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データを活用すれば業績はまだまだ伸びる
arcserve Japan 職務執行者社長
公家尊裕
取材・文/大畑直悠、日高 彰 撮影/大星直輝
2023/11/06 09:00
週刊BCN 2023年11月06日vol.1991掲載
(取材/大畑直悠 文/日高 彰 写真/大星直輝)
成熟市場でも高成長を継続
――全世界の売り上げのうち約30%を日本法人が占めていると聞きました。米国に本社を置いてグローバルビジネスを展開するIT製品の企業としては、非常に高い比率だと思いますが、これだけ国内市場で支持されている理由をどうみていますか。大企業よりも、中堅企業から小規模事業者までをカバーできる製品に注力してきたことや、オンプレミスのソフトウェアやアプライアンスといった日本のユーザーが好むものを提供してきたというところがありますが、一番大きな理由は、経験豊かな販売チャネル網が完全に構築されていることにあると考えています。バックアップはあって当たり前のインフラであり、ユーザーからみてキャッチーでトレンディなソリューションではないと思います。自分が社長を引き受けた会社の製品をトレンディでないというのは心苦しいところもありますが、それだけ製品を扱い慣れており、優れたエンジニアを抱えた信頼できるパートナー網が確立されているという部分が大きいと思います。
――これまで15社でカントリーマネージャーを務めてこられたということですが、アークサーブでは何がミッションになるとお考えですか。
直近ではスタートアップに近く、比較的新しい会社のカントリーマネージャーを務めることが多かったのですが、アークサーブは日本で20年以上の実績を持つ歴史のある会社です。入社に当たって幹部と話をしたときに多く出てきたのが、「新しい風を吹かせてほしい」という発言でした。
確立されたビジネスモデルがあり、売り上げも非常に高い。しかし過去10年くらいの間で、IT業界ではモノの売り方が変わってきました。製品を直線的に売り切るモデルから、サブスクリプションを中心にしたモデルに変わってくると、組織の体系が変わり、私たちから出すメッセージも変わり、ユーザーとの関わり方も大きく変わります。われわれのようなメーカーが製品を出す、ユーザーが使い方を考える、というかたちから、メーカーがユーザーに近い位置でペインポイントを理解して、それを解消していくというように、顧客との距離感も縮まってきたと思います。そこで、新しいビジネスモデルや組織のあり方を導入してほしい、ということで私が採用されたのだろうと考えています。
――事業の概況を教えてください。
われわれのビジネススタイルは三つに分けて考えています。一つめはOEMビジネス。当社が直接販売するのではなく、ハードウェアベンダーの製品にアークサーブ製品を組み込んで販売してもらう形態です。次がいわゆるランレートビジネスです。これは毎週多数のエンドユーザーに対する細かな販売が、パートナー各社を通じて入ってくるモデルです。そして最後に、数千万円規模の案件など、ある一定の金額水準を超えるものを「プロジェクト」と呼んでいます。私は就任してまず、伸びる余地があろうと考えられるプロジェクトについて、案件の創出と成約率向上にフォーカスすることにしました。OEMビジネスは当社の取り組みが直接的に業績を動かす余地は小さいため、市場全体と同程度の伸びですが、金額の大きいプロジェクトビジネスが大きく伸びたことで、直近では前年比30%増の成長を遂げることができています。

B2Cの新興企業と同じ営業手法を導入
――プロジェクトビジネスは今後どのように伸ばしていくのでしょうか。500~2000人のミッドサイズの企業がスイートスポットになると考えています。そういった企業は事業規模が大きい一方で、IT投資がそれほど進んでいるわけではない面があります。かつて攻撃者が狙うのは大手企業でしたが、そこから規模の小さい企業に下がってきて、防御が甘いところが狙われています。そして、従来のランサムウェア対策は、攻撃者の侵入を入り口で止める、あるいは侵入を検知するソリューションが中心でしたが、われわれは、万が一被害が発生したときにどうやって復元するかというところを前面に押し出したメッセージングをしており、現在は「バックアップ」から「バックアップ/レジリエンス」という言い方に変えています。ランサムウェアの被害額は、システムの復旧にいくらかかったかよりも、ビジネスが止まっていた間の機会損失のほうが大きいです。戦略的な製品として、イミュータブル(変更・削除不可)ストレージ「OneXafe」のエントリーモデルを出しましたが、アークサーブはこれまでとは違った角度のランサムウェア対策を提供できることをお伝えしていきます。
――社長就任にあたり、「ハイスピード、ハイレゾリューション」という戦略を掲げられています。ハイスピードは理解しやすいですが、ハイレゾリューション(高解像度)とはどういうことでしょうか。
