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チェスソフト決戦、マシンに挑む人間 引き分けでも奇跡

2003/11/24 19:37

週刊BCN 2003年11月24日vol.1016掲載

 人が勝つか、マシンが勝つか――。運命の分かれ目を決めるチェス戦が注目を集めている。人間代表は“人類史上最強の男”の呼び声も高いアゼルバイジャン出身の40歳、元世界チャンピオンで世界ランキングナンバーワンのガリー・カスパロフ氏。対するマシンはチェスソフトのトップセラー「X3D Fritz(フリッツ)」だ。

 引き分けで迎えた4回シリーズ第2戦(11月13日、米ニューユーク)は、人間代表が32番のルークで演じた大失態で惨敗。独製チェスソフト「Fritz」と、米製バーチャルリアリティソフト「X3D」の国際連合軍は発売開始以来の快挙に沸いた。

 もっとも、チェスコンサルタントのジョン・フェルナンデス氏などは「人間がこけるのをただ待って刺すのではだめ。Fritzが持てる“インテリジェンスの本領”を行使するまでは満足できない」とまだ不服げ。

 「既に知っての通り、人間はミスを犯すが、コンピュータは犯さない。これが最大の違いだからね」と、持ち時間が残り少ないチェス王の置かれた今後の苦しい立場を予言する。

 この人間対マシン戦。ゲームは全て専用眼鏡とジョイスティックを使い、3Dのバーチャルリアリティ空間で行う。音声認識機能搭載で、名人が声に出して命じた通りに指し手がチェス盤に反映される仕組みだ。

 カスパロフ氏といえば、マシン相手の対戦ではちょっとした有名人だ。最も騒がれたのは、1996年から97年にかけての初デュエル(決戦)で、相手はIBMが誇る、当時としては地上無敵のマシン「Deep Blue(ディープブルー)」。カスパロフ氏はこの対戦で生まれて初めて苦杯を喫している。

 勝ったDeep Blueは意気揚々、02年7月の世界選手権で18台のマシンをなぎ倒して王位をゲットするなど、その無敵ぶりを誇示したが、今は引退し、静かに余生を送っている。

 逆に元気なのは負けたカスパロフ氏。「コンピュータ相手に戦うなんて車相手に駆けっこするようなもの。いずれはマシンが追い越す。そんなことは百も承知だ。それが時間の問題ということもね」と、しおらしいことを口では言いながらも“あいつ等の進化の度合いチェック”は欠かせないと見え、今もいろいろなマシンに挑戦している。

 今年1-2月には、国際チェス連盟(FIDE)公認の史上初の対コンピュータ公式戦を行った。イスラエルの新世代型プログラムで、マシン界の現世界チャンピオン「Deep Junior(ディープジュニア)」に挑み、世界300万視聴者がネットで見守るなか、3対3の引き分けに持ち込んだ。これがどんなにすごいことかは、コンピュータに識別可能な指し手パターンが毎秒300万通りであることを思えば十分に想像がつく。人間は名人レベルですらせいぜい数通り。引き分けるだけでも実は奇跡に等しいのである。(市村佐登美)
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