サービス化はハード需要を増やす
――将来を見通して、ハードウェアで本当に差別化は可能ですか。
皆さん、その点、少し勘違いをしているのですよ。クラウドだ、SaaSだ、とサービス型のビジネスが伸びていることと、ハードウェアビジネスは相乗効果があるのです。むしろサービス型のビジネスが増えれば、デバイスの需要はより大きくなる。近年のキャッシュレス・サービスでは、現金時代には必要なかったカードやバーコードの読み取り装置の市場が生まれていますし、IoTはセンサーデバイス需要の宝庫。そうした市場の変化を先取りできれば、ハードウェアビジネスの商機はこれからもっと増えます。
枯れた商材と見られがちなPBX(構内電話交換機)でさえも、電話端末に取り付けたカメラの映像をスマートフォンやパソコンに転送したり、テレワークや在宅勤務のセキュアなネットワークとして活用したりと、大きく進化しています。
――課題があるとすれば、どのあたりでしょうか。
ややもすれば当社をはじめNECグループが、新しい市場のハードウェアのニーズを掴み切れておらず、海外メーカーとの競争に必ずしも勝てていなかった点です。ハードウェアで解決可能な課題領域は拡大しており、市場は今後も拡大していく。グローバル・ワンファクトリーの施策を一段と推し進めていくことで、競争力を高めてユーザー企業のニーズに応えていく。こうした取り組みによってビジネスを伸ばしていけると手応えを感じています。
Favorite Goods
三菱鉛筆の「クルトガ」。芯が回転して尖り続けることで、細い文字を書き続けることができる。コモディティ化したシャープペンでも、「みんながアッと驚く機構を考案できる」と、ハードウェア開発の可能性を体現したアイテムとして愛用している。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「鬼軍曹」の表情が一瞬和らいだ
入社して最初の仕事は、汎用機のACOSシリーズの設計だった。試作機に不具合が見つかるたびに工場に出向いて改修を依頼する。量産品の生産ラインが稼働する中、試作機の手直しは工場の大きな負担になる。手直しが続くと、現場の責任を担う班長は「口も聞いてくれなくなる」と振り返る。班長は、とにかく怖い「鬼軍曹」のような存在だった。
それでも、試作品の完成度を高めるために、粘り強く改修に応じてくれた。ある製品では、出荷直前になっても原因不明のエラーが出た。何十万本とある配線の中からオシロスコープで電波の波形を測定し、やっとの思いで端子の足が一つ浮いている接触不良を見つけた。
この不具合は、ハードウェアに精通しているメンバーでしか発見できないものだ。ハードウェア開発に従事してきて「やりがい」を感じた瞬間だった。鬼軍曹の強ばった表情も一瞬和らいだような気がした。
「ハードウェアがあって、はじめて解決できる課題は極めて多い」と、ハードウェア事業がNECグループの競争力の源泉であり続けるため、これからも奮闘していく構えだ。
プロフィール
福田公彦
(ふくだ きみひこ)
1960年、長崎県生まれ。83年、九州大学工学部卒業。同年、NEC入社。2005年、第二コンピュータ事業本部クライアント・サーバ事業部長。13年、執行役員。15年、NECプラットフォームズ取締役(非常勤)。16年、NEC執行役員常務。19年4月1日、NECプラットフォームズ代表取締役執行役員社長就任(NEC執行役員を兼務)。
会社紹介
NECプラットフォームズは、サーバーやPOSレジ、車載製品、通信機器、PBXなど九つの製品事業を担うハードウェア開発・生産会社。国内7カ所、海外2カ所(タイと中国)の計九つの主要生産拠点を展開している。2019年3月期の売上高は約3600億円。従業員数は約7000人。