2014年、ソニーのPC事業売却で生まれた「VAIO株式会社」。苦しい再スタート期を経ながらも、法人向けPC販売の拡大で黒字へと転換。Windows 7のサポート終了というPC業界の転換点において、19年8月に新社長となった山本知弘氏は、VAIOらしいプロダクトを日本全国へ届けることで、さらなる成長を目指す。
PC販売の8割が
法人向け
――PC市場では、今年1月にWindows 7のEOSという大きなイベントがありました。
EOS需要では、当社もかなり伸びました。あくまで社内調査の数字ですが、市場全体の伸びを上回る成長ができたと感じています。取り組んだこととしては、まず製品ラインアップの拡大が挙げられます。もともとモバイルノートPCで11型・13型のモデルを提供していましたが、昨年1月に14型、7月に12型を新たに発売しました。これによって、当社の製品をお届けできる範囲が広がりました。
また、ここ数年取り組んできた法人向け営業体制の強化も継続しており、日本を代表するような大手企業に、1万台単位で全社的に導入していただいた例もあります。昨年は、当社全体の8割程度が法人向けチャネルを通じた販売でしたので、企業のお客様の広がりが業績につながったと思っています。量販店やオンラインといったコンシューマー向けチャネルで販売した製品も、実際には個人事業主の方にご利用いただいたり、会社用のデバイスをお店でお買い上げいただいたりするケースもありますので、今ではビジネスの生産性を高めるためにお使いいただくユーザーが、VAIOの中心だと考えています。
――PC市場全体のトレンドが、薄くて軽い機種へとシフトしているように見えますが、VAIOとしてもそれは実感しておられると。
当社は薄くて軽いものばかりなので、(シフトしているかどうかは)実は分からないのですが(笑)。働き方改革で「どこでも仕事ができるように」というニーズは確実に高まっており、必然的に、お客様が求めるのは薄くて軽く、さらに丈夫な製品になっています。法人でお使いいだたく以上、頼れるPCであることは絶対に外せない条件です。当社が本社をおく長野県の安曇野工場でも、落下、粉じん、温度環境といった試験は相当こだわって実施しています。
残り6割の市場に
販路を拡大
――販売戦略に関して、20年の重点施策を教えてください。
当社が明らかに開拓できていないのが、首都圏以外の地方です。18年の集計では、B2Bのお客様の87%以上が首都圏の法人でした。これは、日本で働く人の約4割しかビジネスの対象にできていなかったことを意味します。残り6割のお客様にも密接なサポートを提供すべく、まずは大阪と名古屋にオフィスを開設しました。東京以外のお客様にもVAIOをもっとよく知っていただき、ビジネスでも安心して使っていただける体制を構築します。
――今年のPC市場は、全体としては“EOS特需”の反動減が避けられないと思いますが、地方を開拓することでその穴を埋められそうですか。
もちろん、地方への営業の拡大だけで反動減を吸収できるとは考えていませんが、今年も横ばい以上、できれば伸ばしたいと思っています。ソニーから独立した当初、VAIOには営業部門がありませんでした。試行錯誤しながら自前の営業部門を作り、幹部も含め外部から多くの人材に来てもらったことで、今では営業力自体が相当上がってきました。地方開拓は一番わかりやすい施策ですが、首都圏の深掘りもまだまだです。「ある業種で採用していただくケースが多い。その提案ノウハウを他のお客様にも転用できないか」「部門単位で導入していただいたお客様に対して、全社的に広げるにはどうすればいいか」といったように、お客様ごとの戦略的なアプローチが、営業体制の強化によってかなりできるようになってきました。当社は市場全体からすると、シェアはまだまだわずかですので、地域拡大と深掘りがうまくいけば、反動減は乗り越えられるのではないかと思っています。
――販売チャネルの拡大ではどのような考えをお持ちですか。
大阪と名古屋には拠点を出しましたが、私たちは全国津々浦々に営業所を設けられるような会社ではありません。全国の販売店やSIer各社の力を借りないとできないので、関係の強化に努めているところです。これまでは、せっかく声をかけていただいても当社側の体制が不十分だったためビジネスが停滞するケースがあったりしました。今回、営業とサポートの体制を強化しましたので、VAIOの取り扱いに関して課題があれば、こちらからお伺いしてその解消に努めていきます。
手前勝手な言い方かもしれませんが、「VAIOのPCは“いいもの”である」とご存じの方はこの業界に少なくありません。当社が今はB2Bにも力を入れていることを知っていただくことで、法人のお客様にも安心して提案できる製品だという認知を広げていきます。最近は、オフィスを美しく整えるなどスタイリッシュに働ける環境を用意することで、従業員のモチベーションを高めようとする企業が増えてきました。従業員が楽しく、かっこよく働ける環境を作りたいという企業には、機能美を持ちながらビジネスでの利用に耐えうる堅牢性を持つVAIOは、おすすめしやすい製品だと考えています。
――文部科学省が「GIGAスクール構想」を打ち出し、多くのメーカーがここに向けてエントリーモデルを投入しています。
1人1台のPCを使って学習をする構想は素晴らしいと思います。ただ、当社が現在手掛けている製品は基本的に10万円以上なので、GIGAスクール構想向けの4~5万円台の製品を当社でも作るのかと言われれば、今の時点では難しい。ただ、各学校にもいろいろな考え方がありますので、当社製品の価値に共感していただける学校に提案する機会を作れたらいいとは思っています。また、文教には小・中・高校だけではなく大学もあります。大学教員や研究者の方々には根強いVAIOファンもいらっしゃいますし、大学生が就職を意識したときに、ストレスなく使えるファーストPCとして、VAIOはいい選択肢だと考えています。GIGAスクール構想の流れに乗れないのは残念ですが、文教市場については、VAIOなりにできることを探して取り組んでいきたいと思います。
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