エンドポイントセキュリティー製品を手掛ける米Tanium(タニウム)は、IT資産を可視化し、脆弱性の有無を適切に把握することで、セキュリティーリスクを最小限にする考え方である「サイバーハイジーン」の重要性をいち早く市場で訴求してきた。現在はサイバー攻撃の巧妙化に伴い、侵入の予防策の重要性が再認識されており、同社製品の利用が加速している。2月、日本法人の社長に就任した原田英典氏は、サイバー攻撃に侵入されないIT環境を多くの企業に届けるため、さまざまな施策を推進していく考えだ。
(取材・文/岩田晃久 写真/大星直輝)
サイバーハイジーンの評価が高まる
――2月に社長に就任されました。率直な気持ちを教えてください。
日本法人は、素晴らしいメンバーがそろっていますし、過去4年間の売上高成長率は平均60%で、直近2年は約80%とビジネス自体も顕著に伸びています。このようなタイミングで社長に就任できたことは光栄です。同時に、このモメンタムをつくってきた古市さん(古市力前社長)には感謝しています。
――自社の強みはどのような部分になりますか。
当社の強みは人材です。エンドポイントセキュリティー製品を提案して導入、さらに支援していくには、セキュリティーだけではなく、OSやネットワークなど広い領域に対する深い知識が必要になります。当社には、TAM(テクニカルアカウントマネージャー)をはじめ三つの技術チームがありますが、スキルフルなメンバーがそろっているため、お客様にきちんとしたソリューションを届けられます。また、営業やマーケティングでも優れた人材が多く、チームの垣根を越えてワンチームで動くといったことが自然にできています。
――長年、サイバーハイジーンの重要性を訴えてきましたが、国内企業の意識も変わってきているのでしょうか。
予想以上に大きく変わってきていると感じています。さまざまな脆弱性が出てきており、攻撃者はその脆弱性を突いて攻撃してきますが、これまでのセキュリティー対策では、脆弱性の排除を徹底できない課題がありました。そういった背景から、サイバーハイジーン、そして当社への評価が高まっています。
――どういった企業で利用が多いのでしょうか。
国内では、従業員数5万人以上の企業の半数が当社の製品を利用しています。今後は、2万人以上~5万人未満の企業の新規開拓に取り組み、数千人~2万人未満の企業に対しても、パートナー経由での販売に注力していきます。
――大手企業で利用が進む要因はどういった理由でしょうか。
企業規模が大きくなるほどエンドポイント管理が難しくなりますが、それを解決するのに適したソリューションとして評価されやすい点があります。そして、パートナーと協力して市場での認知を拡大し、お客様に最新のテクノロジーとしてきちんと提案できたことが大きいですね。
――国内企業の大半を占める中小企業へのアプローチは予定されていますか。
中期的に取り組んでいく分野だと考えています。具体的には、MSSP(マネージドセキュリティーサービスプロバイダー)を中心に、パートナーのサービスとしてSMB(中堅・中小企業)のお客様に提供していくことを想定しています。
「AEM」でイノベーションを起こす
――米国本社は日本市場をどう捉えているのでしょうか。
タニウムでは、米本社のことをコーポレートという言い方をしていますが、コーポレートからの日本市場への期待は大きく、積極的な投資が行われています。そこには、日本市場でサービスの品質などをクリアできれば、グローバルでも受け入れられるという認識があるためです。CEOのダン・ストリートマンも頻繁に来日しています。
グローバルの売上高において、日本は米国に次いで2番目の大きなマーケットです。米国を追い抜くのは難易度が高く現実的ではありませんが、現在のポジションを崩さず、しっかりと成長を遂げていきたいですね。
――「Tanium XEM(コンバージド・エンドポイント管理)プラットフォーム」はどのような特徴があるのでしょうか。
XEMは、エンドポイントをワンストップでリアルタイムに可視化して制御し、これをベースにお客様に必要なソリューションを提供するというものです。エンドポイントといってもデスクトップやラップトップ、仮想マシンなど幅広く、それぞれで資産管理、脆弱性管理、EDR(Endpoint Detection and Response)など求める要件や機能も異なりますが、Tanium XEMプラットフォームでは、シングルエージェントで必要な機能を利用することができます。
――昨年、AIを活用したAEM(自律型エンドポイント管理)機能を発表されました。
当社は、各エンドポイントが必要とする要件を、セキュリティー管理者の手を煩わせることなく自律的に提供することをゴールとしており、AEMは、それを実現するための機能になります。例えば、ある脆弱性が見つかった際、社内の1万台のエンドポイント端末のうち、1500台が何らかの影響を受ける可能性があるとします。そういった場面で、AEMにより1500台の属性情報を加味した上で、自律的に500台にはこのパッチを当てて、300台には違うパッチを当てるなどして正常化する、このような世界をつくり出すことを目指しています。すぐに実現できるわけではありませんので、まずは半自動化から完全な自動化、そして、最終的な自律化に向けて取り組んでいきます。私は、AEMによりエンドポイント管理の領域でイノベーションを起こせると思っていますので、国内のマーケットに合わせたメッセージを発信していきます。
