コンテンツデリバリーネットワーク(CDN)大手のクラウドフレア(Cloudflare)が7月、日本法人を設立した。代表に就いたのは、シトリックス・システムズ・ジャパンで前社長を務めた青葉雅和氏。CDNというとコンテンツ配信のイメージが強いが、これから注力するのは、クラウドから提供するエンタープライズ向けセキュリティ機能だという。日本市場本格進出にあたっての戦略を青葉代表に聞く。
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――これまでシスコ、ブロケード、シトリックスと、強固な顧客基盤を持つ企業で活躍されてきました。クラウドフレアはそれらと同じネットワークの領域でサービスを提供する事業者ですが、国内ではまだスタートアップと言ってもいい事業規模です。どうしてこの会社に興味を持たれたのですか。
いま全てのシステムがクラウドに移っていこうとしていて、日本企業でもようやくクラウドシフトが進み始めました。となると、もうネットワーク製品もハードウェアの時代ではないのではないかと考えたんです。「ネットワークの世界も本当にクラウドへ向かうのか」という議論はありましたが、物理的な伝送路以外、例えばデータセンターの出入り口部分にあるファイアウォールやロードバランサーのような機能は、今後クラウド化していくだろうとみています。私自身、これまでネットワーク製品を売ってきた人間ですが、ネットワークのクラウド化はこれから面白くなりそうな分野だと思い、クラウドフレアに来ました。また、「より良いインターネットの構築を支援する」という企業ビジョンにも引かれました。
――スイッチやケーブルのようなデータ伝送のためのハードウェアは企業内に残っても、それ以外の機能はどんどん仮想化されてサービスになっていくという考え方ですね。
お客様からしたら、ネットワークやセキュリティの機器を扱うエンジニアを確保して、スキルを育成して、運用していくのは負荷が高いわけです。しかも、ほとんどの企業にとってセキュリティリスクは共通ですから、多くの企業が同じようなセキュリティ対策をしている。いろいろな機械を買って、同じような設定を各企業でバラバラにやっている。本来、企業はアプリケーションをどうするかにフォーカスしなければならないのに、そうでないところにかなりの力を注いでいることになります。これは、クラウドから提供すれば十分なのではないかと。
――現在はWebアプリケーションを保護するエンタープライズ向けセキュリティサービスに注力しているということですが、クラウドフレアというとコンテンツデリバリーネットワーク(CDN)大手というイメージも強いです。
確かに当社はCDNで有名ですが、今ではCDNは事業全体のうちの一部という位置付けです。その前提でお話しすると、現在でもCDNの需要は非常に大きいです。特に今年は新型コロナウイルスの影響でイベントがオンライン化され、コンテンツ配信のニーズはますます高まっています。外出を控える人が増えたことから、EコマースなどのWebサイトでもアクセスが増加しており、競合サイトへの流出を抑えるため少しでもレスポンスを速くしたいということになると、CDNの出番ということになります。
――「業界で何番手」といった言い方はできるのでしょうか。
CDN市場の測り方はいくつかあるので一概には言えませんが、何らかのCDNを導入しているWebサイトのドメイン名のうち、約8割がクラウドフレアを利用していると見ており、ドメイン数では当社が世界1位です。ただ、当社は無料で利用可能なプランでも、Webサイトのパフォーマンスとセキュリティを飛躍的に高めることができますので、大半は無料のユーザーで、数で言えばスタートアップやSOHOの規模のお客様が多くを占めています。
――無料プランはあくまで“お試し版”で、有料へのアップグレードを前提とする事業者が多い中、無料でエンタープライズクラスのパフォーマンスを提供しているのは珍しい印象です。
「大部分のユーザーがお金を払っていないのに、何でビジネスが成り立つのか」とよく不思議がられます。ただ、そのおかげで、少しギークなエンジニアなら、個人として当社のサービスを実際に利用しているという人も多く、潜在的な支持層を広げるのに役立っています。
加えて重要なのは、世界中のWebサイトで何が起きているかを真っ先に知るためには、ユーザー数が多いことが強力な武器になるという点です。攻撃者は最初から大手企業のサイトに攻撃を仕掛けるのではなく、まずは小さなサイトで攻撃手法の検証などを行うと言われています。そのような目立たない攻撃も当社は見つけることができるので、攻撃者が本格的な攻撃を行うころには対応済みで、大規模な被害を未然に防げるというわけです。実際に昨年、米国のある金融機関が攻撃を受けそうになったのですが、その攻撃は無料プランのユーザーで経験済みで、既に対応するためのコードが入っていたので、金融機関への攻撃は失敗に終わりました。
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