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富士通「バスケット方式」で首位奪取

2009/05/04 21:32

週刊BCN 2009年05月04日vol.1283掲載

IAサーバーの「売り方」初公開

 2010年までにIAサーバーの台数シェアで「国内1位」(現在4位)になることを宣言した富士通(野副州旦社長)は、この挑戦的な数値目標の達成に向けた販売戦略を初めて明らかにした。社内体制面では、仮想化などの専門知識をもち、サーバーを「売るだけ」の専任部隊(150人)を新設し、早い段階で最大1500人体制にする。販売面では、提案からデリバリまでを短縮化する「バスケット提案方式」と呼ぶ独自策をパートナーやSE子会社へ展開し、案件獲得増を図る。このほか、本社に蓄積する業種別展開を全国に「横展開」することなどを順次進める。従来の販売方法を抜本的に見直し、大目標の達成を確実にする構えだ。

 富士通は4月1日、富士通シーメンス・コンピューターズ(FSC)を完全子会社化し、社名を富士通テクノロジー・ソリューションズ(FTS)に変更してサーバーの開発業務を一本化した。すでに国内シェア1位を目指す組織体制として、分散していた部隊を集約し「製販一体型」に改めている(4月13日号既報)。3月30日開催の記者会見で、野副社長に「この目標が未達ならば、彼はここにいない」と名指しされた松原信・経営執行役常務は、「いままでの富士通のやり方では大きく伸びない」と、抜本的な改革の断行を明言した。

 その一つが「勝てる売り方をパターン化」し、テーマ別の提案書類を“カゴ”に入れて顧客を訪問する「バスケット提案方式」だ。これは、ハードウェアやソフトウェアなどを業種・業態・業務に応じて事前に検証したソリューションパターン「TRIOLE(トリオーレ)テンプレート」を応用することで、販売プロセスを短縮化する仕組み。パートナーやSE子会社の営業担当者らが顧客を訪問する際、「コスト削減策」「仮想化活用術」など「TRIOLEテンプレート」のなかの興味をひく複数の提案サンプル(提案書と提案に対応した利用シーン・構成サンプルなど)を“カゴ”に入れて持参し、「プッシュ型」でニーズを掘り起こす。

 この方式では、顧客先での商談段階で「提案→構成・見積り→受注」までを完結することができ、何度も持ち帰ってシステム構成を見直す手間が省ける。顧客先で「受注」まで漕ぎ着けた場合は、その場で事前セットアップの「手配」ができる。「手配」の打診を受け、検証済の「TRIOLEテンプレート」を「納品・構築」するだけで済むので、システム構築で手を加えるSE(システム・エンジニア)の負荷低減のほか、「売り方」をパターン化することで提案からデリバリまでの期間を半減できるという。

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 最近はIAサーバーが国内企業に行き渡りつつある。パートナーやSE子会社は、リース切れなどに際し、他社の基幹システムを入れ替えて自社ソリューションを乗せて提供するといったオセロゲームのような「狭い市場での陣取り合戦」を繰り広げているにすぎない。このままでは見込み客が限定され、低価格化が進むサーバーをいくら売っても利益を上げにくく、自社ソリューション構築に時間を割かれて案件を増やせない状態にある。ここに着目して体制を整備したのが「バスケット提案方式」だ。「基幹システムのサーバーを1台売れば、この関連で3~4倍のビジネスを生み出せる」(松原常務)と、4月中旬から「売り方研修会」を開くなど、パートナーやSE子会社への新方式浸透を目指す。

 こうした既存ビジネスの深耕施策を推進する一方で、これまで手つかずだった領域へも手を伸ばす。その一つが業種別展開だ。これまで中・大型システム案件については、直販部隊で構築した業種ノウハウを地方のパートナーなどと共有することがなかったが、「例えば、大手製造業の生産管理システム導入事例を共有し全国のベンダーが同じような企業へ『横展開』できるようにする」(村上茂樹・パートナービジネス本部長)として、パートナーやSE子会社などを含めフォーメーションを変更する計画だ。

 このほか手つかずの領域への侵攻策として、大手ディストリビュータの2次店に当たるSIerや事務機ディーラーの開拓を掲げる。すでに「2次販売代理店」の開拓専門部隊を設置。各プレイヤーに応じ、「分かりやすいソリューション・テンプレートを用意し、これを使ってアプローチする仕組みを提供する」(村上本部長)ことで2次店を支援し、販売勢力を拡充する。

 同社は2010年に国内IAサーバー市場でNECや日本ヒューレット・パッカード、デルを抜き1位になることを宣言。台数シェアでは08年が14%(8万台)。これを10年に30%(20万台)まで押し上げたいとしている。(谷畑良胤)

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提案力、短期デリバリがカギ

 「クラウド時代」が到来するなか、企業では「所有から利用」へシフトする動きが目立つようになってきた。だが、ここ1~2年の間は仮想化技術の浸透でサーバー統合やクライアント統合、データセンター化が進み、一時的に高性能サーバーなどの需要が高まるとみられている。大手コンピュータメーカーは、この高性能サーバーに“塩漬け”になっているレガシーシステムの入れ替えを促すことができれば、相当なボリュームの市場が期待できると判断し、ユーザー企業に販売攻勢をかけている。逆に言えば、ここ1~2年で敗者になれば、その先の成長は見込めないということになる。

 富士通の国内サーバーシェアは、台数が08年で14%(8万台)の4位。今回の戦略見直しで2010年までに首位に躍り出るため現在の3.5倍以上の30万台を「売る」と豪語する。この裏づけとなる個々の戦略ごとの数値は未公表だが、「手をつけていない領域」(松原信・経営執行役常務)を、富士通が強みとするソリューションを機軸に据えて攻めることで、目標に到達する戦略を打ち出せたと自信をみせる。

 富士通のSE子会社はまだしも、系列の独立系SIerからは“箱売り”を主体として利益を稼ぐしかないと苦悩する声をよく聞く。この層に対し、短期間で「売る」ことができる武器・弾薬を持たせ、「戦闘力」を身につけさせれば、元々パートナー数が多いので、手つかずの領域を掘り起こすことは不可能ではないだろう。

 景気低迷下で重要なのは、ユーザーに対して費用対効果をアピールできる「提案力」をパートナーに持たせ、そのパートナーの案件を増やして収益性を高めさせるための「短期デリバリ」を実現することが必須になる。その意味で富士通の新施策は理にかなっている。「他社以上にインセンティブを高めた」(松原常務)と、“ニンジン”も用意しているが、大目標達成のハードルはけっこう高い。(谷畑良胤)
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