新興のクラウドデータウェアハウスベンダーである米Snowflake(スノーフレイク)が、日本市場で存在感を増している。設立から3年を迎える日本法人の東條英俊社長は「一定の成果はある」と手応えを示す一方、拡大への余白はまだまだ大きいとにらむ。ユーザー間でデータを共有・利用する「データクラウド」の市場を構築し、そのトップリーダーを目指す。掲げる目標の実現へ、今年を「データビジネス元年」と位置付け、あらゆる面で事業を拡大する方針だ。
(取材・文/藤岡 堯 写真/大星直輝)
──日本法人の設立から3年を迎えようとしています。国内事業の進捗を、どのように受け止めていますか。
一定の成果はあったと分析しています。企業の皆さんのデジタルトランスフォーメーション(DX)における課題感に対して、われわれのソリューションが役に立っていることが手応えとしてあります。
デジタルの活用とデータの位置付けは表裏一体であり、 DXの裏側で必要なのはデータ分析です。ここが日本のお客様のペインポイントといえます。われわれのツールはデジタルを使った顧客体験の部分を裏側で支えるデータベース、データ分析基盤ですが、この分野におけるお客様の悩みはやはり性能面だと感じています。
お客様の保有するデータがだいぶ増えている中で、ビッグデータをしっかり分析して、AIのモデルも動かして、正しいタイミングで結果を提供しないといけないとなれば、いわゆるパフォーマンス性能はとても重要です。加えて、運用に大きなコストや特殊なスキルが必要であったり、メンテナンスに時間がかかったりという面でも課題があります。
われわれのツールは、自動化を実現しており、お客様はデータを投入して分析するだけで、本来やりたい業務に集中できます。それ以外の面倒なことは一切合切お任せくださいと。それでいて、性能はしっかりしています。あとは、コンサンプションモデルとして、使った分だけコストが発生し、必要なリソースはほぼ無制限に用意できる部分などが非常に受けていると思います。
その点では一定の成果を挙げていますが、「まだまだ」と感じる部分もあります。われわれがアドレス可能なマーケットから考えれば、わずかな一部しか獲得できていません。クラウドが進んだとはいえ、大方のデータベースはオンプレミスにあります。市場の機会をもっと捉えていきたいです。
「非競争領域」から共有を
──市場を開拓する上でのポイントとして「データクラウド」の概念が重要になるのではないでしょうか。ただ、認知が広まっていない面もあるように思います。
おっしゃる通りで、これからだと思います。データクラウドは、「掛け算」みたいなもので、たくさんのデータを掛け合わせていくことで、今まで見えなかったインサイトが得られる点がポイントです。
一方で、「顧客データは(外に)出せない」「データは自社の資産だ」という考え方もあるので、進まない面もあります。ただ、いくつかの業界では、標準的なデータを各社でそれぞれ揃えるよりも、統一的な基盤があったほうが効率的ではないかという考えのもと、非競争領域の部分で取り組みを進めています。非競争領域は統一的なデータ基盤とし、その上に競争領域のデータを各社が持てば、業界の活性化につながるのではないかと。今、そのような話を少しずつ進めておりまして、具体化させながら、ほかの業界にも広げていけばいいと考えています。
グローバルと比べて、データはマネタイズできるもの、価値があるものだということに(日本企業は)気付けていないのかもしれません。業界特化型のデータは利益を生むというよりかは、コストを下げる効果が強いかもしれませんが、データクラウドが進めば、(業界に左右されない)基本的なデータを販売する動きも出てくるかもしれません。
「エクスパンションの年」になる
──4月に開いた事業戦略説明会で、本年度は「エクスパンション(拡大)の年になる」と話しておられました。その真意はどういう点にありますか。
日本市場に参入した段階では、事業基盤があるわけでもなく、投資をしてくれる事業者がいたわけでもありませんでした。ゼロから顧客の獲得やパートナーシップ、マーケティング、組織の整備などを進め、一巡したのがこの1年だと感じています。ここから先は、それをどうスケールさせていくか、それもどれだけ速くできるかだと考えています。新規顧客を開拓し、既存のお客様の満足度を高めて、利用を広げる。マーケティング面でもキャンペーンやウェビナー、イベントを通じて認知を向上させるなど、大規模に取り組む必要があるでしょう。パートナーシップについては、今お付き合いしている皆様以外の企業とも、広く深く関係性を構築したい。これらが(エクスパンションの)主要な部分です。
顧客ターゲットは製造、金融、ヘルスケア、メディア、ハイテク産業とあらゆる業界になります。今はどの業界もDXに取り組んでいて、そこでは必ずと言っていいほどデータ分析基盤の構築に関する話題が出てきます。そのお手伝いができるのであれば、われわれはどこにでも行きます。