国内向けのパートナープログラムを予定
――パートナー戦略について教えてください。
これまで、資料の提供、提案や構築の際の支援などを行ってきましたが、売り方がまだ分からないというパートナーは少なくありません。今後は、商談の場に当社の営業担当者が同席して、ファーストコールからセカンドコール、クロージングまでの流れをパートナーの営業部隊に体感していただけるようにします。ここは、私が踏み込んで実施していかなければならないと判断した部分であり、大きな行動の変革として進めていきたいと思います。将来的には、パートナーの中にタニウムのコアチームを設立してもらい、一緒にマーケットをつくっていきたいですね。
本年度はグローバルでパートナープログラムが刷新されるので、国内のプログラムの刷新も検討しています。パートナーの技術者数や資取得者数など、より当社と一緒にマーケットをつくっていくという考えを持つパートナーがベネフィットを享受できる内容にしたいです。現在のパートナープログラムには少しあいまいな部分があるので、明確に定義することで分かりやすいプログラムができると思います。
――サポート体制を強化するとうかがっています。
通常のサポートの部分は、人員を2倍にしてレスポンスを短くすることでお客様のオペレーションに影響が出ないようにします。難易度の高い案件に対しても、専門チームで迅速に対応できるよう強化していきます。加えて、お客様にこれまで以上に寄り添ったサポートも重要だと考えており、2~3年先を見据えた場合にお客様にどのようなオペレーションが必要になるのか、TAMのスタッフがプリセールスのようなかたちで提案するといった支援を行います。これにより、当社の製品を高度に利用してもらえるはずです。
――先日の事業戦略説明会の中で「脱セキュリティーベンダー」という言葉がありました。この言葉の意図を教えてください。
当社には素晴らしいテクノロジーがあります。エンドポイント端末が100万台あったとしても、1台1台、さらに全体を瞬時に把握してアクションでき、確実に正しい情報を得られます。ほかにはないテクノロジーをセキュリティーだけにとどめておくのはもったいないと感じています。
確実で正しい情報はソリューションの土台になります。例えば、米ServiceNow(サービスナウ)のCMDB(構成管理データベース)と当社の製品は連携していますが、正しい資産情報を提供することでCMDBの価値を高めることができています。今後もソリューションの土台として活用していく取り組みを、自社だけではなくアライアンスパートナーとともに推進して、セキュリティーに限らないソリューションを創造していきたいですし、そのポテンシャルが当社にはあると思っています。
――今後の展望をお願いします。
日本法人のコアになっているのは現在のメンバーですので、彼らが自分自身を高められ、やりがいを感じられる働きやすい環境をつくり続けていくことが私のミッションですし、日本法人の永続的な目標にもなります。そして、お客様、パートナー、チームメンバーに愛される会社にしていきたいですね。
眼光紙背 ~取材を終えて~
最近はセキュリティー市場において、サイバーハイジーンという言葉を耳にする機会が増えた。これには、いち早くサイバーハイジーンの重要性を訴えてきたタニウムの存在が大きいはずだ。
原田社長がタニウムに入社した2017年当時は、現在ほど知名度は高くなく、社員も少なかった。そこから急成長を遂げ、顧客数は増加し、優秀な社員も多くそろった。この姿を想像していたかと聞くと「17年から売り上げも採用も計画通りに進んでおり、想像できていた」と胸を張る。
取材の中で、社員を称賛する言葉が何度も出ており、社員に対して厚い信頼を置いていることが伝わってきた。セキュリティー市場は目まぐるしく変化し、競争も常に激しい。「今後もみんなで日本法人を成長させていくということを大事していきたい」と語るように、信頼する社員と力を合わせて競争に勝ち抜いていく。
プロフィール
原田英典
(はらだ ひでのり)
NECで製造業向けの営業や、東南アジアの日系企業向けのビジネス支援などを経験。その後、米VMware(ヴイエムウェア、現Broadcom〈ブロードコム〉)に入社、グローバル兼ストラテジックアカウント営業部門長に就任。2017年に米Tanium(タニウム)日本法人に入社、営業本部長や上席執行役員副社長営業統括本部長を歴任。24年2月から現職。
会社紹介
【タニウム】米Tanium(タニウム)の日本法人として2015年に創業。コンバージド・エンドポイント管理 (XEM)プラットフォーム「Tanium XEMプラットフォーム」を提供し、グローバルで3300万以上のエンドポイントを保護する。