ユーザーとベンダー
そして自身の三方良し
――システムのパッケージ化が適さないと見られていた領域でチャレンジする理由とは。
こうした専門領域でのナレッジがこれまではどこにも集約はされてこなかったわけですが、私たちには一般企業を含めた多くの導入実績がありますので、それを生かせるのではないかと考えました。また、以前、既存顧客の一覧を分析したことがあるのですが、これまで数多くの一般企業にお使いいただいている中で、社会インフラ関連のユーザーも数社ありました。彼らはパッケージ製品を部品として安く導入してくれていて、パッケージそのもののメリットは評価してくれていました。
社会インフラ領域へのパッケージ展開という戦略はそこから着想を得たわけですが、このビジネスの特徴はセールスタイムが極端に長いことにあります。基本的には3~5年では決まらず、7~10年以上かけないとクロージングしません。例え一つのプロジェクトの規模が大きくても、一般的な営業はどうしても目の前の数字を追ってしまう。そこで、この際短期的な採算は度外視して、戦略的に攻めていくために16年から専門チームを構築しています。
実際に活動を始めてみるとやはり多くの企業にご興味を持っていただけました。パッケージの場合、オーダーメイドでつくるのと比べて3割近くコストカットできることも多く、その安さが相手に刺さっているようです。
また、パッケージという提供形態はパートナーのSIerにとってもメリットがあります。固定資産という領域がそもそもマニアックということもありますが、法改正がかなり多いためパートナー自身が展開するにはサポートなどの対応で手がかかるのです。ある意味、自分たちのビジネスの足かせになってしまうため多くのSIerなどは手を出していない領域なのですが、そこをわれわれがパッケージで展開することで手離れのいいソリューションとして扱ってもらえるのです。
――ユーザーにとっても、パートナーにとっても、そしてプロシップにとってもメリットがある三方良しの戦略ということですね。社会インフラ領域は企業数が少ないところでもありますが、そこはビジネス規模でカバーするのでしょうか。
そうですね。さすがに1社2社では赤字になってしまいますが、3社以上に導入していただければ採算が取れますから。何よりお客様のコストを3割も削れるのであれば、ということで積極的に注力していこうと考えています。専門の営業チームを作り、パッケージを拡充する。そして一つ一つの案件を確実に成功させる体制を作っていく。こういったことを愚直にやっていけば具体的なプロダクトがアウトプットとして出てきますし、導入するまでのナレッジを蓄積することができます。あとはそれを横展開していくという流れです。まずは成功事例を一つ作ることですね。
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企画書の作成や原稿執筆といった作業はノートと万年筆のほうが生産性が高いという山口社長。成田空港で偶然見つけた万年筆とインクが染み込みやすい紙質のノートを活用している。「抽象的な発想をアウトプットするには紙が一番」とのことだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
“社長”としての目標はない
在任期間中にこれだけは成し遂げたいという目標はあるか――。そう聞いたとき山口社長は「ダメな経営者かもしれないが、特にない」とざっくばらんに答えた。謙遜ともとれる言葉だが、「今会社が取り組んでいる成長戦略をしっかりとやっていく。これだけで今のビジネス規模を2倍、3倍に広げることができる」と語る。プロシップでの実績に裏打ちされた戦略は明確だ。IFRS適用の需要獲得、グローバル規模での顧客開拓、固定資産管理の周辺業務のシステム化などやることが決まっていれば気負う必要もない。
「私は創業者ではないが、サラリーマン社長だとも思っていない。たまたま影響力のあるポジションにいるだけで、私がやることは期待を寄せてくれるみなさんに応えるだけ」。そんな山口社長の姿勢は、事業の専門性と継続性をセットに手堅く成長しつつも時代に求められるソリューションを確実に提供していくプロシップのビジネスに重なっている。
プロフィール
山口法弘
(やまぐち のちひろ)
1977年生まれ。佐賀県出身。2002年に入社、営業畑を中心に同社の事業拡大に貢献する。12年に取締役、15年にFS営業本部長、17年に代表取締役副社長を歴任し、19年4月で現職。
会社紹介
資本金4億6600万円。従業員181人。固定資産システムやリース資産管理システムを中心とした総合固定資産管理ソリューションを提供する専業ベンダー。主力のProPlusシリーズは上場企業を中心に累計約4800社に導入されている。2019年3月期の売上高は44億4300万円。20年3月期では50億円を予想している。