富士フイルムビジネスイノベーションの国内販売会社である富士フイルムビジネスイノベーションジャパン(富士フイルムBIジャパン)は、中堅・中小企業向けITソリューションを独自に体系化した「Bridge DX Library(ブリッジDXライブラリー、以下DXライブラリー)」を拡充し、複合機をはじめとするデバイス商材とのハイブリッド型ビジネスを強力に推し進めている。今年6月に二代目のトップに就いた旗生泰一取締役社長は、DXライブラリーを含めたITソリューション事業でも「中堅・中小企業の領域を中心にビジネスパートナーとの一層の協業を推し進める」とし、ビジネスパートナー経由での販売比率を高めていく方針だ。
(取材・文/安藤章司 写真/大星直輝)
DXライブラリーが100種類超える
――富士フイルムBIジャパン設立から1年余りと短い期間での社長交代となりますが、どういった経緯でしょうか。
当社は、旧富士ゼロックス(現富士フイルムビジネスイノベーション)の国内営業部門と、国内のすべての販売子会社31社などを統合し、2021年4月1日付で設立した会社です。立ち上げに当たっては、初代社長の阪本(阪本雅司・現会長)とともに数年にわたって準備を進め、新体制が軌道に乗り始めたタイミングでトップを引き継ぐことになりました。外から見ると「なぜ設立わずか1年余りで交代なのか」と疑問に思われるかも知れませんが、社内的には準備期間から数えて一区切りついたタイミングなのです。
――今年5月に発表した中堅・中小企業向けITソリューション体系のDXライブラリーは、阪本会長が強力に推し進めてきた印象を受けました。
DXライブラリーは、全国の販売会社を統合したことで実現したITソリューション体系です。それまでは全国の販売子会社がそれぞれグループウェアや文書管理といったITソリューションを体系化していましたが、DXライブラリーは全国一律でメニュー化しました。建設、製造、医療、福祉の重点ターゲット4業種を定め、直近で103種類のソリューションメニューに拡充しています。
ソリューションは、売れ筋の業務ソフトや文書管理、SaaS商材から構成され、一部は富士フイルムBIの複合機をはじめとするデバイスとも連携しています。業種・業務に焦点を当てて、全国規模で展開できる体制が整ったという意味でも、富士フイルムBIジャパンの方向性が明確になり、このタイミングで私に経営のかじ取りが任させることになったと受け取っています。
ちなみに、阪本は今、当社会長と富士フイルムBI本体の専務を兼務し、今年7月1日付で新設したITソリューション事業を専任で担うビジネスソリューションサービス事業本部の本部長にも就いています。この本部で国内外の市場に向けてITソリューション系の商材を開発し、当社が国内向けの販売を担う構図です。阪本とは富士フイルムBIジャパンの立ち上げをともに進めてきた間柄ということもあり、意思疎通がとてもスムーズにできていると感じています。
――DXライブラリーの投入によってITソリューション事業がどのくらい伸びる見込みですか。
富士フイルムBIジャパン個別の売り上げは開示していないのですが、持ち株の富士フイルムホールディングスグループ全体のビジネスソリューション事業セグメントの本年度(2023年3月期)売上高は前年度比9.4%増の2800億円を見込んでいます。これは海外でのITソリューション事業を含めての数字であり、当社はこのうち国内のITソリューション事業の成長の一翼を担っています。
複合機基準で直間比率を半々に
――DXライブラリーをはじめとするITソリューション商材が増えるなか、販売パートナー戦略はどうお考えですか。
広い意味でのビジネスパートナーで捉えると、大きく二つのパートナーに分かれます。まず一つは、当社のITソリューションを顧客に届けていただく販売パートナーで、主に中堅・中小企業の顧客領域で活躍していただいています。当社直販は大手企業向けの提案力、営業に強いと自負しているのですが、中堅・中小企業の領域は顧客数が多いこともあり、直販の人的リソースではまったくカバーできません。そこで、全国の販売パートナーに地域に密着してITソリューションを届けていただけるよう関係を一段と強化していきます。
もう一つは、ITソリューションを相互に連携したり、当社がパートナー先から商材を仕入れたりする関係です。当社はマイクロソフトのERP「Dynamics 365」を自社に導入するのと並行して顧客向けの販売も始める予定ですが、商材を仕入れるという文脈でマイクロソフトは重要なビジネスパートナーとなります。中堅・中小企業向けのDXライブラリーにもビデオ会議ツールなどパートナー製品を多数採用しています。相互にITソリューションを連携し、互いの販路で製品を販売するクロスセルも推進できればと考えています。
――現在の直販と間接販売の比率はどのくらいでしょうか。