当社は非常に多くの顧客を抱えていますが、それを細かなプロファイリングによって、B2Cの会社が行っているようなきめ細かいパーソナライジングを行ってアプローチする戦略です。これまでは既に進行しているプロジェクトの成約率を高めることに注力してきましたが、今後に関しては、新興スタートアップ企業では当たり前に行われているインテントセールスを導入しようと考えています。インテントとは顧客の意図や目的を意味しますが、われわれのユーザーになり得る方々がどういう動きをしているのかを把握したうえで、プライオリティを付けてコンタクトする手法です。
「arcserve」で検索したユーザー、「バックアップソフト」で検索したユーザー、「ランサムウェア対策」で検索したユーザー、あるいは競合他社の名前で検索したユーザーといったように細かくプロファイルを割り、当社の営業担当者が直接コンタクトをするのか、自動的にメールを送信するのか、外部の企業と連携したセミナーを企画してそこに集客するのかといったように、アプローチのバランスや濃淡をユーザーのポテンシャルによって変えていきます。お伝えする中身も、パーソナライズされたソリューションや導入事例などの情報です。自分に関係ないメッセージングだと、いくらコンタクトされてもユーザーには響きませんが、関係するメッセージには反応します。B2Cのマーケティングでは当然のことが、B2Bの世界でも起こります。
営業を格好いい仕事にする
――自社の自身の営業・マーケティング機能を強化するかたちになると思いますが、パートナーとの関係はどのように変化しますか。われわれが直販をするわけではありません。多くのパートナービジネスは「パートナーさん売ってください、よろしくお願いします」というモデルであり、パートナー各社に製品の理解を深めていただき、販売のモチベーションが上がるようなトレーニングを提供してきました。もちろんそれは非常に重要です。加えて、おこがましいかもしれませんが、インテントセールスと顧客プロファイルに基づくアプローチによって、当社がつくれるような案件もあるだろうと。パートナーにとっては、これまで通りのサポートが受けられるのに加え、これまで以上のリードが得られ、これまで以上に当社からの案件紹介が入ってくることになるので、全方位においてプラスになると考えています。
一番のポイントは、今までパートナーにお任せだったわれわれ自身が、考え方や行動を大きく変えなければいけないということです。今まで当社の営業は、ほぼチャネルの皆さんのイネーブルメントのみをやっていましたが、顧客をプロファイルごとに割って施策をパーソナライズするとなると、顧客をより理解して提案しなければいけないということになりますので、準備しなければいけないものの量・幅・深さが全て変わってきます。
――営業の強化というと人員の増強や、やや精神論的に「がんばります」と声を上げるような部分もあったと思いますが、これからは新しい仕組みで販売を加速していくということですね。
これまでのハイタッチ営業は、大企業など特定の重要顧客に担当営業を張り付けることを指していましたが、当社の担当は顧客に付くのではなく、細かなプロファイルに付きます。ハイタッチ営業で手薄になりがちな中堅・中小企業にも担当を付け、直接営業やSEが頻繁に訪問するわけではありませんが、パーソナライズされたメッセージを届ける。ユーザーの興味がある情報を届ければ、人が張り付いて話さなくても、メールでもセミナーでもよくなるわけです。
この戦略を推進するにあたっては、どこまでパーソナライズできるかが全ての肝になります。ここが、私がアークサーブに入ったポイントの一つでもあるのですが、既存のユーザー数が桁違いに多い。一般的なIT企業の顧客数は数百~数千社だと思いますが、当社は10万社以上の膨大なデータベースがあります。人が対応するのかテクノロジーが対応するのか、グラデーションを細かく付けられます。ポテンシャルが大きいユーザーでもタイミングが悪いと導入が進みませんが、インテントセールスによって最適なタイミングが計れます。
――営業という仕事についての考え方が変わりそうです。
最近、若い人にとって営業はやりたくない仕事とみられているそうです。リストを渡されて全部に電話しろと言われたり、ビルの上から下まで名刺を集めてこいと言われたりするんじゃないかと。それに対して当社の営業は、きちんとデータを集めて分析してターゲットを決めて、その方々が困っていることを解決するというようにしていきたい。営業ってすごい仕事、格好いい仕事だと思ってもらいたいんです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
新たな日本法人トップとして、もちろん業績の拡大は本社から課せられた使命だが、公家社長は「実は一番やりたいのは、社員に『ここで働くのは大変だけど、学んで成長できる。他のどこの企業に行っても通用する』と思ってもらえるような会社にすること」だと打ち明ける。
