。
さらに、この疑惑というのは当社単体の問題に限らず、セキュリティー業界全体に及ぶ可能性があります。業界全体が変革の時を迎えているといえるでしょう。当社は、このパラダイムシフトを他社に先駆けて推進していこうと考えています。
――具体的にどのような施策をお考えですか。
昨年11月から当社が取り組んでいる施策は大きく二つ。データの移行とソースの開示です。まず、スイスのチューリッヒにデータセンターを設置しまして、お客様の脅威データをモスクワから移行し始めています。スイスはグローバルで見ても非常に厳格なデータ保護法が施行されているため、その分、セキュアな環境でデータを保管できるようになるでしょう。そして、同じくチューリッヒに当社が持つソースコードや試作品を確認できる施設「Transparency Center」を設置しました。物理的な施設を用意することで、当社の裏側で何も起こっていないことを目で見て確認していただけます。この施設は今後、アジア地域や北米、場合によっては欧州へと増やしていく予定です。
また、お客様の要請に応じて、プロダクトの動作や振る舞い、アップデートの内容などをつぶさに確認できるようにします。お客様が自社でソースコードを調査したいというのであれば、もちろん対応したいと考えています。
今回は地政学的な問題で当社がハイライトされましたが、先ほども申し上げた通り、これは業界全体の話です。どんなセキュリティーベンダーでも抱える問題だと認識しています。そのため、透明性に関わる活動は、同業他社にも取り組んでいただきたいですね。
Favorite Goods
1838年創業、フランスの老舗シャツメーカー「Charvet(シャルベ)」のネクタイ。パリの本店でオーダーメイドした一本で、オーダーに3時間かけたこだわりの品。このネクタイを締めることで、気持ちが引き締まるのだという。
眼光紙背 ~取材を終えて~
終わらない戦いの中で顧客視点のセキュリティーを目指す
データの重要性が増している現在、いかに自社の情報資産を守るかは企業にとってますます無視できない課題になっている。一方で、攻撃者は日々新たな脅威を生み出し続ける。セキュリティーベンダーと攻撃者の戦いはいたちごっこの状態で、どれだけ堅牢なセキュリティーを作っても突破される可能性は消えない。
10年以上にわたってセキュリティー業界を渡り歩いてきた藤岡健社長は、この「終わらない戦い」の第一線で奮戦してきた人物。ファイアウォールベンダー出身のキャリアは、一見エンドポイント製品が主力のカスペルスキーとは領域が異なるように思えるものの、「セキュリティーではお客様の課題に対して何ができるかという視点が大切」と藤岡社長は語る。さまざまな可能性を加味した総合的な提案で多くの企業を守ってきた。
米政府の調達企業リストから排除されるなど、同社の事業環境は決して追い風ばかりではない。国際政治のうねりにも巻き込まれながら、いかにして日本市場の売り上げを伸ばしていくのか。新社長の手腕に注目が集まる。
プロフィール
藤岡 健
(ふじおか つよし)
大学卒業後、日本IBMなどでマネジメント職を歴任。日本ネクサウェブで代表取締役社長に就任し、日本CAでは執行役員副社長として営業部門を統括。チェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズの代表取締役社長、ソニックウォール・ジャパンの代表取締役社長を経て、2018年12月カスペルスキーに入社。19年1月から現職。
会社紹介
1997年設立で、露モスクワに本社を置くグローバルセキュリティーベンダーKaspersky Labの日本法人。日本法人の設立は2004年で、セキュリティー製品やソリューション、脅威インテリジェンスを法人から個人ユーザーまで幅広く提供する。グローバルでの事業展開は200の国と地域にわたり、全世界で27万社の法人ユーザー、4億人の個人ユーザーを持つ。