残念ながらITソリューションの直間比率はお話できないのですが、参考数値として複合機についてはおおよそ直販6割、間接販売4割となっています。今年5月に20種類のラインアップでスタートしたDXライブラリーも直近では100種類を超えてきましたので、販売パートナー向けの研修プログラムを拡充し、中堅・中小企業向けの領域でより多くのITソリューションを販売してもらえるよう働きかけていきます。旧富士ゼロックス時代から長年にわたって複合機を販売してくださっているパートナーはもちろんのこと、ITソリューションを切り口にした新規パートナーの開拓も進めていきます。
ITソリューションのなかには、文書管理やOCRなど複合機やプリンタといった当社デバイスと連携するケースが少なくありません。当社複合機の既存ユーザーにITソリューションを提案することに加え、逆にITソリューションから入った顧客に複合機を提案するケースも想定しており、ITソリューションとデバイス製品は相互に補完し合う関係になっています。従って、複合機の間接販売が増えれば、ITソリューションの間接販売の比率も増えると見ています。複合機基準で見た直間比率については、将来的に半々にもっていく考えです。
「効用」に応じて対価をいただく
――旗生社長の経歴についてもお話していただけますか。
旧富士ゼロックスに入社して最初に広島に営業担当として配属され、そのあと福岡で13年勤めました。東京で勤務するようになったのは40歳になってからですね。駆け出しの頃、「顧客に効用を認めてもらい、それに見合った対価をいただく」ことを先輩から徹底的に教え込まれました。当時の「効用」は、両面コピーができるとか、原稿送り装置によって10枚の原稿を次から次へと自動でコピーできるとか、今となっては当たり前の機能ばかりですが、それでも業務効率を高まる効用を認めてもらい、対価をいただくという手順を踏みました。モノを売るのではなく、効用を売る考えですね。
福岡では、電力会社の配電システムの出力系を担当しました。重電メーカーが構築した配電システムで取り扱う図面などをプリンタで出力する領域です。停電したときに図面を紙に印刷し、現場での復旧作業に役立ててもらう用途にも使いますので、台風シーズンになると気が気ではありませんでした。万が一、プリンタが故障すればそれだけ停電が長引き、市民生活に大きな影響が出てしまう。電力会社の社員はもちろん、プロジェクトでいっしょに働いていた重電メーカーの社員の方々も同じで、とにかく一刻も早く電力供給を再開することが、社会的な“効用”だと肌で感じながら仕事をしました。
――「効用」は、今風に言えば「価値」でしょうか。SaaSやクラウドに代表されるように、サービス型の商材が幅をきかせるようになった現在は、まさに価値創出型のビジネスが重要になっています。
ITソリューションの分野においても、価値創出を重視するビジネス形態が主流になっていると感じています。より大きな価値創出が見込める新しいSaaSが登場すれば、DXライブラリーに追加したり、既存のSaaS商材と入れ替えたりと、日々、見直しをかけて価値の最大化に努めています。今後も効用や価値創出を軸に、ビジネスを一段と伸ばしていきたいですね。
眼光紙背 ~取材を終えて~
コロナ禍期間で働き方が大きく変わり、オフィス向けのビジネスも否応なく適応を迫られている。複合機などのデバイスとITソリューションを組み合わせたハイブリッド型ビジネスの比重が高まるとともに、アウトソーシングなどサービス型のビジネスの割合も増える。
直近では、ロボット技術でOCRを自動化する米RIPCORDと富士フイルムBIとの合弁会社が提供するサービスの受注数が伸びている。ロボットによるOCRの自動化で、数億枚単位の大量の紙文書の迅速なデジタル化を可能にするもので、富士フイルムBIジャパンが国内販売を担う。
デジタル化した後のオンラインでの検索や閲覧までをトータルで提供するのが強み。リモートワークの浸透や電子帳簿保存法の整備が進むなどの追い風もあり、向こう1年で過去2年間の累計受注数が倍増する勢い。働き方の変化にあった商材を的確に揃えていくことでビジネスを伸ばす。
プロフィール
旗生泰一
(はたぶ たいいち)
1964年、佐賀県生まれ。87年、西南学院大学経済学部卒業。同年、富士ゼロックス(現富士フイルムビジネスイノベーション)入社。2006年、オフィスサービス営業部統合ソリューション&サービスセンター長。18年、営業推進部長。19年、執行役員国内営業戦略・計画管掌。21年、富士フイルムビジネスイノベーションジャパン常務執行役員。22年6月24日、取締役社長就任(富士フイルムビジネスイノベーション取締役執行役員を兼務)。
会社紹介
【富士フイルムビジネスイノベーションジャパン】旧富士ゼロックスの国内営業部門と全国の販売会社31社などが統合して2021年4月1日に設立。富士フイルムビジネスイノベーションの国内営業を一手に担う。「Bridge DX Library」をはじめ独自商材の開発にも取り組む。従業員数は約1万人。