「データ2.0」時代の
真のプラットフォーマーに
――GAFAのような企業へのアンチテーゼということでしょうか。
そのとおりです。彼らは第三者にデータ提供はしないというプライバシーポリシーを前面に出していますが、それはつまり、データは自分たちが独占しますと言っているようなものです。グーグルのグループ会社がトロントのスーパーシティ計画から撤退しましたが、そこにはいろいろな情報を勝手に収集されることに市民側が抗議して、折り合いがつかなくなったという事情があります。自分のデータをどうするかは自分が決められる状態でなければならないというのはその通りで、東芝グループが東芝データを核に進めようとしているビジネスモデルはまさにそういうものです。
――東芝データの第一弾事業である「スマートレシート」やTDSLが中核となって提供している共創型IoTプラットフォーム「ifLink」は、確かにオープンなプラットフォームを提供しているという印象です。
PCやスマートフォンからデータを収集・活用する「データ1.0」の時代は終わりつつあります。これまで活用されてこなかったフィジカルな世界のデータもIoTなどで収集し、新たな価値創造につなげる「データ2.0」の時代に移る転換点に来ています。
そして、データ2.0を実現するコア技術がCPS(フィジカルデータを収集し、サイバー世界でデジタル技術などを用いて分析したり活用しやすい情報や知識に変換してフィジカル側にフィードバックする仕組み)だと位置づけているんですが、このCPS上にデータが自然に集まり成長していくプラットフォームをつくる必要があります。スマートレシートもifLinkもそういう考え方でつくっています。キーワードは「スケールフリーネットワーク」ですね。
――スケールフリーネットワークとは。
例えばインターネット上では、ほんの一握りのWebサイトが膨大なリンクを持ち、大半のWebサイトはごく少数のリンクしか持っていませんが、リンクをたどるとどこかでほとんどがつながっている。この状態がスケールフリーネットワークです。このスケールフリーネットワークの構造を持つプラットフォームは、イノベーションを起こす力が非常に大きい。
Facebookなどはまさにその典型で、データ1.0の世界でも、成功したプラットフォーマーのビジネスの本質は、スケールフリーネットワークの「場」をつくってきたということです。コトづくりではないんです。でも、CPS上にスケールフリーネットワークをつくった会社はまだ存在しない。東芝グループはそういう存在になろうとしています。その考え方に賛同してわれわれのエコシステムに参画してくれている企業がどんどん増えています。スマートレシートやifLink以外にもたくさん弾が増えて、連射できるくらいになっていますよ(笑)。
――データ2.0時代の真のグローバルなプラットフォーマーになるということですね。その戦略の中で、島田さんは東芝本体、TDSL、東芝データでそれぞれ役割を持たれているわけですが、各立場の違いは意識して仕事をされているんでしょうか。
個別最適という考え方はしないですね。客観的に東芝グループ全体にとって何が最適かが極めて重要で、強みのある機能を集約して価値に変えていく必要がありますから。
東芝には、量子インターネットの世界を実現するための根幹となる量子暗号通信技術など、オンリーワンの素晴らしい技術が多くあります。次世代のインターネットは東芝の技術がなければ実現できないということになれば、GAFAって小さい会社だねという状況になる可能性だってある。そこを本気で目指して、過去の失敗からも学びながらビジネスを構築しているところです。東芝は、世界の次のデファクトを本気で取りにいきますよ。
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「持ち物にはこだわりがない」というものの、普段仕事で使うDynabookには愛着がある。「自分の会社が育てたブランドのPCを使えるのは幸せなこと」
眼光紙背 ~取材を終えて~
理念への共感が新たなビジネスの扉を開く
東芝グループのデジタル戦略をけん引するリーダーとして、外資系大手企業から転身した。「もともと本当に素晴らしい会社だと思っていたし、入った後はそういう思いはさらに強くなって、もう、むちゃくちゃ東芝ラブという感じ」と笑う。
東芝の企業理念「人と地球の明日のために」というメッセージへの共感が、その根幹にはある。「この理念は本当に見事で、大事なのは形容詞が一切ないということ」と話す。どういうことか。「“きれいな人”とか、“きれいな地球”とかじゃない。対象のイメージが形容詞で限定されていないところが素晴らしい。この話をするたびに涙が出そうになる」。人のため、社会のため、未来のために、広く便益や幸福をもたらすことを目指しているという志に胸を熱くする。
フィジカルデータを流通させるプラットフォーマーとしてのビジネス立ち上げも主導しているが、これからのデータビジネスはまさにこの理念に基づいたものであるべきだという。時代の転換点にある今こそ、社会に広く貢献しよういう理念が市場にも求められていると感じているのだ。
プロフィール
島田太郎
(しまだ たろう)
1990年4月、新明和工業入社。99年、SDRCに移籍(後にUGSコーポレーションおよびシーメンスAGと合併)。2010年、シーメンスインダストリーソフトウェア日本法人の社長兼米国本社副社長に就任。15年9月、シーメンス日本法人の専務執行役員・デジタルファクトリー事業本部長・プロセス&ドライブ事業本部長。18年10月、東芝に入社し、コーポレートデジタル事業責任者に就く。19年4月、執行役常務・最高デジタル責任者(CDO)・サイバーフィジカルシステム推進部担当・サイバーフィジカルシステム推進部長。同10月から東芝デジタルソリューションズの取締役常務も兼務。20年3月に東芝デジタルソリューションズの社長に就任。
会社紹介
社会インフラや各産業分野に幅広くハードウェア、システム、サービスを提供する日本を代表する電機メーカー。現実世界のさまざまな分野の情報やデータを収集し、サイバー空間でAI・デジタル技術を用いて分析したり活用しやすい情報や知識に変換し、フィジカル側にフィードバックして付加価値を創造する「サイバーフィジカルシステム」をコアにしたビジネスモデルへの変革を進める。2019年度(20年3月期)の連結売上高は3兆3899億円。東芝デジタルソリューションズはグループのデジタル戦略の中核を担う。