アビームコンサルティングの2023年3月期の連結売上高は1217億円で、過去最高を達成した。4月に社長に就任した山田貴博氏は「顧客の望む変革領域は拡大している。単なるレガシーシステムの刷新による『業務効率化』ではなく、収益が出せる『DX』の実現が求められている」と語り、ビジネスチャンスが増加しているとみる。パートナーエコシステムを強化し、共創を通じた新たな価値提供によって、複雑化する顧客のニーズに応える構えだ。
(取材・文/大畑直悠 写真/大星直輝)
変革領域は拡大している
――23年度3月期の売上高は1217億円と、過去最高になりました。好調の要因を教えてください。
顧客が変革したいと望むIT領域の拡大や複雑化が、新たな需要を呼び、成長を後押ししています。これまでは基幹系システムのモダナイゼーションを中心とした引き合いが多くありましたが、データ活用やクラウド、AIのような新しいデジタル技術を積極的に活用することで、より多くのITシステムのレイヤーでモダナイゼーションを進めたいというニーズが高まり、ビジネスチャンスが生まれました。また、こうした変革領域の拡大で、顧客の人材不足が顕著になってきたことも業績を押し上げる要因となりました。
顧客がコンサルティング会社に期待することも、複雑になり高度化しています。システムの構築やSAPの製品導入といったビジネスは、レガシーシステムの刷新が求められる「2025年の崖」や、「SAP ERP 6.0」の標準サポートが終了する「2027年問題」が顕著な時期には引き合いがあっても、いずれシュリンクし投資規模も縮小します。今後、サステナブルに成長するためには、顧客に伴走しながら、より付加価値が出る変革を提案する必要があるでしょう。
――具体的に顧客のニーズはどのように変化していますか。
単に効率化したいという要望ではなく、収益が出せるDXの実現を望んでいます。例えば、基幹系システムのモダナイゼーションにより経理や財務、販売管理などの業務を効率化できますが、加えてデータドリブン経営を実現することで、コスト削減にもつなげたいと望んでいます。現在はさらに一歩進んで、デジタル技術を積極的に活用して、基幹系システムのリプレースではカバーしきれない、顧客接点などの領域で変革に取り組みたいという顧客もいます。営業のチャネルを増やしたい、既存のサービスの品質を向上させてより収益を上げたいと、コスト面ではなくレベニュー面での変革を望む声が高まっています。
「共創」がキーワードに
――複雑化する顧客のニーズに対し、どのように応えていきますか。
単なるレガシーシステムの刷新ではなく、顧客のビジネスに対して変革のテーマを創出し実行するには、複数の専門知識が求められます。例えば、業界共通の変革のテーマを見据えた上で、顧客を変化に対応させる必要があります。顧客が目指す経営の姿を明確にして、戦略を立案し、実行するために業務面、人材面で支援し、必要なITソリューションのアーキテクチャーを構築して導入するなど、必要な専門スキルは多岐にわたります。
求められるスキルが多様化する中、コンサルティング会社が1社で全てをカバーしようとしても、提供できる価値は限定的になるでしょう。そのため、ケイパビリティの向上に取り組むのと同時に、パートナーエコシステムを構築し、それによって多様化する顧客の期待に応えることが、今後ますます求められると考えています。その意味で「共創」が非常に重要なキーワードになります。ITベンダーやクラウドベンダーなど、ときには顧客も巻き込んだ共創を目指します。
――すでにそうした共創型のプロジェクトは進んでいるのでしょうか。
すでに走り始めています。住友商事およびSCSKとの共創で、温室効果ガスの排出量を算出・可視化するシステムの導入から、排出量削減の効率的なロードマップの策定・評価の見直し、削減のためのソリューションの提供までを一貫してサポートするサービス「GXコンシェルジュ」を立ち上げています。サプライチェーンや物流業者などが絡み合うため、脱炭素化の実現は1社単独でどうにかできるものではありません。そのための共創の場が必要になるので、当社としてもコンサルティングサービスだけではなくプラットフォームを構築し、その中で支援できるメニューを増やしていく方針です。
こうした共創には、もちろんITの力が不可欠です。システム開発やアウトソーシングも含めて、パートナーであるITベンダーの力が重要になります。パートナーと相互協力し、役割分担をしながら新しい価値の創出を進めていきます。
――パートナーとはどのような関係を築いていきますか。
