IT商社大手の米シネックス・コーポレーションと同業の米テック・データの合併に伴い、シネックス・コーポレーションの日本法人は2022年1月にTD SYNNEXとして生まれ変わった。親会社は「世界トップクラスのITディストリビューター」で、合併によってグローバルの知見は一層強化された。引き続き日本法人のトップを務める國持重隆社長は、これまでの日本だけの力ではなく、“地域の力”で市場の競争に挑む方針だ。
(取材・文/齋藤秀平 写真/大星直輝)
合併で持っていない部分を「補完」
──今年1月1日付で社名が変わりました。「世界トップクラスのITディストリビューター」となった親会社の合併についてはどのように捉えていますか。
シネックスは、どちらかというとエンドポイントやエッジデバイスから事業を始め、ソフトウェア、ハイエンドのサーバーなどに事業領域を拡大しました。テック・データは逆で、元々メインフレームやデータセンターから入り、事業を拡大していく過程でエンドポイントも対象にしました。生い立ちに加え、事業を展開する地域にも違いがありました。北米は両社とも事業を展開していましたが、グローバルの展開規模を見ると、テック・データは欧州とアジアが得意で一方のシネックスは北米や中南米が強く、そこに日本がある状況でした。今回の合併では、互いに保有していない部分を相手が持っていたので、うまく補完できたと思っています。
──合併後の戦略を教えてください。
グローバルの戦略では、まずパートナーや社員を中心に考えています。その上で、「成長分野への投資」や「ポートフォリオの強化」「デジタル変革」「領域の拡大」の四つを大きな柱に設定しています。今までの戦略と最も違うのは、成長戦略への投資になります。AR/VRやメタバース、データ活用(アナリティクスやAI、IoT)、ハイブリッドクラウド、モビリティーとエッジ、セキュリティ、サービスといった高付加価値分野に積極的に投資し、中長期的なビジネスをつくっていくことを目指しています。今までもこのような方針はありましたが、今回の合併を機に、よりそちらの方向にかじを切っていきます。ポートフォリオの強化と領域の拡大については、メーカーとのつながりを強めたり、合併によって増えた拠点を生かしたりしていくことを計画しています。デジタル変革に関しては、両社が持っていたDX(デジタルトランスフォーメーション)のプラットフォームについて、場合によっては統合も視野に有効活用していきます。
──今までと違う点として挙げられた成長戦略への投資について、もう少し詳しく説明していただけますか。
ハイブリッドクラウドやセキュリティについては、これまでも取り組んでいく必要があるとしていましたので、そこはほぼ変わっていません。それに加えて、はやりのAR/VRやメタバースとそれを支える技術を追加しました。コロナ禍でハイブリッドな働き方が一般化する中、どこでも働けたり、やりたいことができたりする世界を実現するモビリティーとエッジをはじめ、ほかの分野にも力を入れることになりました。
飛躍に向けた大きなチャレンジ
──合併に対して、リセラーやメーカーからの反応はいかがでしょうか。
おおむね好意的な反応を得ています。日本での状況を見ると、テック・データは日本法人がなかったこともあり、合併によって日本でのケーパビリティが急に向上することはありません。ただ、テック・データはアジアパシフィック地域に11の拠点を持っていましたので、シネックスの日本法人だったわれわれからすると、11拠点の仲間が急に増えたことになります。それを生かすためには、変わっていかないといけないですし、シナジーを生み出すような活動をしていかないと合併の効果は生まれません。今回の合併によってビジネスが飛躍する可能性はあります。われわれにとっては大きなチャレンジになるとも言えます。
──さきほどメーカーとのつながりを強化するとのお話がありましたが、具体的に想定していることを教えていただけますか。
メーカー全般で見ると、ほとんど変わりませんが、グローバルアカウントでは、従来よりもかなり緊密になっていくだろうとみています。今までは、われわれが事業を展開する日本と各メーカーの本社の関係になっていましたが、今後は日本やアジアパシフィック地域で何ができるか、あるいはどういうプログラムを一緒に展開するかといった視点に変わっていくとみており、メーカーとの関係性はより深まると思っています。
──メーカーとの関係性が深まることで、ビジネスに変化は生まれますか。
今までだと、メーカーとプログラムを進める場合、どれくらいの支援をしてもらえるかといった点について、メーカーの日本の拠点と協議していました。メーカーは、日本のビジネスサイズだけを見て支援の度合いを決めていましたが、今後は地域のサイズで話ができるようになるので、支援の規模は大きく変わります。例えば、あるメーカーが日本やアジアパシフィック地域で何かプログラムを展開する場合、ゼロからだと2、3週間かかるようなパッケージの構築も、地域全体で進めれば数日で用意できることもあるでしょう。地域で構築したパッケージをいろいろなお客様に使っていただき、うまくいったらさらに発展させることが可能になるので、グローバルプログラムやリージョンプログラムに乗ることができるのは大きなメリットになります。国ごとに事業の順調さに差が生まれる可能性もあるので、当然、プレッシャーは感じていますが、全体として考えると、われわれにとってはプラスの側面のほうが多いと捉えています。
