ウェブページ高速化ツール開発のプライム・ストラテジーは、複数のウェブを統合運用するマネージドサービスで業績を伸ばし、2023年2月22日に東京証券取引所スタンダード市場への株式上場を果たした。ウェブ統合運用に当たっては、AIとRPAを組み合わせた「ハイパーオートメーション」の技術を活用することで徹底した効率化を推進。自社内でも同技術を適用することで合理化を推し進めて、少数精鋭でも売り上げや利益を大きく伸ばせる体制を構築した。中村けん牛代表取締役は、「ハイパーオートメーションを既存のウェブ高速化やマネージドサービスに次ぐ事業の柱に育てていく」と話す。
(取材・文/安藤章司 写真/大星直輝)
ウェブ高速化の海外展開を加速
──東証スタンダード市場への株式上場、おめでとうございます。まずは上場の狙いについてお話していただけますか。
資金調達や社会的な信用、人材獲得で有利になるなどの目的はもちろんあるのですが、それ以外にも、これから海外大手のクラウド関連事業者との取引を拡大していく上で、株式上場していることによる信用度の向上はメリットが大きいと判断しました。
──プライム・ストラテジーと言えば、オープンソースソフトのコンテンツ管理システム (CMS)「WordPress」でつくられたウェブページを高速化するツールの開発元として有名ですが、これの海外展開を加速させていくということですか。
ご指摘の通り、当社はウェブページを高速化する「KUSANAGI(クサナギ)」と、ウェブページとの通信や画像、映像のレンダリングを高速化する「WEXAL(ウェクサル)」を主力製品としています。これらのソフト製品はWordPressなどのCMSやウェブを高速かつ安全に動作させるための基盤のような位置づけです。
オンプレミスのサーバーだけでなく、「Amazon Web Services」や「Microsoft Azure」「Google Cloud Platform」など主要なクラウド上でも動作しますので、世界中のユーザーで使ってもらっており、KUSANAGIの直近の累計稼働台数は7万台を超えました。今回の株式上場をきっかけに、海外でのライセンス販売に一段と弾みをつけていきます。
──どのように海外ビジネスを伸ばしますか。
まずは、今夏をめどにウェブの通信やレンダリングを高速化するWEXALと、ウェブの高速化に向けた手順をAIで支援する「David(デイヴィッド)」の国際特許を取得し、主力のKUSANAGIとともに海外のホスティング事業者やCDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)事業者などに向けて売り込みを本格化させます。すでにIT市場規模の大きい北米を中心に100社ほどリストアップしており、1社ずつ提案していく予定です。
──ウェブコンテンツの配信を高速化するCDN事業者は、KUSANAGIの競合に当たるサービスではないのですか。
CDN事業者はウェブを高速化するという意味では同じで、一部競合するところもあります。しかし、使っている技術が違いますので、高速化するツールとしてライセンスを購入していただける可能性はとても高いです。北米には中堅・中小のCDN事業者やホスティング事業者が数多くありますので、伸びしろは大きいとみています。
「踊り場」から再び成長へ
──株式を上場する前の21年11月期までの数年間の売り上げはほぼ横ばいで推移し、22年11月期からは大きく成長へと転じています。何があったのでしょうか。
当社はウェブページ高速化のKUSANAGIをベースにビジネスをしてきましたが、客先に出向くと、管理者がよく分からないウェブがけっこうあることが分かりました。ウェブの担当者が異動したり、退職したりした後、うまく引き継がれなかったことで“野良ウェブ”化してしまった状態です。野良ウェブは情報セキュリティのぜい弱性が発見されても、対策パッチを当てられることなく放置されていますので、外部からの格好の攻撃対象になってしまいます。
そこで、当社に「社内のウェブを統合的に管理できないか」との引き合いが増えるようになり、複数のウェブを統合管理するマネージドサービスを始めて売り上げが一気に増えました。今でも、このウェブのマネージドサービスは売り上げ全体の7割を占める主力事業となっています。
では、なぜ一時期売り上げが横ばいになったのかと言うと、受注が急速に増えて納品が間に合わなかったからです。社員数を急に増やすわけにもいかず、私も営業の最前線に立っていましたが、受注からサービスの提供・納品までの一連の工程が仕組み化されていなかったことが課題となっていました。
──どうやって難局を打破したのですか。