パートナーとの間で築いた、人間関係も含む長年の強固な絆をベースとしながら、ビジネスはうまく回っているように見える。そこにあえてデジタルマーケティングの手法を持ち込み、データを基盤とする新たな営業スタイルを定着させるという施策は、当初は営業の現場に困惑をもたらすことにもなりかねない。
しかし公家社長は、データ活用の推進によって、「ユーザーが何を必要としているかを、ピンポイントで知ることができるようになる。つまり、ユーザーにより近づいて問題解決や次の製品開発ができる」と説明し、B2BのIT商材でこれができている企業はほとんどないと強調。競争の激しい業界で生き残るために必要な考え方になるとする。この戦略は本社主導ではなく、日本法人独自の取り組み。最新の営業スタイルを日本発で実証することを目指す。
プロフィール
公家尊裕
(こうけ たかひろ)
デルコンピュータ(現デル・テクノロジーズ)で国内市場におけるサーバー、ストレージ製品の立ち上げを担当し、F5ネットワークスジャパンのセールスディレクターを務めたのち、2002年に日本ラドウェア代表取締役に就任。以降、米Quest Software(クエスト・ソフトウェア)や米Novell(ノベル)の日本法人、ギットハブ・ジャパンなど多数のIT企業でカントリーマネージャーを務め、23年8月から現職。音楽雑誌編集者の経歴も持つ。
会社紹介
【arcserve Japan】米国本社は1983年設立のシャイアンソフトウェアがルーツ。創業後ほどなくバックアップソフトが主力製品となり、中堅・中小企業向けに強みをもつ。96年に米CA Technologies(CAテクノロジーズ)によって買収されたが、2014年8月の投資会社への事業譲渡により、再び独立したデータ保護ソリューションベンダーとなった。
(取材/大畑直悠 文/日高 彰 写真/大星直輝)
成熟市場でも高成長を継続
――全世界の売り上げのうち約30%を日本法人が占めていると聞きました。米国に本社を置いてグローバルビジネスを展開するIT製品の企業としては、非常に高い比率だと思いますが、これだけ国内市場で支持されている理由をどうみていますか。大企業よりも、中堅企業から小規模事業者までをカバーできる製品に注力してきたことや、オンプレミスのソフトウェアやアプライアンスといった日本のユーザーが好むものを提供してきたというところがありますが、一番大きな理由は、経験豊かな販売チャネル網が完全に構築されていることにあると考えています。バックアップはあって当たり前のインフラであり、ユーザーからみてキャッチーでトレンディなソリューションではないと思います。自分が社長を引き受けた会社の製品をトレンディでないというのは心苦しいところもありますが、それだけ製品を扱い慣れており、優れたエンジニアを抱えた信頼できるパートナー網が確立されているという部分が大きいと思います。
――これまで15社でカントリーマネージャーを務めてこられたということですが、アークサーブでは何がミッションになるとお考えですか。
直近ではスタートアップに近く、比較的新しい会社のカントリーマネージャーを務めることが多かったのですが、アークサーブは日本で20年以上の実績を持つ歴史のある会社です。入社に当たって幹部と話をしたときに多く出てきたのが、「新しい風を吹かせてほしい」という発言でした。
確立されたビジネスモデルがあり、売り上げも非常に高い。しかし過去10年くらいの間で、IT業界ではモノの売り方が変わってきました。製品を直線的に売り切るモデルから、サブスクリプションを中心にしたモデルに変わってくると、組織の体系が変わり、私たちから出すメッセージも変わり、ユーザーとの関わり方も大きく変わります。われわれのようなメーカーが製品を出す、ユーザーが使い方を考える、というかたちから、メーカーがユーザーに近い位置でペインポイントを理解して、それを解消していくというように、顧客との距離感も縮まってきたと思います。そこで、新しいビジネスモデルや組織のあり方を導入してほしい、ということで私が採用されたのだろうと考えています。
――事業の概況を教えてください。
われわれのビジネススタイルは三つに分けて考えています。一つめはOEMビジネス。当社が直接販売するのではなく、ハードウェアベンダーの製品にアークサーブ製品を組み込んで販売してもらう形態です。次がいわゆるランレートビジネスです。これは毎週多数のエンドユーザーに対する細かな販売が、パートナー各社を通じて入ってくるモデルです。そして最後に、数千万円規模の案件など、ある一定の金額水準を超えるものを「プロジェクト」と呼んでいます。私は就任してまず、伸びる余地があろうと考えられるプロジェクトについて、案件の創出と成約率向上にフォーカスすることにしました。OEMビジネスは当社の取り組みが直接的に業績を動かす余地は小さいため、市場全体と同程度の伸びですが、金額の大きいプロジェクトビジネスが大きく伸びたことで、直近では前年比30%増の成長を遂げることができています。
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