KeyPerson
IT人材枯渇への解は「インド」にあり
エイチシーエル・ジャパン 代表取締役社長
中山雅之
取材・文/藤岡堯 撮影/大星直輝
2022/04/08 09:00
週刊BCN 2022年04月04日vol.1917掲載
(取材・文/藤岡 堯 写真/大星直輝)
──社長就任の経緯をお聞きします。
エイチシーエル・ジャパンはエンジニアリングが強いのですが、デジタル(コーポレートITサービス)はそれほど強くありません。HCLテクノロジーズはそこに注力し、もう一度立ち上げ直す、もっと大きく成長させるためにカントリーヘッドを探しており、私にも話が舞い込んできました。
日本ではIT人材の枯渇という課題がかなり強く謳われています。今に始まった話ではなく、10年ぐらい前からある話ですが、より厳しさを増している状況です。解決手法はいろいろあるのでしょうが、(人材の)絶対量が足りないので、まずは海外を使わざるを得ないと思っています。その答えの一つとして「インド」がやはりあるんじゃないかと私は思っていました。
そこに、HCLが日本市場で積極的に投資し、これまでの2倍速で取り組むという話があり、「面白いな」と感じました。HCLに対しても、日本のお客様に対してもお役に立てると思ったのが、(オファーを受けた)理由の一つです。
世界のテクノロジーセンター
──なぜ、インドが解決方法になるとお考えでしょうか。まずは(人材の)キャパシティーが圧倒的ですよね。それから、10年、20年前と比べて、会社が大きく変わってきています。例えば、HCLの社員数はグローバルで20万人いますが、そのうちの半分以上は北米の仕事をしています。そして、その次がヨーロッパです。欧米だけで70~80%を占めるわけで、いろいろなものが蓄積されています。
スマートフォンだったり車だったり、さまざまなものに組み込まれるソフトウェアは、ほとんどがインドで作られています。黒子のような存在ですが、蓄積されたものはすごい。今や世界のテクノロジーセンターだと思います。やはりそれを活用しない手はないでしょう。日本のIT人材が枯渇する中で、コストが低く、テクノロジーセンターであるインドを活用しなければいけないと本当に思っています。
──組み込みソフトウェアなどの部分ではインドの実力は浸透しているようにも感じますが、コーポレートITの分野においては、広まっていないように見えます。
そうですね。だからこそ、大きなポテンシャルがあると思っています。伸ばしていくために、デジタルではグローバルの実績をアピールしていきたいと考えます。
例えば、ある企業がERPソフトウェアをグローバルで運用したいという話があるとします。そこでポイントとなるのが、グローバルの各リージョンにガバナンスが効く子会社があるかどうかです。HCLはグローバル企業として本当にガバナンスが優れています。各リージョンの子会社を動かすことで、グローバルロールアウトを成功に導くことができます。センターのガバナンス、リージョンのガバナンス、どちらもしっかりやることは実は難しいんです。
もう一つ利点があります。われわれの特徴はオフショアにあります。グローバルロールアウトでも全てオフショアで手掛けます。もちろん、現地でリージョンごとに要件を取りまとめて、マネジメントをしますが、実行者はオフショアです。同じオフショアセンターの同じ人たちが全てのリージョンをカバーすることで、開発面や運用面での標準化・統合化が図られます。
例えば米国で取り組んで成功したもの、失敗したものがたくさんあります。その知見はオフショアに溜まります。もちろん現地にも人員はいますが、そこで何か問題があっても、オフショアからチェックができます。本部から各リージョンへのガバナンスと、オフショアからのガバナンスの双方が効くので、われわれはグローバルの案件に強いのです。

売り上げを2倍にする気持ち
──その強みを生かして、どのように成長させたいとお考えですか。社内で掲げている数字ではなく個人的な思いになりますが、3年ほどで売り上げを2倍にするぐらいの気持ちでいます。われわれは「人ビジネス」なので、実現するにはそれだけのお客様と接しなければいけないということです。
先ほど、エンジニアリングが強いと申しました。ということは、大手の製造業のお客様がたくさんいらっしゃいます。皆さんは別組織でコーポレートIT分野の仕事もしています。そこにクロスセルを仕掛けていきます。既存のお客様に対して、われわれが提供していないデジタルの価値を、グローバルから持ってきて提供する。それが今、具体的に考えているアクションです。