AIを使っての徹底した自動化です。特にDavidの開発にこぎ着けたことが転機になりました。20年にDavidを投入してからは、社内のさまざまな業務を自動化するとともに、顧客に向けたウェブ高速化やマネージドサービスの提案も自動化することで業務効率が徐々に高まりました。このAI自動化エンジンによって、「受注したが納品が遅れる」といった事態が解消し、踊り場だった売り上げが再び成長に転じました。
──Davidによる自動化とは、具体的にどのようなものですか。
例えば、ウェブの高速化を無料で診断する当社「ONIMARU(オニマル)」サービスは、Davidを活用したものです。ONIMARUができるまでは、手作業で高速化診断を行っていたため、顧客から問い合わせがあってから診断して、実際に提案するまで2週間くらいかかっていたのを、ものの数分でできるようになりました。人手を介さないため、提案にかけていた時間を開発や営業にまわせるようになったのは画期的でした。
AIによる自動化の時代が来る
──Davidは、業務自動化のRPAとAIを組み合わせたようなものでしょうか。
イメージ的にはそうですが、やれることは従来のRPAよりも多いです。いわゆる「ハイパーオートメーション」と呼ばれているもので、当社の新しい事業の柱にしようと考えています。当社の主力サービスである複数のウェブを遠隔で統合管理するマネージドサービスでも、Davidを使うことでかなりの部分の自動化が可能になります。各ウェブの情報を集めて、これをDavidで分析することで、ぜい弱性を自動で見つけて対処手順をリスト化するといった用途に応用できます。
当社の社内業務でも一部使い始めており、例えばオフィスソフトや営業支援、メール、チャット、販売管理などの情報を集めて自動化できるところは自動化する。具体的には、リモートワークしている社員が、定時なっても仕事をやめないとき「残業申請してください」と促したり、残業時間が明らかに多い社員がいたら管理部門に通告し、定時内に終われるよう業務内容を見直すよう指示を出したりといった用途を想定しています。
リモートワークが一般化し、分散勤務が当たり前になった今こそ、ネットワークを介していろいろなものが自動化しやすい環境になったといえます。
──なるほど、ネットワークで結ばれている限り、自動化は容易だと。
ウェブが典型例で、オンプレミスやクラウド、ホスティングなどさまざまな場所で運用されていますが、ウェブである以上、ネットワークでつながっており、統合管理や自動化がしやすい領域です。近年の業務アプリはほぼすべてウェブベースで構築されているので、APIの接続口が用意されていればAPI経由で情報を集め、そうした接続口がない場合でもRPAのようにウェブの操作画面から情報を拾ってきてAIで分析し、自動化できるところは徹底して自動化するのがハイパーオートメーションの考え方です。
きょうは野良ウェブ対策やウェブの統合管理などウェブの話が中心でしたが、近い将来、サービスロボットやAIで制御された自動車、IoTでも、同じようなことが起こるとみています。管理者不在の野良ロボットや野良自動車を統合管理する需要が生まれ、各デバイスと業務アプリを連携させてAI主導で業務を自動化するといったこともできるようになるでしょう。当社では、こうしたハイパーオートメーション市場に乗り出していくことで次の成長の柱をつくっていく方針です。
眼光紙背 ~取材を終えて~
株式上場までの道のりは一筋縄ではなかった。受注が増えても人手不足で納品が間に合わず、売り上げが伸び悩む。そこで生み出したのがAIとRPAを融合させた「ハイパーオートメーション」の技術だ。
日々の業務を当たり前だと思わず、先進的なITで合理化と自動化を実現した。企業向けITの原点に立ち返って変革を推し進めた結果で、中村社長は「ハッカータイプの人材によって難局を乗り越えた」と話す。
人材採用では、大学の学部ごとの偏差値をAIに学ばせ、自然言語処理によって志望動機などの記述欄も分析。学生数十万人分のデータから必要とする人材を絞り込み、オファーをかける。中途採用でも同様の自動化フローを構築する。今後もハッカータイプの技術者の獲得を進め、さらなる成長を目指す。
プロフィール
中村けん牛
(なかむら けんぎゅう)
1971年、栃木県生まれ。93年、早稲田大学法学部卒業。同年、野村證券入社。94年、TAC入社。98年、公認会計士第2次試験合格。中村けん牛会計士補事務所開設。2002年、プライム・ストラテジー設立。代表取締役に就任。
会社紹介
【プライム・ストラテジー】複数のウェブを統合運用するマネージドサービスなどを提供。2023年11月期の連結売上高は前期比19.4%増の9億2077万円、経常利益は同15.0%増の3億3544万円を見込む。従業員数は約30人。