独自商材やDC活用ビジネスが伸びる
――これまでのご経験から、SIerのビジネスはどう変えていくべきだと考えていますか。
受注環境に大きく左右されるビジネス構造ではダメだということで、08年のリーマン・ショック以降は、キヤノンITS独自のビジネスやストック型のサービスビジネスを重点的に増やす方向へと舵を切ってきました。それを象徴するのが12年の西東京データセンター(西東京DC)の開設です。ラック換算で2300ラック相当の大型のもので、キヤノンMJグループとしては初めての大型DCでした。おかげさまでDCを活用したストック型のサービスビジネスは順調に拡大し、20年夏には2800ラック相当の規模で西東京DCの新棟を開業させる予定です。
――キヤノンITSの独自ビジネスとは、どのようなものでしょう。
例えば、当社が開発した製造業向けの需要予測システムと東洋ビジネスエンジニアリングの生産管理、当社子会社のスーパーストリームが開発している財務会計などを組み合わた「AvantStage(アバントステージ)」は、主に食品製造業のユーザーから高い評価をいただいています。
当社グループに迎え入れた旧アルゴ21や旧蝶理情報システムが強みとしていたEDI(電子データ交換)製品群は、そのまま当社の主力商材の一つです。EDIを巡っては、NTTのアナログ電話網やISDNがIP網へ切り替わるため、これらの回線を使っている従来型のEDIがインターネットEDIなどに移行し始めている段階です。向こう数年は商談が一段と活性化する見込みです。
また、超高速開発のツール「Web Performer(ウェブパフォーマ)」は、アジャイル開発に適していることから累計販売数が1000社を突破。向こう1年間で新たに300社に採用していただけるよう販売に力を入れています。
独自の付加価値を高めることでキヤノンITS単体では営業利益10%を堅持しつつ、売り上げ面ではキヤノンMJグループ全体のITS事業の向こう3年の年平均成長率5%超で伸ばしていく“成長エンジン”の役割を担っていく構えです。
Favorite Goods
国産ブランド「FIVE WOODS(ファイブウッズ)」シリーズの鞄を、かれこれ10年近く愛用している。傷んでくると、同じブランドの鞄を買い足して「今は3代目」とのこと。インタビューでは「先代」の鞄も持参してもらった。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「共創パートナー」に成長の可能性を見いだす
ITを活用した新しいビジネスを立ち上げるには「ユーザー企業とリスクを分担して、同じ目線でビジネスを創り出す“共創”がより重要になる」と、金澤社長は話す。
ユーザー企業の本業により近いところで最新のデジタル技術を活用し、売り上げや利益に直結するシステムをつくるには、ユーザーとベンダーがともに知恵を出し合い、試行錯誤しながらシステムをつくっていくことが必要だ。共創時代の契約形態は「双方がリスクと利益をシェアするかたちになる」と見る。
振り返れば、金澤社長のシステムエンジニアとしてのキャリアのスタートとなった旧住友金属システム開発時代は、同業者間の取引が多くを占めていた。発注者と受注者の関係である。今は、独自商材による元請けや、ストック型のサービス比率が高まり、利益率も改善。ビジネスのスタイルは大きく変貌している。
将来を見据えると、ユーザーとベンダーは共創する領域が一段と増える。「成長を続けるには、努力を惜しまず、自ら率先して共創パートナーになっていくことが大切だ」と話す。
プロフィール
金澤 明
(かなざわ あきら)
1959年、宮城県生まれ。82年、宇都宮大学工学部卒業。92年、住友金属システム開発(現キヤノンITソリューションズ)入社。2015年、執行役員SIサービス事業本部開発統括センター長。16年、上席執行役員SIサービス事業本部長(兼)ビジネスパートナー事業本部付事業本部長。17年、取締役。キヤノンマーケティングジャパン執行役員(現任)。18年、常務執行役員。19年3月25日、キヤノンITソリューションズ代表取締役社長に就任。
会社紹介
キヤノンMJグループの昨年度(2018年12月期)ITソリューション事業の売上高は前年度比8.6%増の1977億円だった。これを向こう3年で2300億円まで増やす。25年までの長期経営構想では3000億円の達成を視野に入れている。