CAC Holdingsの昨年度(2023年12月期)海外売上高が前年度比26.5%増と大きく伸びた。インドの事業会社の構造改革の成果が出てきたことや、インドネシアの事業会社が堅調に推移していることが追い風となり、売上高全体の30%近くを海外が占める。人口の多い成長国に焦点を当てた海外事業戦略を展開しており、年商500億円規模の準大手SIerの中で、海外売上高比率の高さは突出している。一方、国内事業は子会社を再編しつつ、年間150~200人の人材採用や、独自商材・サービスを起点とした新規事業の創出に取り組む。
(取材・文/安藤章司 写真/大星直輝)
インド会社で大型案件を獲得
――海外売上高が全体の3割近くに達しています。年商500億円規模の準大手SIerでこれだけ海外比率が高いのは珍しく、どのような状況なのか教えてください。
23年12月期の海外売上高は前年度比26.5%増の146億円、海外事業セグメント利益は同30.4%増の14億円と大きく伸びました。円安の影響もありますが、それ以上に主力のインド事業で複数年度にまたがる大型案件を受注するなど好調に推移していることが大きいです。14年にインド中堅SIerをグループに迎え入れたときは、ハードウェア販売を主体とした、いわゆる箱売り比率が大きかったですが、10年がかりでITソリューション領域へ事業の軸足を移してきた効果が出始めました。
――インドではどのようなビジネスを手掛けているのですか。
Inspirisys Solutions(インスピリシス・ソリューションズ)という事業会社を軸に、地場のITソリューション案件を手掛けています。海外売上高のうち、半分余りをインドで売り上げています。とはいえ、当社グループが強みとするITソリューション事業にまだ完全に移行しきれていない部分も残っています。採算性が低いビジネス領域から付加価値の高いビジネス領域へ移行する余地があり、その分伸びしろも大きいとみています。
――インド以外はどの国・地域に進出していますか。
インドネシアと中国がメインです。近年の当社の海外ビジネス戦略は明確で、人口が多いなど潜在的な成長余地が大きい市場に果敢に進出するというものです。地場の有力SIerをグループに迎え入れるケースが多く、インドネシアの中核事業会社のMitrais(ミトライス)は19年にグループに加わってもらいました。ミトライスはアジャイル開発に強く、バリ島に本社を置きつつ、売上高の7割ほどをオーストラリアのSI案件で獲得しています。
リモートワークを駆使してアジャイル開発に長けた人材を巧みに集め、日本の2倍余りに相当する人口2億7000万人のインドネシアの巨大な市場と、オーストラリアのIT需要を取り込み、営業利益率は常に20%余りを確保する非常に優秀な会社です。ミトライスの優れたアジャイル開発の技法は国内の当社グループにも取り入れてビジネスに生かしています。
中国については、インドとインドネシアのような地場のIT需要をターゲットにしつつ、日本からのオフショア開発のビジネスの両方を手掛けています。
――海外事業会社の人員規模はそれぞれどれくらいですか。
インドが一番多くて約2000人の体制で、次にインドネシアの約630人、中国が300人ほどです。当社グループの連結従業員数が約4500人ですので、全体の6割余りが海外で勤務する従業員となります。
SIerを迎え入れて地場市場に参入
――海外事業にそこまで力を入れる理由は何ですか。
当社は1970年代に台湾に現地法人を設立して以来、積極的に海外に拠点を置いてきました。もともと海外志向が強いことが背景にあると思います。80年代には日系の金融機関などのサポートで米ニューヨークや英ロンドンに拠点を置き、2000年代には中国での海外オフショア開発を本格化させています。ただ、10年代に入ってからのインドやインドネシアへの進出は、地場のIT需要を取り組むためであり、従来の海外の日系企業やオフショア開発を主な目的としたものとは一線を画しています。
当社単独で海外に拠点を構えても、なかなか地場のIT市場に食い込んでいくのは難しいため、すでにある程度の顧客基盤を持つ地場SIerをグループに迎え入れることで、地場市場への本格参入を果たしました。インドやASEAN市場への進出は実質初めてだったこともあり、会計基準をそろえるのに苦労したり、グループとの相乗効果があまり見込めないことが後になってから判明して、いったんは買収したシンガポールの会社を手放したりと、試行錯誤の連続でした。
――西森社長ご自身は、海外事業の担当経験はありますか。
私は16年までの5年間にわたって米国とインドにそれぞれ駐在して海外ビジネスを経験しました。後半のインドでは地場のビジネスを担う現地幹部の動きを見つつ、インドの日系企業から案件獲得ができないものかと考え、日本大使館が主催するビジネス交流会などに積極的に参加したものの、駐在期間中に獲得できた日系企業案件はわずか2件のみ。インドの日系現地法人の規模がそれほど大きくなかったり、IT投資の予算や権限を握っているのは日本の本社であったりと、地場で日系企業の案件がいかに少ないか身をもって経験しました。
