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x86サーバーメーカー集結 景気後退でも伸ばす術

2009/06/01 21:34

週刊BCN 2009年06月01日vol.1286掲載

 不況でもx86(IA)サーバーは売れるのか。昨年度、景気後退の影響によるユーザー企業のIT投資抑制の波は、成長分野のIAサーバー市場も飲み込み、6年ぶりのマイナス成長に転じた模様だ。厳しい環境下で各メーカーはどんな施策を打つのか。IAサーバーのトップ5社のキーパーソンを招き、BCNが独自に開いた座談会から、それぞれの見方、戦い方を探った。

 「6年ぶりのマイナス成長に転じる」──。IAサーバー市場動向に詳しいIT調査会社・ノークリサーチの伊嶋謙二社長の見方だ。ノークは昨年度(08年4月~09年3月)のIAサーバー出荷台数を、昨年12月時点で0.03%減の54万8800台と読んだ。減少比率は微々たるものだが、マイナス成長は実に6年ぶりで、中長期的な成長が見込まれていたIAサーバーが減少するインパクトは、IT業界にとって大きい。伊嶋社長は、「最終調査段階であって確定ではない」と前置きしたうえで、「下期の不振が響き、3~4%減になる」と見通しを示す。

 BCNは、閉塞感が漂う市場で各メーカーが昨年度をどう振り返り、いかにしてシェアを伸ばそうとしているのかを探るため、IAサーバーのシェア上位5社のNEC、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)、デル、日本IBM、富士通のIAサーバー拡販におけるキーパーソンにお集まりいただき、座談会を開いた。ここでは、その概要を紹介する。

 まず昨年度の市場環境から──。「年末から投資抑制の影響が現れ、販売台数の減少が顕著になった」という意見で一致。ただ、景気後退の影響を受けずに、堅調に推移した業種・業界もあるという。NECは、ネットサービス企業や医療機関を挙げ、デルはNECと同様に、ネットサービス企業に加えて教育機関とハイ・パフォーマンス・コンピューティング(HPC)を追加した。日本HPは、「ITを生産材料として使う企業は堅調」との表現でネットサービス企業を口にする。一方、日本IBMは、「金融、そして流通も悪くなかった」とした。

 では、今年度はどうか。5社に共通するのは、「特定業種では伸びるが、全体として今年度も市場全体はマイナス成長になる」という厳しい見方だ。ただ、「市場全体は落ちても当社は伸ばす」という目標も同じ。母数が減少するなか、自社のシェアは是が非でも伸ばすつもりで、他社からシェアを奪いにいく姿勢を鮮明にしている。

 成長が見込める業種・業界としては、昨年度と同様にネットサービス企業やHPCなど、ITがビジネスを展開するうえで欠かせない事業インフラになっているユーザー企業を挙げる。昨年度好調だった業種・業界を攻める姿勢は各社同じ。主に拡販するプロダクトはやはりブレードサーバーで、ソリューションとしては、引き続き仮想化やサーバー統合がある。日本IBMは「義務的な投資」としてセキュリティ関連や内部統制ソリューションも強化ポイントに挙げている。

 狙う市場、売る製品、提案するソリューションは似通っているものの、販売施策では独自性が現れる。NECは、パートナーの教育制度の充実や自社ソフトと組み合わせたセット商品の開発などを挙げる。日本IBMはクラウド・コンピューティングをキーワードに掲げ、関連するソリューションでサーバー拡販をポイントにする。デルと富士通は提案のパターン化・標準化による商談スピードを高めることに力を注ぐ。日本HPは、中堅・中小企業へのソリューション提案、製品ラインアップを拡大させる姿勢を示した。いずれも自社営業だけでなく、直販同様にパートナーとの協業で市場を切り開く戦略を重視している。

 デル以外は「シェアを奪いにいく」として、販売台数を追い求める姿勢で一致している。市場全体は縮小する可能性が高く、マーケットの母数は増えないことから、トップ5社のシェア獲得争いが一層熾烈になるのは間違いない。 (木村剛士)

【関連記事】IAサーバーメーカーの戦略は
組織再編の動きが各社の共通点

 IA(x86)サーバーメーカー各社は、関連部署をこの1~2年の間に再編し、シェア獲りに向けて体制を強化している。1面で紹介した、各社の市場観や販売戦略とともに見逃せないポイントだ。

 NECは、IAサーバーの主要マーケティング部隊を再編。従来あった「クライアント・サーバ販売推進本部」はIAサーバーとシンクライアントなどを担当していたが、これを解体し、ストレージやミドルウェアなどプラットフォーム系製品とともに販売促進を手がける組織「ITプラットフォームマーケティング本部」に変更した。IAサーバーに付随するハードやソフトを組み合わせて提案できる体制に変えている。

 一方、富士通は今年度期首からパートナー向け営業部隊などを新設した。「2010年までにシェア30%の獲得」という挑戦的な数字達成に向けて大幅に組織を拡充したのだ。

 組織拡充は日本IBMも同様で、今年1月にIAサーバー「system x」の販売に特化した部門の人員を増やした。デルは1年半ほど前にパートナー統括本部を新設し、特定の有力SIerなどに向けて自社プロダクトを多く扱ってもらえるように交渉を開始している。

 IAサーバーは昨年度マイナス成長に転じ、今年度も台数減少が見込まれるが、メインフレームやUNIXに比べてこれまで成長が著しく、今後も他サーバーに比べて大きく伸びる可能性を秘めている。

 年間の市場全体の販売台数は60万弱しかなく、安価なことからIAサーバーがIT産業全体に占める比率は低い。だが、IAサーバーは情報システムのハードインフラのなかで主役であることは間違いない。IAサーバーの販売台数が各コンピュータメーカーの地位を決めるといっても過言ではない存在になっている。だからこそ、各社は人員や資金を投じているのだ。(木村剛士)
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