AI技術が実用化したことによって、企業におけるデータ利活用は新たなフェーズを迎えた。4月にインフォマティカ・ジャパンの新社長に就任した小澤泰斗氏は「データとAIを活用して、日本企業がビジネスを盛り上げていってほしい」と語る。製品の提供にとどまらず、ガイド役としてパートナーと共に顧客のデータ利活用を加速させていくとした。
(取材・文/大向琴音 写真/大星直輝)
ETLからデータマネジメントクラウドへ
――2015年からインフォマティカ・ジャパンの事業に携わり、4月に社長に就任されました。意気込みをお聞かせください。
新卒でSAPジャパンに入社し、その後当社に移り、長くこの業界に携わってきました。営業部長や営業本部長、そして社長というキャリアを経ていますが、海外の良さを知り、それを日本に持ってきて、日本の良さと掛け合わせてブラッシュアップしていくことで、日本企業や日本市場を盛り上げていきたいとの変わらぬ思いがあります。
――データを扱う老舗ベンダーとして、データを取り巻く今の市場環境をどのように分析していますか。
データ専業ベンダーとしてこれからの日本を支えていくために何が必要かを考えると、やはりAIがかぎになるでしょう。現在、データの世界は「予測」へと向かっています。これまで、物事を予測する上では人の経験が重要となっていました。しかし今後は、人の経験と言われているものをデータ化し、AIで分析して予測の精度を上げていく世界になっていくと考えています。しかし、AI技術はまだまだ未成熟なところがあります。例えば、もっともらしいうその情報を出力してしまうハルシネーションなどによって、会社の事業に損失が出てしまう例も出てきています。ですから、うまく損失を回避しながら、AIを活用した分析を実現しなければならないというのが、今の大きな課題です。
データを扱う上では、しっかりと品質が担保されていなければいけません。情報漏えいなどの事故を防ぐためにセキュリティーも重要になっています。AIの活用を促進するには、これらを実現することが必要になります。データの世界が変化していく中で、当社も、いわゆるETL(データの抽出、変換、格納)ベンダーからデータマネジメントクラウドベンダーへと姿を変えました。
――データ活用のための基盤を提供するとしているベンダーは数多くあります。インフォマティカの強みはどこにあるのでしょうか。
データやAIのトレンドに対し、当社はデータの民主化を支えるテクノロジーをはじめ、データの品質の担保や、データを統制するデータガバナンスの領域にまでソリューションを展開しているプラットフォームベンダーであるところが強みです。データ連携やデータカタログなど、それぞれの領域で事業を展開している企業はありますが、これら全てのテクノロジーを持っている会社はほかにないと自負しています。
製品に加えて世界の優れた知見を提供
――データ活用における日本市場の現状をどう見ていますか。
(データ活用に関して)総論賛成ではありますが、各論ではまだ賛成するに至っていないのが現状でしょう。ビジネスをデータドリブンに変えていかなければならないとの意識は皆さん持っておられますが、実際の活用ではまだ道半ばです。「皆さんのご要望に応えられるこのような事例がありますよ」というように、当社がガイドしていくことが重要だと考えています。
――具体的に、顧客をどのようにガイドしていくのでしょうか。
当社は唯一無二のデータマネジメントプラットフォームを提供していますが、それを実際に扱うのはわれわれのパートナーであり顧客です。そこで、製品の提供だけでなく、われわれ自身がデータ活用のガイド役となることが必要となるわけですが、もちろん日本市場なので、ガイドについても「withパートナーズ」で取り組むことが非常に重要だと思っています。
日本では、ユーザー企業がやりたいことをSIerに“丸投げ”する場合も少なくないですが、SIerはユーザー企業のビジネスのことが完全にわかっているわけではないので、システム寄りの提案にとどまってしまう面がありました。そこで、当社はこれからパートナーと一緒に、業界ごとのユースケース集をつくり、それを基にしっかり顧客に提案できるようにしていきます。そのためには、グローバルのベストプラクティスをわれわれからパートナーに発信していかなければならないと考えています。ベストプラクティスをブラッシュアップするところから一緒に取り組み、その手法の日本バージョンや、あるいはパートナー個別のバージョンをつくって提供するというのが、今考えている流れです。いくつかの業界に関するテンプレートが内部ででき上がってきているので、今後は日本語に訳してリリースしていこうとしています。
