フォーティネットジャパンは、次世代ファイアウォール「FortiGate」を多くのSMB(中堅中小企業)に導入してきた。SMBが大多数を占める日本企業のセキュリティを支える存在と言える。セキュリティ市場においてトップ集団の一角の地位を確立した同社だが、高成長の背景には、2012年1月に社長に就任した久保田則夫氏の存在がある。これまでの取り組みや国内のセキュリティ動向、今後の展望を聞いた。
(取材・文/岩田晃久 写真/大星直輝)
30人から500人規模に成長
──社長に就任して11年目となりました。高成長を遂げていますが、どう振り返りますか。
当社に入社するまでに多くの経験をしてきた中で、30人程度の小さな組織を大きくすることが得意となりました。この規模の組織の場合、優れた技術を持つものの、どこかに課題があり事業が滞っているケースが多いのですが、理由は見つけやすくもあります。私が入社した当時のフォーティネットジャパンも30人くらいの組織でしたが、社長就任後、すぐに課題を見つけ、手を打ったことで売り上げも伸びていきました。
売上高が年々伸長する中で、社員も増え、現在は、フォーティネットジャパンだけでも約300人、買収した企業の社員を含めると国内は500人以上の組織になりました。転職が多いセキュリティ業界では珍しく、創業当時のメンバーが多く残っているのも当社の強みとなっています。
また、SMB市場を得意としていることも成長要因の一つです。エンタープライズ市場は、アップダウンが激しい日本経済の影響を受けやすく、景気が良い時は大きく伸びますが、悪い時は大きく鈍化します。SMB市場は、良い時の伸びはエンタープライズ市場ほどではないものの、景気が悪くなった際にも、大きくは沈まないのが特徴です。こういったフラットな環境でビジネスを展開し、着実に売り上げを伸ばし、そこで得た利益をさまざまなところに投資できたのも(成長を継続できた要因として)大きかったですね。現在では、SMBに加えてエンタープライズの開拓にも注力しています。お客様とディスカッションを重ね、提案することで、当社の製品を採用するエンタープライズ企業は着実に増えています。今後も、この流れを加速させていきます。
――国内企業のセキュリティへの意識は変わってきているのでしょうか。
セキュリティ意識は向上している。これは事実です。以前は、セキュリティは投資に対して利益を生むわけではないとの考えから、後回しにする経営層も多かったのですが、われわれは、セキュリティはビジネスの基本だということを長年にわたり唱えてきました。そうした中で、最近ではエンタープライズ企業の経営層を中心にセキュリティへの投資を重視するようになってきています。
一方のSMBでも、サプライチェーンを狙ったサイバー攻撃が急増しているといった背景から、セキュリティを強化する流れが加速しています。ただ、少しセキュリティ機能を搭載しているルータを導入するだけ、といった対策を取っている企業がまだまだ多いのも現実です。そういった企業に対して当社製品の提案を進めていきたいです。
自社開発のチップで差別化
――FortiGateは多くの企業で利用されています。支持される理由はどこにあるのでしょうか。
FortiGate 1台で、ファイアウォールやVPN、Webフィルタリング、プロキシなどさまざまなセキュリティ対策を賄えるというのが、まずは大きな理由です。
そして、他社の次世代ファイアウォール製品との大きな差別化ポイントが、製品に搭載している「FortiASIC(エーシック)」というチップにあります。このチップにより高速処理が可能となります。米国本社のケン・ジーCEOが以前「速いということは何より重要」だと話しており、実際、開発のために多くの投資をしてきました。あるセキュリティ企業の人には「フォーティネットはFortiGateではなくFortiASICの会社だよね」と言われたこともあるくらいです。高機能なチップでは、新たなソフトウェア機能をすぐに載せられる点も強みとなります。機器のパフォーマンスを落とすことなく新機能を利用できることでお客様は満足し、結果として長く製品を使っていただけます。
――FortiGateを扱うパートナーも多くいますね。
FortiGateはさまざまなサイズがあり、提供形態もアプライアンス版と仮想版を用意しているため、環境に合わせた導入が可能です。そして、OSはすべて「FortiOS」です。ハイエンドモデルになるとオペレーションが違うといった場合、パートナーも売りづらさを感じてしまいますが、FortiOSによりすべて同じオペレーションのため、モデルに関係なく同じように提案できる点が支持されています。
例えば、昨年はGIGAスクール構想で、FortiGateは3000台以上が導入されました。これは、各学校の規模に合わせてさまざまなモデルを導入できることや、導入後のオペレーションがスムーズに行える点を各地域のパートナーが評価し提案した結果です。
「セキュリティ ファブリック」を推進
――現在では、FortiGateだけでなく幅広い製品ポートフォリオとなっています。
当社では近年、「セキュリティ ファブリック」という考え方を提唱しています。プラットフォーム上でさまざまなセキュリティ機能を提供し、統合的に管理・可視化し、そこにAIを組み合わせて運用を自動化するというコンセプトです。お客様はEDRをはじめとしたエンドポイントセキュリティやSASE(Secure Access Service Edge)、SD-WANなど、あらゆるセキュリティ機能を一つのプラットフォーム利用でき、加えて運用負荷を少なくし、包括的なセキュリティ対策を実装できます。