──リセラーとの関係についての考えをお聞かせてください。
リセラーに対しては「一緒に仕事をする意味がどこにあるのかを考え、そこをちゃんと深掘りしていきましょう」というアプローチになってきています。今後は各リセラーとはより深い形で協業し、今まで以上に強い関係性を持つことが増えていくとみています。各リセラーが今、どういう状況になっていて、何を求めているのかを把握した上で、意味のあるところに関しては、しっかりと強みを生かしてサポートしていきます。単純に取引するリセラーを限定したり、扱う商材を減らしたりすることは考えていません。
ピンポイントで強みを出す
──コロナ禍で国内はデジタル化に向けた機運が高まっています。大都市圏と地方では、デジタル化に差があるとお考えでしょうか。
オンラインを活用した会議や商談の普及により、大都市圏と地方の情報格差は以前よりも縮まってきていると感じています。大都市圏での成功事例やトレンドを地方に紹介するスピードも速まり、それを受けて地方でも、これまでよりも早いタイミングでトレンドに対応できる環境になりつつあります。ただし、実際の導入や新しいことを立ち上げる時の支援に関しては、やはり物理的に近くに居ないと、なかなか進まないことも多いので、どのようにタイムリーに支援するかが課題と認識しています。今後の方向性としては、地域ネットワークとサプライチェーンの拡大やローカルチャンピオンとなり得るパートナーの開拓を進めます。当社の支店がない地域に対しては、オンラインプラットフォームやコミュニティーの活用などを行っていきます。
──今後の市況の見通しについての見解と抱負をお願いします。
市場全体のボリューム感はそれほど大きく変わらないだろうと思っていますが、サービスや商材は細分化され、売る機会は増えていくだろうという感覚を持っています。例えば同じクラウドサービスを提供するにしても、クラウド上で必要とするサービスは、お客様によって大きく異なります。全ての商材を揃えるのは難しいと思うので、「こういうものに関しては、きちんとサポートも含めて提案できますよ」という商材を持つことが重要になるとみています。ディストリビューターとして、最低限、対応していかなければならない商材やサービスを揃えつつ、ピンポイントで強みを出せる部分や付加価値を出せる部分を増やしていきたいです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
2018年12月にシネックスジャパン(当時)の社長に就任した。トップとしてキャリアを重ねる中、昨年から今年にかけて、親会社の合併と日本法人の社名変更があったが、引き続き社長を任されることになった。
感情的になることを嫌い、常に論理的に物事を捉えることを信条とする。インタビュー中は、喜怒哀楽を表に出さず、終始淡々とした口調で質問に答えてくれた。会社は新たなスタートを切ったが、冷静沈着な姿勢は社長に就任した当時から変わらない。
メーカーとリセラーの間でビジネスを展開するディストリビューター。両者を取り持つ上では「一つ一つのことに一喜一憂していると、判断を曇らせてしまうことになる」と語る。
派手な施策を打ち出すのではなく、しっかりと状況を見据えて着実に成長を目指す。これからも「フラットに」ビジネスを捉え、トップとしての職務にまい進する考えだ。
プロフィール
國持重隆
(くにもち しげたか)
コンサルティング会社でサプライチェーン管理システムのプロジェクトなどに携わった後、ピープルソフト(現オラクル)でコンサルタント、マイクロソフトで「Dynamics AX」のプロダクトマネージャー、デル(現デル・テクノロジーズ)で法人向け事業戦略などを担当。2017年にシネックスインフォテック(当時)に入社し、執行役員に就任。18年12月1日付でシネックスジャパン(同)の代表取締役社長に就任。22年1月のTD SYNNEXへの社名変更後も、引き続き代表取締役社長を務めている。
会社紹介
【TD SYNNEX】1962年、電子機器・部品商社の関東電子機器販売として設立。89年に丸紅が経営権を取得し、2001年に社名を丸紅インフォテックとした。10年に米IT商社大手シネックス・コーポレーションの完全子会社となり、シネックスインフォテックに社名変更。18年12月1日にシネックスジャパンに社名変更。シネックス・コーポレーションと米テック・データの合併に伴い、今年1月にTD SYNNEXに社名変更した。21年11月末時点の従業員数は696人。