また、グローバルで展開する案件は製造業が中心です。基本的には大企業を中心として、一つ一つのアカウントをスケールさせていきたい。ある程度の規模がなければ効率も上がらず、お客様にコストメリットを提供できません。
売り上げを2倍にするというのはチャレンジングな目標です。ですが、実現性は十分にあります。あまり大きな声で言うと、私のノルマが増えちゃうんですけど(笑)。最低限、それくらいの気持ちでいないといけないと思います。
──HCLテクノロジーズとしても、日本市場への期待は大きいのでしょうか。
すごく大きいです。日本は世界でもITへの支出が大きく、それを考えれば、自社のビジネス規模は、まだまだとても小さい。だからいくらでも伸びる余地はあります。そのためには日本人が社長になって、日本のマーケットを分かっている人が、お客様との関係をつくってビジネスを拡大させることが必要だと(本社は)理解しています。その背景があって私が採用され、ある程度の裁量が与えられている。その意味ではすごくやりやすいですね。
11月の入社後、おおまかな成長戦略を作りました。それに対して、本社からいろいろなアドバイスはいただきましたが、「NO」という意見はなく、バジェットもかなりしっかりつけてくれました。それくらい日本にフォーカスしています。
──HCLにはソフトウェア部門があります。日本での展開についても聞かせてください。
ソフトウェアは、さらに投資を行いプロダクトも見直していきます。お客様も結構いるので、(コーポレートITサービスなどとの)クロスセルを狙っていければと思います。製品はグローバルでも評価の高いものが多く、マーケティングをして体制を整えれば、もっと販売できると考えます。シナジーを追求していきたいですね。
──HCLテクノロジーズは、グローバルでの経営理念として「Employees First, Customers Second」(従業員第一主義)を掲げていると聞きます。社内マネジメントはどのように進めていきますか。
課題はたくさんありますが、まずは「いい人」を採用したいです。いい人というのは、やる気のある人。やる気のある人を増やして、もっと自由闊達に働いてもらいたい。
その観点からすると、従業員第一主義は必要だと思います。従業員第一主義とは、「社員を大事にしなさいよ」と言っているだけではなく、「社員がやりたいようにやりましょう」との意味もあります。お客様と会話している現場の人たちが一番大事であり、彼らがいちいち、お伺いを立てて、時間を費やすのはダメだと。究極的なお客様ファーストのためにも、従業員ファーストが必要というところです。
成長へのレールを敷く
──中長期的に実現したいことを教えてください。もしも、長く務めることができるのならば、ITサービス企業における中堅どころまでは成長させたいです。そのためには最初の3年ぐらいがものすごく大事。ちゃんとレールを敷かなければなりません。
日本の企業と海外の人が仕事をする際には、言葉の問題、商慣習、システムの作り方など、さまざまな壁があります。この壁を低くしなければビジネスはできません。どこにどう投資をすれば、日本のお客様にとっていいインターフェースを作れるか。それが一番の課題です。営業だけでなく、エンジニアなどのデリバリー体制、それをサポートするスタッフも含め、もう少し手厚くして、ビジネス基盤を確立することが必要でしょう。
「売り上げを2倍に」と申しましたが、それを実現する過程で基盤が整えられていくはずです。とはいえ「基盤を整えます」と言っても面白くないので「売り上げを2倍にする」と言いました。そのうちに確実に基盤が整うので、その先はさらに発展できると思っています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
インド本社から寄せられる日本市場開拓への期待は大きい。「ちょっとプレッシャーです」と笑いながらも「もうずっとやってきていますから」と自信ものぞかせる。
日本IBMでは営業畑を歩み、グローバルで展開する大手企業とタフな折衝をこなしたほか、米IBMの戦略立案部門での勤務も経験した。グループCIOとして参画した日本郵政では「ユーザー側の苦労を思い知り」、直前には別のインド系企業で、インドビジネスの造詣も深めた。
コーポレートIT分野で長年活躍した経験、ユーザー企業としての体験、そしてインドビジネスの見識。多様なビジネスキャリアが組み合わさり、強い背骨を築いているように見える。本社もその手腕を信じているのだろう。「やりたいようにやらせてもらっている」そうだ。
日本市場への投資は「第1弾が私自身」。第2、第3の投資も控え「4月からの新年度で基礎を確立させる」と力を込める。
