論争の焦点はデジタル書籍検索サービス「グーグル・プリント」だ。これは同社がハーバード大学やスタンフォード大学など世界屈指の蔵書数を誇る米主要図書館5館と共同で構築しているデジタル書籍データベースと連動した検索サービス。ウェブ検索と一緒で、キーワード検索すると自前のデータベースから書籍の本文中にそれを含む書籍を探し出し、そのタイトルとキーワード周辺の文章数行を検索結果として表示する。広告掲載はゼロ。現物を注文したい人のためにオンライン書店へのリンクはあるがグーグルに紹介料は落ちない仕組みだ。

 本の中身を確かめて買いたい読者にとっては良いことずくめのこのサービス。発表当時は多方面で絶賛された。ところがスキャンの対象が著作権の有効な書籍にまで広がると分かると雲行きは一転。出版界では「版権物を全文スキャンして自社サーバーに置くこと自体ありえない」、「たとえ数行でも他人の文章を無許可で客引きに使うのは問題」という懐疑論が主流となった。

 協力を渋る出版業界とグーグルとの押し問答が続くなか、同社は著作権者から要請があれば対象から外す「オプトアウト」を妥協案として提示(7月)、スキャン作業を8月から一時棚上げにしたが和解は成らず、険悪な雰囲気のまま、争いは法廷に持ち越された。

 米国の著名作家8000人を抱える国内最大の同業者団体「米作家協会」(本部NY)は9月下旬に同社を提訴。翌月18日にはAAP加盟5社(マグロウヒル、ピアソン・エデュケーション、ペンギン、サイモン&シャスター、ジョン・ワイリー&サンズ)を代表してAAPがNY連邦地裁に同社を訴えた。同社は同日ウォールストリート・ジャーナル社説欄にエリック・シュミットCEO自らが所見を発表し、「スキャンはパブリック・ドメインと当社のパブリッシャー・プログラムにあらかじめ使用許諾を得たものが対象だ。掲載を望まないなら簡単に外せるし訴訟の必要などない」と反論。かつてソニーが“テレビ番組の家庭用ビデオ録画は合法”という最高裁判決を勝ち得たような形での根本解決に向け意欲を示した。 

 「これでグーグルが負けたら、グーグル・プリントだけでなくあらゆる技術に影響が及ぶ」、電子フロンティア財団知的所有権専門法律顧問はビジネスウィークにこう語ったが、ウェブ検索なども影響は必至だろう。例えばグーグルに頼んだ覚えはないのに検索でヒットする。だからといって「自分が苦労して作ったサイトでグーグルが儲けた」と文句を言う人はいない。検索対象から外すオプトアウトなるタグが存在すること自体知っている人はまれだ(検索して欲しくない人はこれをコードに記入するだけでいい)。なぜならウェブは検索エンジンと対で生まれた媒体だから、今さら検索抜きのウェブなんて誰も想像がつかないのだ。

 著作権法上は映画も書籍も音楽も意匠もウェブも扱いは同じ著作物。だが、「1軒1軒回って許可を取っていたら今日、ウェブ検索は存在しなかったはずだ」というグーグルの知的所有権法律顧問の言葉はおそらく真実だろう。「世界中の人類が過去に残した出版物すべてをデジタル化し一字一句逃さず検索できるようにする」というグーグル・プリントの事業規模に、出版側の求めるような「個別の使用許諾対応」が無理難題であることも確かである。

 つまりはプロジェクトが遠大過ぎるのか?それとも著作権法が時代に合わないのか?出版界とIT界の常識的な対応と米司法省の英断を待つほかない。(市村佐登美)