――パートナー戦略について教えてください。
日本には現在20社以上のパートナーがいます。カテゴリーはプラチナ、ゴールド、シルバーの三つに分かれており、プラチナとゴールドがライセンスの販売権を持っているパートナーで、シルバーはライセンス販売権を持たずプロジェクトの支援をしています。プラチナやゴールドのパートナーがライセンス販売を行う際、不足しているプロジェクトのリソースを補うためにシルバーパートナーと協力するなど、パートナー同士でチームを組んで顧客に提案するケースもあります。
チーミングの観点での取り組みも進めています。パートナーの顧客ごとのフロント営業と、当社の製品を取り扱っていただいている部隊、そして当社の社員とで、アカウントに対してどのような方向性を目指しているのかについて話し合っています。それは当社の製品だけではなく、例えば周辺のアプリケーションに関することなど、トピックは多岐にわたります。このほかにも、各パートナーと契約している顧客に対してどのような提案ができるか、カスタマーサクセスのディスカッションも定例で行っています。
生成AI機能の日本語版リリースを目指す
――今年は「CLAIRE GPT」という生成AI機能をリリースされました。今後の製品戦略についてはどのように考えていますか。
製品戦略は生成AIの方向にかじを切っています。CLAIRE GPTは5月に正式リリースした機能で、例えば、チャットで問い合わせると、顧客データの場所やその品質状態を教えてくれたり、データをつないでほしいとチャットすると、裏でETLが組まれてデータが出てきたりします。現在は英語版が利用可能で、日本語版のリリースに関しては未定です。特にロードマップなどは公表していませんが、日本語版も追随して出していくべきと考えています。
――顧客からのCLAIRE GPTへの反応はいかがですか。
大きな反響をいただいています。「日本語版はいつリリースするのか」との問い合わせが多く、まず英語版でもいいから使ってみたいと言ってくださる企業も増えています。こうした動きの背景には、データを利活用していきたいと考える企業が非常に増えていることがあると考えています。ユーザー会などで話を聞く限りでは、少なくとも国内で数社が英語版で利用を始めていただいているとの認識です。
――今後の展望を教えてください。
データとAIを活用して、日本企業がビジネスを盛り上げていってほしいと考えています。データの重要性に関しては日本でも総論賛成の世界に入ってきているので、もう少しでブレイクスルーするのではないでしょうか。米国本社が7月末に発表した24年第2四半期の決算では、クラウドサブスクリプションの年間経常収益(ARR)が前年比で37%増となっています。データマネジメントがそれだけの市場規模になっている、あるいは期待値が高まっているのが数字に表われていると思います。今後の見通しについてはポジティブにしか見ていません。
眼光紙背 ~取材を終えて~
座右の銘は「継続は力なり」。努力を続けることで、明日の自分を今日より良くしたいとの思いがある。キックオフの際に社員にアンケートを書いてもらっている。中には辛口な回答もあるが、それらも常に取り入れながら、自分自身や会社のオペレーションなどを含め、日々改善活動を継続するようにしている。
「私が見ているのは、たかだか一社長目線の世界」と謙遜するが、社員が見ている世界を含め、俯瞰的に判断できる立場だ。「社長というポジションにおごらず、いろいろなところから上がってくる声を一つ一つ大切にしたい」と力を込めた。
プロフィール
小澤泰斗
(こざわ たいと)
1983年生まれ。2006年に早稲田大学商学部を卒業後、同年、SAPジャパンに入社。会計コンサルタントとしてSAP ERPプロジェクトを複数けん引。3年間のコンサルタント経験を経て、営業本部に異動。営業本部ではインサイドセールス・アカウント営業に従事。2015年、インフォマティカ・ジャパンに入社後、製造業を中心としたアカウント営業に従事。その後は営業本部長としてデータマネジメントの推進、普及活動に尽力。24年4月1日から現職。日本データマネジメント協会の理事としても活動している。
会社紹介
【インフォマティカ・ジャパン】米国本社は1993年にカリフォルニア州で設立。かつてはETL製品を主力としていたが、現在はデータマネジメントプラットフォームベンダーとして、データ統合ソリューション「Intelligent Data Management Cloud(IDMC)」を展開している。日本法人は2004年に設立。