2013年、日本企業で初めてAWSの最上位パートナーであるAPNプレミアコンサルティングパートナーに認定され、AWSの成長と軌を一にするように有力クラウドインテグレーター(CIer)として存在感を高めてきたアイレット。17年のKDDIによる買収を経て、近年ではグーグル・クラウドのプレミアサービスパートナー認定を取得するなどマルチクラウド戦略を鮮明にしている。そして今年4月、創業以来社長を務めてきた齋藤将平氏が会長に就任し、KDDI出身の岩永充正氏が社長に就いた。アイレットの針路は大きく変化することになるのか。
想像以上の “暴れん坊”だった
アイレット
――岩永さんはKDDIのご出身で、新規ビジネスのアライアンス推進なども担当されていたとうかがいました。もともとアイレットという会社をどのように見ておられたのでしょうか。
KDDI時代、ゲームの提供を手掛けていた時期があって、その時に運用を任せられるベンダーがいないかということで齋藤(将平現会長)と話をしたのがきっかけで付き合いが始まりました。16年頃のことです。
その後、KDDIはアイレットを買収するわけですが、当初は一ベンダーという位置づけで見ていましたし、通信キャリアがアイレットを本当に生かせるのかというネガティブな見方をしていたところもあったというのが率直なところです。一方で、KDDIにとって次の大きなビジネスのプラットフォームはIoTだと考えていて、そこに集まってきたKDDIのパートナーの開発をサポートしていく存在が必要だったんです。クラウド活用支援の第一人者としてここを担ってもらえるのではという思惑がグループ会社化を後押ししました。次世代のKDDIのエコシステムの核を担ってもらう存在としてシナジーを期待したということですね。
――17年2月には買収・子会社化とともに副社長としてアイレットに参画されたわけですが、それまでと印象は変わりましたか。
パートナーとしての付き合いはあったわけですが、アイレットがどんな会社なのか、それほど明確に外から見えていたわけではないんですよ。きっと、よくも悪くも暴れん坊の会社なんだろうとは思っていましたけどね。で、中に入ってみたら、本当に暴れん坊だった(笑)。
――予想以上だったと(笑)。
とにかくKDDIとは全く違いましたね。一人一人が主体的に動き、その瞬間瞬間で正しいと思ったことを実行して、お客様からの信頼を得ている。組織的に統制がとれている文化しか知りませんでしたから、衝撃でしたよ。
――岩永さんのミッションというか、この3年間やってきたことを教えてください。
アイレットの自由な文化だからこそのパワーというのはもちろんあるんですが、KDDIグループの一企業になったわけですから、不祥事は困るとか、社会的な信頼を失っては困るということは当然として、何よりもグループ全体の利益の成長に貢献するという視点が必要になります。入社してしばらく経って、ある程度の統制がないと会社として継続的に成長することが難しい段階になってきていると感じました。目標の共有や意思決定のプロセスの明確化といった新しい要素をアイレットの経営や事業に組み入れていったという感じです。
KDDIとのシナジーで
商機が拡大する5G元年
――岩永さんが今回社長に就任されたのは、KDDIグループとしての統制をさらに強化するという目的なんでしょうか。
KDDIグループとしてのガバナンスで必要な要素はこの3年で整備できたと思っています。細かくコントロールしたいわけではなくて、グループとして同じ方向を向けるようにするのが大事だと思っていて、それはある程度達成できました。
今年は5G元年という大きなトピックがあったのが大きいです。各キャリアは5Gビジネスに当然ものすごく力を入れるわけですし、5GベースのIoTやVR、ドローンなど、さまざまな新しいソリューション、ビジネスもどんどん生まれます。そうなると、先ほどお話ししたようなアイレットの実力を発揮すべきフィールドがどんどん増えてくる。その時に、KDDI本体とのシナジーを意識した舵取りに適任だと判断してもらったのだと理解しています。
――創業者である齋藤会長との役割分担はどうイメージされていますか。
齋藤はさまざまなところでコネクションを築いて信頼を得て大きい仕事を生むというような、外部との関係づくりに大変優れています。社長という肩書の下に社内のガバナンスも含めて担当しなければならないとなると、その良さが棄損される場面もなかったとは言えません。いわゆるトップ営業など、これまで齋藤がアイレットを大きくするために果たしてきた役割に集中してもらうというのも今回の人事の一つの狙いです。
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