レガシーなデータ保護は
DXの足かせになる
――日本市場でのビジネスの状況を教えてください。
私たちのビジネスはパートナーベースのモデルであり、直接販売はしていません。日本のSIer、ディストリビューター、そしていわゆるOEMのメーカーの方々も含め、このエコシステムにいる他社との間ですでに多くの対話の機会がありますが、クラウド接続の高速化や、ランサムウェア被害からの回復といったソリューションが彼らからの共感を集めています。つまり日本市場においても、ハイブリッドクラウド環境におけるレジリエンシー(回復力)を提供できる、モダンなAPIベースの自動化プラットフォームに市場ニーズがあるということです。早期の市場参入を図るため、すぐにお使いいただけるアプライアンス製品を中心に提供してきましたが、大企業のお客様の間では、サードパーティのハードウェアに当社のソフトウェアを組み込んでお使いいただくケースが主流となっています。
日本に参入したのは3年ほど前のことですが、これまでは日本でパートナー網を構築し、アーリーアダプターのお客様の要件を理解して、私たちの製品に反映するという、基盤づくりの段階でした。ここからは第二の段階に入り、この1年は日本市場に対しての投資を前年比2倍に増やします。企業だけでなく、公共機関の方々に対してもご提案を本格化したいと考えています。
――一定以上の規模の企業は、すでに何らかのバックアップ製品を利用しています。企業がルーブリックの製品を新たに導入するとしたら、何がきっかけになるのでしょうか。
ご指摘の通り、多くの企業や公共機関は重要なデータを持っていますので、何らかのデータ保護ソリューションを導入済みです。しかしながら、それらはクラウド化の加速のためには適切なテクノロジーでしょうか。ランサムウェアの動きに素早く対応できるでしょうか。
今、多くの企業がDXに取り組んでいます。アプリケーションは常に動いていないといけません。データはいつでもリカバリー可能であり、セキュアな状態であり、それと同時にコンプライアンスを満たし、なおかつデータセンターとクラウドの間の可搬性を担保しなければいけない。このような環境が整備されていてこそDXは成功すると考えています。われわれが提供しているデータマネジメントプラットフォームは、DXやクラウド化を加速したいお客様やパートナーが、まさに今必要としているものです。そのことを理解いただければ、スムーズに導入いただけるものと考えています。
――DXというとAIやIoTのような目新しい技術が注目されがちですが、成功のためにはバックアップを含むデータ管理のあり方をきちんと整理する必要があると。
私はオラクルでデータベースのカーネルを作っていたとき以来、とても長い間データとその周辺で仕事をしてきました。その私が近年目にしているのが、データ活用の仕方の変化です。10年ほど昔のIT管理部門を振り返ってみると、(アーカイブされた)データを活用する機会というのは、システムのリカバリーの際に限られていました。しかし、今はIT部門ではなく事業部門がデータの活用に目を向けるようになり、データのセキュリティやコンプライアンス、ガバナンスといったことを真剣に考えるようになってきました。DXの波が押し寄せたことで、データの活用方法や管理についての考え方が完全に変わったんです。私がクラウドデータマネジメントというビジョンの実現に情熱を注いでいるのも、このような背景があるからです。私は、ルーブリックこそが「バックアップ/リカバリー」から「包括的なデータマネジメントプラットフォーム」への市場変革を主導していると信じています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
企業データにとってのグーグルになる
エンタープライズITの世界でビッグネームとなったニュータニックスだけでなく、SNS管理ツールのフートスイート(HootSuite)や、スマートテレビ用アプリのピール(Peel)でも役員を務めるなど、幅広いテクノロジー企業の成長を投資家としてサポートしてきたビプル・シンハ氏。元はオラクルの技術者であり、データベースソフトウェアの中核部分の開発に携わっていた。
投資家として順風満帆なキャリアを歩みながらも、「これは自分のビジネスとしてやりたい」と創業したのがルーブリック。そのコンセプトはグーグルからインスパイアされたものだった。エンタープライズITの世界では、クラウドの登場で企業のデータが世界中に分散しつつある。グーグルが世界中の情報を整理し、誰でも簡単にアクセス可能としたように、事業に必要となる企業データをきちんと整理し、安全にアクセスできるプラットフォームを作りたいと考えた。
創業から数年が経った今、IT市場はデジタルトランスフォーメーション一色となり、「データは現代の石油」とまで言われるようになった。企業にとってデータの“資産価値”が上がれば、ルーブリックの価値も自ずと高まることになる。
プロフィール
ビプル・シンハ
Bipul Sinha(ビプル・シンハ)
インド工科大学カラグプール校で電気工学、米ペンシルベニア大学ウォートン校で経営学を専攻した後、ソフトウェア技術者となる。1999年から2008年には米オラクルでデータベースソフトウェアの開発に従事した。オラクル退職後に投資業へ転じ、09年には米ニュータニックスの設立に初期投資家、また役員(2017年まで)として参画。10年からはベンチャーキャピタルの米ライトスピード・ベンチャー・パートナーズでパートナー職を勤める(現職)。14年にルーブリックを設立しCEOに就任。
会社紹介
2014年、米カリフォルニア州バロアルトで設立し、15年に最初のクラウドバックアップ製品を発売した。クラウドを利用する組織のためのデータの保護・管理ソリューションを提供しており、最近ではデータ管理機能をSaaSとして提供するプラットフォーム「Polaris」を強化している。日本法人は16年設立。