「見ていてください」と、取材後に力強く語った一言が印象的だった。
プロフィール
中山雅之
(なかやま まさゆき)
1961年生まれ、佐賀県出身。85年、九州大学経済学部卒業後、日本IBMに入社。2007年7月、同社執行役員製造企業担当。11年9月、日本郵政常務執行役グループCIO。16年1月、日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ副社長営業統括。21年11月から現職。
会社紹介
【エイチシーエル・ジャパン】HCLテクノロジーズ(インド)の100%子会社。1998年2月設立。エンジニアリングR&Dサービス、ソフトウェア設計・開発・保守サービス、インフラサービス、アウトソーシング・サービス、IT・業務コンサルティングなどを幅広く手掛ける。従業員数はグループ会社含め約450人。
(取材・文/藤岡 堯 写真/大星直輝)
──社長就任の経緯をお聞きします。
エイチシーエル・ジャパンはエンジニアリングが強いのですが、デジタル(コーポレートITサービス)はそれほど強くありません。HCLテクノロジーズはそこに注力し、もう一度立ち上げ直す、もっと大きく成長させるためにカントリーヘッドを探しており、私にも話が舞い込んできました。
日本ではIT人材の枯渇という課題がかなり強く謳われています。今に始まった話ではなく、10年ぐらい前からある話ですが、より厳しさを増している状況です。解決手法はいろいろあるのでしょうが、(人材の)絶対量が足りないので、まずは海外を使わざるを得ないと思っています。その答えの一つとして「インド」がやはりあるんじゃないかと私は思っていました。
そこに、HCLが日本市場で積極的に投資し、これまでの2倍速で取り組むという話があり、「面白いな」と感じました。HCLに対しても、日本のお客様に対してもお役に立てると思ったのが、(オファーを受けた)理由の一つです。
世界のテクノロジーセンター
──なぜ、インドが解決方法になるとお考えでしょうか。まずは(人材の)キャパシティーが圧倒的ですよね。それから、10年、20年前と比べて、会社が大きく変わってきています。例えば、HCLの社員数はグローバルで20万人いますが、そのうちの半分以上は北米の仕事をしています。そして、その次がヨーロッパです。欧米だけで70~80%を占めるわけで、いろいろなものが蓄積されています。
スマートフォンだったり車だったり、さまざまなものに組み込まれるソフトウェアは、ほとんどがインドで作られています。黒子のような存在ですが、蓄積されたものはすごい。今や世界のテクノロジーセンターだと思います。やはりそれを活用しない手はないでしょう。日本のIT人材が枯渇する中で、コストが低く、テクノロジーセンターであるインドを活用しなければいけないと本当に思っています。
──組み込みソフトウェアなどの部分ではインドの実力は浸透しているようにも感じますが、コーポレートITの分野においては、広まっていないように見えます。
そうですね。だからこそ、大きなポテンシャルがあると思っています。伸ばしていくために、デジタルではグローバルの実績をアピールしていきたいと考えます。
例えば、ある企業がERPソフトウェアをグローバルで運用したいという話があるとします。そこでポイントとなるのが、グローバルの各リージョンにガバナンスが効く子会社があるかどうかです。HCLはグローバル企業として本当にガバナンスが優れています。各リージョンの子会社を動かすことで、グローバルロールアウトを成功に導くことができます。センターのガバナンス、リージョンのガバナンス、どちらもしっかりやることは実は難しいんです。
もう一つ利点があります。われわれの特徴はオフショアにあります。グローバルロールアウトでも全てオフショアで手掛けます。もちろん、現地でリージョンごとに要件を取りまとめて、マネジメントをしますが、実行者はオフショアです。同じオフショアセンターの同じ人たちが全てのリージョンをカバーすることで、開発面や運用面での標準化・統合化が図られます。
例えば米国で取り組んで成功したもの、失敗したものがたくさんあります。その知見はオフショアに溜まります。もちろん現地にも人員はいますが、そこで何か問題があっても、オフショアからチェックができます。本部から各リージョンへのガバナンスと、オフショアからのガバナンスの双方が効くので、われわれはグローバルの案件に強いのです。
- 売り上げを2倍にする気持ち
- 成長へのレールを敷く
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