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インテル、無線LAN半導体の中国への出荷を断念 巨大市場をめぐる貿易摩擦

2004/04/05 20:44

週刊BCN 2004年04月05日vol.1034掲載

 米インテルが中国向けに無線LAN機能搭載の半導体を出荷しないことを決めた。中国がセキュリティ強化を理由に無線LANの独自技術を開発、その技術に準拠しない半導体の輸入を拒否する方針を発表したからだ。中国という巨大市場を入手できずにインテルは窮地に追い込まれるようになるのか。インテルの最新技術から中国は取り残されることになるのだろうか。

 中国が独自開発したのは、Wired Authentication and Privacy Infrastructure(WAPI)と呼ばれる無線LANのセキュリティプロトコル。中国は、同プロトコルに準拠しない無線LAN機器および無線LAN機能搭載半導体の同国内での販売を6月1日以降禁止すると定めた。同プロトコルに準拠したデバイスを製造するには、中国政府が指定する中国企業に対してライセンス料を支払うか、中国企業との合弁企業を設立しなければならない。

 また、同プロトコルの国外持ち出しは禁止なので、製品の開発、製造に関与する従業員はすべて中国国内に勤務させなければならないという。それに中国企業と合弁企業を設立し、開発、製造を合弁企業に任せれば、知的資産が流出する恐れがある。

 急成長する中国市場はインテルにとって非常に魅力的であることは言うまでもない。それでもこうしたマイナス面を考慮し、無線LAN搭載半導体の中国出荷を断念したようだ。

 一方、中国にとって無線LANのセキュリティは譲れない問題。セキュリティさえ問題なければ無線LANで情報インフラを構築し、有線LANインフラが整備された先進国の情報化にあっという間に追いつき、追い越すことが可能だからだ。また、独自プロトコルを推進することで先進国への依存から脱却するという狙いもあるようだ。それに技術力をつけ、「世界の工場」から「世界のハイテク拠点」への脱皮も目指している。12億人以上という巨大市場をちらつかせながら、最も有利な条件を先進国から引き出そうと考えているようだ。

 しかし、この戦略に問題がないわけではない。例えば中国のプロトコルに準拠した通信機器は、コストや価格が当然割高になる。また世界の最先端の技術者をすべて抱え込むことができれば話は別だが、独自技術よりもオープンな技術の方が進化が速いのも当然の話だ。それに中国の戦略があまりに強引だと、先進国の反発を買い、かえって中国にとって不利な展開になる可能性もある。

 事実、米政府はこのほど、中国のこの付加価値税制を貿易障壁だとして世界貿易機構(WTO)に訴えた。

 インテルの出荷拒否で一気に浮上した米中の貿易摩擦。80年代の日米貿易摩擦の経過を見ても、こうした貿易摩擦は長期化する傾向にある。長期化すれば、結局は米中双方の企業が不利益を被ることになる。また、業界標準が分裂することから、世界中のIT業界にとっても迷惑な話になりそうだ。(湯川鶴章)
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