顧客企業の規模もそれほどこだわってはいません。従業員数が多いからといって、われわれの収益が上がるかといえば、決してそうではないからです。重要なのはデータをたくさん持っているかどうかです。従業員数が少なくても、人気タイトルを抱えるゲーム企業などは莫大なログを発生させています。そういうターゲットを見定めていければと思います。
ただ、大企業になればなるほど、どんなデータがどこにあるか分からなくなることもありますので、横断的な分析基盤を用意すべきだと気付き始めている人はいるはずです。
認知に関しては、Snowflakeの名前は聞いたことがあっても、中身をご存じない人も多くおられます。ですので、まずは成功形、Snowflakeの正しいケースというものを、事例としてお伝えするということが重要になります。
「組み合わせ」支えるのはパートナー
──パートナーシップを拡大する上で、パートナーとなりうる皆さんに対して、期待するのはどのようなことでしょうか。
われわれのツールは、単品で完結する製品ではありません。データを分析・見える化するBIや、データを入れる部分でのETL、AIを使いたいのであればAIのツールなどが必要です。DXの支援は(ツールの)組み合わせによって可能になると思います。
お客様がどのような組み合わせで利用しようと考えていても、Snowflakeをスムーズに導入できる環境をつくることがわれわれの仕事です。そこからお客様が望む組み合わせや、最終的なニーズをかたちにするには、SIerのようなパートナーの皆さんのお力をお借りしなければなりません。
特に、データの世界は「ベスト・オブ・ブリード」がいい。1社のメーカーで固めるものではないでしょう。その分野のいいもの、お客様が納得できるものを見つけてもらって組み合わせる。これが最高の使い方だと考えます。その意味でも、エコシステムを大切にしていますし、プロダクトの知識やノウハウについては、当社からしっかりとトランスファーさせていただきます。幸いなことに、リファラルパートナーは今、80社以上になっています。支援を進め、だんだんとリセラーも増やしていきたいですね。
──中長期的に取り組みたい目標はありますか。
今、われわれが考えているのは、「データクラウド」の市場をしっかりと形成し、そのトップリーダーになることです。まだ「データクラウドってなんだろう」と思われる人も多いかもしれませんが、データ交換、データコラボレーションの世界をマーケットとしてつくり、そこで当社がトップだと認知されるようにしたいです。
今年の年頭所感で「今年はデータビジネス元年だ」という内容を書きました。「元年」なので、普及にはまだ数年かかるとは思いますが、今年が転換点になるかなと考えて、施策をいくつか仕込んでいます。
──最近は顧客企業のデータへの意識も変わってきています。それも含めて「元年」という感じは確かにします。
その通りです。「企業の意識が変わってきた元年」とも言えるかもしれないですね。
眼光紙背 ~取材を終えて~
社名であるSnowflake(雪片)の由来は諸説あるそうだ。データベースの専門のスキーマ(データベースの構造図)や、創業者がスキー好きだったことから命名されたとの話もあるという。ITベンダーらしくないとも思える社名で、東條社長は「『アイスクリーム店ですか』と聞かれることもあった」と笑う。
DXの広がりとともに、一定の認知は得られているものの、まだまだ市場浸透の余地は大きい。特に自社が提唱するデータクラウドの概念については、日本企業は保有するデータを公開することをためらう向きもあり、「もう少し時間がかかる」。
とはいえ、先行するユーザーの反応をみれば「データが思わぬ使い方をされ、その能力を発揮していることに、ユーザー自身が驚いているぐらい」と確かな手応えを感じている。
snowflakeには「ユニーク」「特別」といった意味もある。創造的なユースケースがさらに広がれば、その名の通り、市場でも独自の存在感を発揮できるに違いない。
プロフィール
東條英俊
(とうじょう ひでとし)
1971年、東京都生まれ。96年に中央大学文学部卒業後、ジャストシステム入社。その後、マイクロソフト(現日本マイクロソフト)を経て、2010年に米Microsoft本社へ移籍。13年、米ワシントン大学大学院フォスタースクールにて経営学修士課程(MBA)修了。16年に帰国後、グーグル・クラウド・ジャパンに入社し、営業部長などを歴任。19年9月より現職。
会社紹介
【Snowflake】クラウドベースのデータウェアハウス(DWH)「Snowflake」を提供する。2012年に米カルフォルニアで創業し、日本法人は19年に設立。国内では250社超がSnowflakeを利用している。21年11月には西日本営業部を新設し、22年8月にはAmazon Web Servicesの大阪リージョンでの一般提供を開始するなど、国内展開を強化している。