SIビジネスは地場密着であり、営業やSEを動員して、いかに顧客の懐に深く入り込むかが勝負になります。そうした点でもすでにビジネス基盤を持っている地場SIerをグループに迎え入れる手法は、M&A後の統合プロセスがうまくいかないなどのリスクはある一方で、うまくいけば非常に有効な手段であることが改めて分かりました。
独自商材やサービスは目標過達
――国内事業についてもお話しいただけますか。
昨年度の国内売上高は、連結子会社の売却の影響もあってほぼ前年並みの359億円でした。ここ数年を振り返ると21年に旧シーエーシーナレッジ(現ユアサシステムソリューションズ)、製薬会社の治験業務などを受託するCRO事業、23年には旧CACマルハニチロシステムズ(現マルハニチロソリューションズ)を売却するなど事業再編をしています。元々ユーザー企業の情報システム子会社だった会社を買収したケースでは、近年のDXに伴う内製化といった合弁先の意向が働き、CRO事業はITソリューションと少し距離があるため切り離す決断をしました。
事業売却で縮小均衡しているわけでは決してなく、人員を増強したり、当社独自の商材を拡充したりと、国内事業の成長につながる取り組みを加速させています。既存のSI事業を伸ばすに当たり、直近数年は中途採用も含めて150~200人ほど人員を拡充しつつ、新規事業の創出に力を入れています。22年度に12億円だった独自商材やマネージドサービスの売上高を、25年度に50億円に伸ばす目標を掲げていましたが、昨年度の時点で60億円に増えて、前倒しで目標を達成することができました。
――独自商材はどのようなものが売れているのですか。
当社の強みの一つである表情や音声から感情を読み取るAIを使って、就職活動などの面接の練習ができる面接対策専用アプリ「カチメン!」や、同じく音声から感情を分析する用途でコンタクトセンターなどに利用されている「Empath(エンパス)」、少し変わったところでは養殖業向けに育てている魚を担保に融資を受けられるよう、養殖と金融を一体化したプラットフォームといった商材を開発しています。
独自商材や新規サービスの立ち上げ当初は、どうしても規模が小さく、まとまった売り上げが見込める既存SI事業に人員をとられてしまう傾向にありますが、当社は21~30年度までの長期的なビジョンをもって戦略的に新規事業を育てています。25年度までの4カ年中期経営計画を第1フェーズ、30年度までの5カ年中計を第2フェーズと位置付け、私自身が国内中核事業会社のシーエーシーの社長を兼務して、長期的な視野で当社ならではの特色あるビジネスを大きくしていきます。
将来的には国内の独自商材や、海外の事業会社の商材、ベンチャーキャピタルを通じて出資している海外スタートアップの先進的な商材などを国内外に展開したいと考えています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
2021年にCAC Holdings社長に就いて取り組んだのが、30年度までの9カ年を二つのフェーズに分けた中期経営計画の策定だった。独自性のある新規商材やサービスの立ち上げや、海外事業会社の構造改革に時間がかかることを織り込んで、「腰を据えて遂行できる体制づくり」を重視した。
異例ともいえる長期計画のうち、25年度までの前半4カ年は、構造改革や子会社再編などで高収益事業の比率を高めて手元のキャッシュを確保し、自社商材やサービスの創出に力を注ぐ。後半5カ年は創り出した商材・サービスを国内外に展開することで成長につなげる。
長期間におよぶ計画の策定に際して「役員や幹部と何百時間もかけて議論を深めた」と、時間をかけて合意形成を行った。海外事業の一層のテコ入れや、国内の新規事業の立ち上げを「ブレることなくやり通したい」と熱意をあらわにする。
プロフィール
西森良太
(にしもり りょうた)
1967年、東京都生まれ、千葉県育ち。94年、東京理科大学大学院理工学研究科工業化学専攻修了。同年、コンピュータアプリケーションズ(現CAC Holdings)入社。2009年、執行役員金融ビジネスユニット副ビジネスユニット長。11年、米CAC AMERICA取締役社長。14年、インドのAccel Frontline(アクセル・フロントライン、現インスピリシス・ソリューションズ)戦略担当役員。16年、CAC Holdings取締役。18年、シーエーシー代表取締役社長(現任)。19年、CAC Holdings常務執行役員コアICT領域担当。20年、取締役兼専務執行役員コアICT領域担当。21年、代表取締役社長。
会社紹介
【CAC Holdings】本年度(2024年12月期)連結売上高は前年度比1.9%増の515億円、調整後EBITDAは同8.6%増の45億円の見込み。うち海外売上高は150億円で全体の29.1%を占める見通し。インドやインドネシア、中国など成長国を中心に事業会社を展開。連結従業員数約4500人のうち6割余りを海外勤務の従業員が占める。30年度に連結売上高800億円の達成を目標に掲げる。