そして、セキュリティ ファブリックを支えているのがFortiOSです。FortiGate以外の製品にもすべてFortiOSを搭載することで、統合的な管理が可能となり、ネットワーク、エンドポイント、クラウド、あらゆる環境を一貫して保護することができます。
また、専門調査機関である「FortiGuard Labs」では、機械学習とAIの最先端テクノロジーの研究をしています。ここでの成果は脅威インテリジェンスとして、お客様に届けられており、セキュリティ ファブリックにおいても重要な役割を果たします。
――国内企業ではベストオブブリードの考え方が浸透しており、エンドポイントセキュリティもネットワークセキュリティも、その分野で強い製品が選択される傾向があります。その点についてはどう思われますか。
多くの製品を導入すればするほど運用は困難になります。そういった面からも今後は、セキュリティ ファブリックのようにメーカーを揃え、統合的に管理していくセキュリティ対策への需要が高まっていくと考えています。
――セキュリティ ファブリックを実現するには、パートナーの製品理解を深めることが重要になりそうですね。
当社の製品群が多いことを嫌だと感じているパートナーも少なくないのが実情であり、FortiGateしか扱っていないというケースもあります。そのため、すべての製品を扱い提案できるパートナーは限られているのが課題となっています。
この課題を解決するために積極的な投資を行い、パートナー支援の強化を図っています。その一つがパートナープログラム「Fortinet Engage」です。このプログラムでは、インテグレーター、MSSP(マネージドセキュリティサービス事業者)、クラウドといったビジネスモデルに合わせたトレーニングの提供や営業サポート、マーケティング支援を行います。さらに、パートナースペシャライゼーションとして、SD-WANやゼロトラスト、OTセキュリティといった、急速に変化するセキュリティ環境で需要が高まっているソリューションの専門知識を習得する機会を設けています。
取り扱う製品を増やしてほしいと闇雲に頼んでも、パートナーがそこに踏み出すのは難しいことです。だからこそ、Fortinet Engageを通じてきちんとメリットを提供することで、パートナーがセキュア ファブリック関連の製品を扱いたいと思ってもらえるようにしていきます。
――今後の抱負をお願いします。
就任した当時と比べて社員も大幅に増え、製品もセキュリティ ファブリックの考え方の下、拡充されています。一方でセキュリティ対策自体の複雑化も進んでいます。そういった状況ですので、従来のやり方を変えていかなければならない時期だと考えています。特に営業面では、ハードウェアアプライアンスを売るというこれまでの考え方が浸透しているため、一段上のステージに引き上げたいです。具体的には、製品にプラスしてサブスクリプションや保守といったサービスを組み合わせた提案を行い、お客様の課題をトータルで解決できるようにしたいですね。現在、国内企業はデジタルトランスフォーメーション(DX)推進に取り組んでいます。DXを実現させるためにはセキュリティは欠かせないので、そこを支援できる会社になれるよう頑張ります。
眼光紙背 ~取材を終えて~
外資のITベンダーの場合、国内法人の代表が短期間で変わるのは珍しいことではない。久保田社長もエクストリームネットワークスやH3Cで社長を務めたものの、本社の意向や買収などにより、志半ばで辞す経験をした。
そういったこともあり、フォーティネットジャパンの社長に就任した際には、「『石の上にも三年』という言葉があるように、とりあえず3年やることを目標にした」と振り返る。目標としていた3年はあっという間に過ぎ、今年で11年目となる。長く続けられた要因として、米国本社のケン・ジーCEOの存在を挙げる。「やりたいことを自由にやらせてくれるCEOのため、そういった面で肌が合ったのが何よりも大きい」。
「米国本社はメーカーだがフォーティネットジャパンはメーカーではない。だからこそ、お客様のことを第一に考え、信頼されなければならない」。久保田社長が掲げるミッションだ。これからも、顧客のセキュリティ課題の解決に向けて邁進する。
プロフィール
久保田則夫
(くぼた のりお)
1960年生まれ。新潟県出身。日本通信建設(現日本コムシス)、日本ディジタルイクイップメント(現日本ヒューレット・パッカード)でエンジニアを経験した後に、日本ルーセント・テクノロジー(現ノキアソリューションズ&ネットワークス)と日本アバイアでパートナー営業などに従事。その後、エクストリームネットワークス、H3Cテクノロジージャパンで代表取締役社長を歴任。HPのH3C買収に伴い、日本ヒューレット・パッカードに移籍しHPネットワーク事業本部副事業本部長兼ネットワーク営業本部長に就任。2011年9月にフォーティネットジャパンに営業本部長として入社。12年1月より現職。
会社紹介
【フォーティネットジャパン】セキュリティ製品大手である米フォーティネットの日本法人として2003年2月に設立。次世代ファイアウォール「FortiGate」はSMBからエンタープライズまで多くの企業が利用している。現在は、FortiGateに加えエンドポイントセキュリティやSASE、SD-WANなど幅広いソリューションを展開している。