目的はITの導入でなく
経営の向上
――TKCでは、会計事務所を通して中小企業の経営をITで支援するのも大きなミッションですよね。ここについてはどういった戦略を実施していかれるのでしょうか。
短期的には中小企業のみなさんのデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援していくことが重要だと思っています。日本の中小企業の半分以上は年商5000万円から1億円のレンジですが、規模が小さくなればITにかけられる予算も当然少なくなります。そういった会社が独力でDXに取り組めるかというとなかなか難しいでしょう。
そうした中小企業のうち、90%は会計事務所が関与しているとも言われています。本当にDXの支援ができるのは会計事務所だと考えていますし、当社が会計事務所を通じて提案していくことで中小企業のデジタル化を徐々に進めていけると考えています。
――中小企業向けの施策というと、フィールドは違いますが新興クラウドベンダーなども力を入れている印象があります。彼らとの違いはどこにあるのでしょうか。
この領域はいろいろな会社が支援したいとおっしゃっていますよね。業界としてもさまざまなスタートアップが凄い勢いで機能を改善しています。ただ、これは私見ですが、そういったサービスはツールを使いこなすことを楽しめる人でないと使い続けるのは難しいように思います。本来そういった活用支援はベンダーがサポートするべきところですが、中には取り残されてしまっている人も多いのではないでしょうか。
正直に申し上げますと、現在各方面から言われている中小企業のデジタル化は目的と手段を履き違えているように見えます。本来の目的はITの導入ではなく、経営を向上させるためにITを使いこなすことです。当社ではITツール自体がよくわからなかったり、怖くて触れない人たちに向けて、会計事務所と当社の全国の営業所が人的サービスも含めたアプローチを行っていくつもりです。実際、19年10月からは新規開拓よりも既存顧客のサポートへと軸足を移しています。
――既存のサービスの利用を拡大させる施策が、そのまま新興ベンダーとの差別化になるのですね。中期的な戦略としてはいかがでしょうか。
今後、業界全体のデジタル化がよりドラスティックに進んでいくことから、われわれ自身も変わっていく必要があるでしょう。プロダクトミックスを変えていくことによって利益率を向上させていきます。
当社のビジネスエコシステムは歴史があるので、ある意味では変化を望まない層がマジョリティとなっています。そこを上手にスライドさせ、当社も含めて一緒に変化していきたいですね。
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Goods
ドイツで会計事務所向けのビジネスを展開するダーテフ社と提携しており、毎年ネクタイを交換している。「同じ国にいたら一番のライバルだった」としながらも、その関係はお互いのビジネスのコアにもつながる強靭なもの。ネクタイは、その強い絆の証しだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
会計事務所の価値は こんなものじゃない
飯塚真規氏の社長就任で創業家に経営のかじ取りが戻ったかたちのTKC。そのことについて尋ねると、「創業家どうこうというのは自分自身では意識していない。そもそも、創業家出身だから社長になれるという会社ではない」と語りつつ、「そういう立場だったからこそ、若い時から全国の重要なお客様とお話しする機会があったり、恵まれた環境ではあった。まさにお客様に育てていただいたという感覚は持っている」と振り返る。
社長としてのモチベーションの源泉は、TKC入社以前の会計事務所での経験にあるという。何人もの顧問先企業の経営者との仕事を通じて、時には「自分の力不足でご迷惑をかけ」ながら、会計事務所が持つ潜在的な価値を意識するようになっていった。「今思えばもっといいサービス、もっといい仕事をあの社長さんに提供できた」という思いが飯塚社長を突き動かしている。
プロフィール
飯塚真規
(いいづか まさのり)
1975年、栃木県生まれ。立命館大学文学部卒業。会計事務所に勤務後、2002年に入社。会計事務所事業部で営業を経験しながら、10年に取締役執行役員、12年に取締役常務執行役員、14年に取締役専務執行役員を歴任。19年12月20日付で現職。
会社紹介
1966年設立。資本金57億円、従業員数2288人。会計事務所向けシステムや、その顧問先企業への財務会計システム提供を中心とする会計事務所関連事業大手。もう一つの主力事業である地方自治体向けシステム事業でも、自治体クラウドなどをいち早く展開してきた。2019年、ユーザー会でありパートナー網でもある「TKC全国会」の全国会員数は1万1400人に達した。