【北京発】WTO加盟時の約束を果たすため、また「創新型国家」(革新的な国家)戦略のため、中国は近年、一連の対策を打ち出して知的財産権保護状況を改善する努力をしている。まず隗より始めよというわけで、中央政府は毎年、1.5億元の予算を計上して正規ソフトを購入している。政府主導で著作権保護の施策が進められているが、海賊版の撲滅にはまだ曲折がありそうだ。

 著作権保護活動については、正規版ソフトウェアの使用を普及させるため、2000年より中央政府機関から正規版化運動がスタートし、04年末にすでに正規版化を実現したとされている。国家版権局の広報官、王自強氏の06年4月19日の記者会見での発表によると、中央政府は正規ソフトウェア購入に毎年1.5億元の予算を割いている。同記者会見で発表された数字では、36省・市で政府部署用のソフトウェアの調達や正規版への入れ替えが完了しており、330市では正規版ソフトウェアの購入予算を組んだという。

 上海市版権局によると、地下の海賊版CD製造ラインの撲滅にも力を入れているようだ。96年以来、海賊版CD製造ライン(機械)223本を押収し、05年には17ラインもの大量押収を果たした。さらに、手掛かりとなる情報を提供した者には、15─30万元の奨励金も支給している。確かに数年前と比べると、町の中のあちこちで見かけた海賊版CDの行商人の姿は、大いに減ったようだ。ただし、日が暮れると、地下鉄の駅や繁華街、住宅地周辺で海賊版映画のDVDを売っている人をたまに目にする。

 インターネット上の著作権保護の状況はどうだろうか。インターネット産業の急速な成長やオンラインゲームのブームもあって、中国政府には、ネットワーク上の著作権保護に向けての意欲はあるといえるだろう。「インターネット著作権行政保護弁法」「情報ネットワーク伝播権保護条例」の公布、ネットワーク権利侵害行為打撃特別アクションの展開などは、多少なりとも状況改善に役立っていると思う。

 しかしながら、ビジネスソフト、MP3の音楽ファイル、クラッカー、シリアルナンバーはネットにあふれているのが現状である。特に大学構内にあるファイルサーバーや運営者も見つからない小さなウェブサイトには、海賊版ソフトや音楽が大量にアップロードされている。

 インターネットサービスプロバイダやサーチサービスプロバイダ、そして権利者が、今後、制定された著作権保護のためのこれらの法律・条例に基づいた対策などをいかに運用し、実効化させるかが課題になるだろう。

 このようなことから、中国政府が海賊版を撲滅する努力をしていないとみるのは不公平かと思うが、かといって短期間に大幅な改善がなされる見込みは薄いと思われる。

(1)教育の問題。知的財産権の所管官庁は、ようやく知財普及における教育の重要性を認識し始めた。いろいろなイベントを通して、知財保護の重要性を国民に伝えようとしている。しかし、中国国内では、権利者側の著作権に対する認識不足が問題点として挙げられる。法律を武器にして権利侵害者と戦う人はめったにいない。さらに、権利者は、他の権利者に対する配慮が足りない。例えば、ソフトウェア会社が海賊版ソフトウェアを平気で利用しているように、自分の権利を守ってほしいと主張する一方で、他人の権利を平気で侵害してしまう。これは国民性にもつながるもので、著作権保護にとっては非常に不利に働く。

(2)政府の問題。中国では、司法保護のほかに行政保護の手段が設けられている。中国政府、省、市、一部の県において、版権局という機構が、著作権に関する法律施行や行政保護(調査、行政処罰)を行う。このような巨大なシステムは、野党や世論などの監督なしで「垂直コマンド体制」で動いており、効率的であるわけがない。

(3)司法保護の問題。知的財産権法が民法や刑法と異なるところは、技術が多くかかわっていることだ。残念ながら、中国には知的財産権に詳しい裁判官が乏しいことは事実である。

 著作権保護について、政府が強力に主導権を握ってリードしていくのは悪いことではない。しかし、国民の側からのボトムアップがなければ、成果はなかなかあがっていかないだろう。
魏鋒(ウェイ・フェン=ACCS上海事務所所長、Shanghai@accs.or.jp)