共創を軸とした新たな価値の創出に向けてパートナーの存在は不可欠ですので、お互いがウィンウィンになれるように、パートナーとの関係を強化しています。具体的な施策としては現在、社内で行っている人材育成のプログラムをパートナーにも提供し始めています。
このほど、子会社のアビームシステムズが仙台市に新たな拠点を開設しましたが、これも単に受託先を探す足掛かりにしようというわけではなく、パートナーとともに東北地方全体のIT人材を育成する拠点として、産業構造の強化や新たな産業の創出に積極的に関与し、リーダーシップを発揮することを念頭に置いています。
――NECとは現在どのような関係か、教えてください。
われわれは「戦略的資本提携」と呼んでいますが、事業執行の独立性はしっかりと担保されています。とはいえ、NECの森田隆之社長とも「使えるものは全部使い倒していく」という話をしており、NECの顧客ネットワークや技術などを使わない手はありませんので、NECとも共創の関係を築きつつ、われわれが提供できる価値を上げていきます。コンサル起点でビジネスを創出し、結果としてNECの成長につながるならば、こんなによいことはないでしょう。
製造業に注力
――今後の成長に向けた戦略をお聞かせください。
まずは複雑化するニーズに対応するべく、顧客の経営のアジェンダを明確にし、それを起点に策定した変革テーマを、業務改革や人材改革、ITの活用といった多岐にわたるアプローチで実現することで、顧客に価値を創出するサイクルをしっかりと回せる体制を整えます。現在、経営状況が好調なので、今のうちに、こうした体制を整えたいです。
二つめとして、われわれの強みはITを活用した変革に関するノウハウの蓄積なので、顧客のDXに伴走することに加え、単独の顧客だけではなく、サプライチェーンやバリューチェーン全体の変革に携わっていきたいです。
われわれの顧客層は非常に広いですが、特に金融や産業インフラといった業界は非常に強く、この強みを引き続き堅持しつつ、今後は製造業の支援に力を入れます。製造業を中心とした産業構造は重要視すべきで、ここを変えなければ日本の構造改革はなかなか進まないでしょう。特に自動化が進む自動車製造などの組み立て系に対して、石油精製や鉄鋼などの巨大装置やプラントを使うプロセス系はまだまだ旧態依然としたところが多く、われわれが貢献できる部分は大きいと感じています。
――長期的な展望を教えてください。
これは当社の歴代の経営者も言ってきたことですが、アジアに進出する企業が事業戦略を立てるときに、われわれがファーストチョイスになることを目指したいです。グローバルに拠点を持っていますので、これからアジアで成長を目指す企業や、アジアからグローバルに進出する企業の価値創出を支援できます。創業以来、アジア初のグローバルスタンダードをつくりたいという志を強く持っています。パートナーとともにそれを実現します。
眼光紙背 ~取材を終えて~
コンサルタントとして、「ありとあらゆる業界を経験してきた」。約30年の長いキャリアの中で、顧客のデジタル技術への要求は、著しく高度化しているという。
ITベンダーのプロフェッショナルサービスの動きが活発化していることや、上流工程から案件に携わるSIerの台頭など、取り巻く市場環境は厳しくなっている。しかし、単なるデジタル化ではなく、事業変革を視野に入れる顧客が増え、DXが顧客のビジネスと直結する時代だからこそ、戦略立案から最適なITソリューションの選定・導入までトータルで伴走できるアビームコンサルティングへの期待は高まっている。
「今年4月に社長に就任した際、一番喜んでくれたのは、取引先の方々だった」と言い、顧客とのそうした関係性を非常にうれしく感じている。顧客やパートナーへのコミットメントを何より重視する山田社長の人柄が、そこかしこに感じられた。
プロフィール
山田貴博
(やまだ たかひろ)
1992年に東北大学文学部を卒業し、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)に入社。その後、Deloitte Touche Tohmatsu(デロイトトウシュトーマツ)を経て、2003年アビームコンサルティングに入社。16年に取締役となり、20年に代表取締役副社長COOに就任。23年4月から現職。
会社紹介
【アビームコンサルティング】顧客企業の経営戦略の立案から業務改革や組織改革に加え、ITシステムの設計、開発、実装までをトータルで支援するコンサルティングサービスを提供する。グローバルに28拠点を持つ。