ITベンダーが集積する札幌市は、7月の補正予算で、市内のIT産業活性化策を複数講じる。景気低迷や受託ソフトウェア案件が減少するなかで、市内ITベンダーの約6割が「下請け」を主とするという現状の変革を促す。新規事業の一つは、SaaSなどの技術者を「札幌テクノパーク」(厚別区)に配置し、市内の業務パッケージをSaaS型へ転換を図る。また、小規模な複数のベンダーが集まって1案件を共同受注する「IT‐JV(共同企業体)方式」を推進するための仕組みづくりを開始。札幌市は官民で道外のシステム案件獲得に向けた動きを加速させる。

「IT‐JV」推進で地場団体に委託も

 札幌市が7月の補正予算で計上したSaaS事業は、厚生労働省が緊急雇用創出事業で講じた「ふるさと雇用再生特別交付金」の一環で展開する。同事業では、情報通信関連産業の育成拠点である「札幌テクノパーク」に、SaaSなどの技術を検証する技術専任者を2名配置。この専任者は、市内のITベンダーが開発した業務パッケージをSaaSサービスで利用できるように再開発を支援したり、SaaSビジネスの開始を目指すITベンダーに対し、データセンター(DC)の整備・利用方法やサーバー仮想化などの技術を指導する役割を果たす。

 SaaS関連事業の人材雇用などの予算額は1170万円。景気低迷の影響を受け、有力ITベンダーで失業した市内在住者などを募集で選考して採用する。札幌市産業振興課の渡邉昌輝・IT推進担当係長は「失業対策の一環として、厚労省の緊急雇用対策費を活用した。人材雇用と同時に必要なIT機器の整備も行う。SaaS/クラウドの波が訪れそうで、札幌市にとってもビジネスチャンスになる」と、地の利に乏しい北海道が“空中戦(SaaS)”を展開することによって道外からの案件獲得増を狙えるよう、準備を急ぐという。

 札幌市では昨年9月、市の外郭団体「さっぽろ産業振興財団」を中心に、受託型からSaaS型ビジネスに転換して競争力を図ることを目的に、道内外のITベンダー50社弱で「SaaSビジネス研究会」を立ち上げた。市の新規事業と直接的に関係はないが、「同研究会とも連絡を密にして、SaaS型ビジネスの振興を図る」(渡邉担当係長)と狙いを語る。

 一方、札幌市には、ゲームソフトを含め、「下請け」を主にする受託ソフト会社が数多く存在する。これらITベンダーは売上高の半分を道外の同業他社などから受託している。しかし最近は、中国やインドといった「オフショア開発」などに案件を奪われ、需要が低迷することが懸念されている。


 このため、札幌市は道外からの受託案件を増やすため、東京・名古屋・大阪地区へ“営業”をかけ、道内ITベンダーが「IT─JV方式」で元請けする体制をつくる。SaaS事業と同じく「ふるさと雇用再生特別交付金」を活用し、この営業担当者を採用する。さらに、受注した案件を「IT─JV方式」で束ねて、効率よく開発する体制・組織づくりを2団体に委託した。団体名は明らかにしていないが、ゲーム関連のベンダーと企業向け開発を主にするITベンダーが集まる団体とみられている。

 渡邉係長は「2団体に委託したこの協業化(IT─JV方式)がモデルケースとなり、市内のITベンダー同士で共同受注する機会が増えることを期待する」と、今後のあり方に言及し、2団体に限らずこのモデルが横展開されることを念頭に置く。全国のIT産業は、経済産業省の「特定サービス産業調査」によると約19兆円。このうち、札幌市は7500億円を売り上げ、2015年度までに1兆円規模にすることを目指しており、IT産業の振興策は今後も継続的に行う。(谷畑良胤)

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新ビジネスモデル創出に躍起

 北海道の産業は、農業や漁業、畜産業など「第一次産業」が多くを占めている。広大で肥沃な土地で育った食材を生かした加工食品製造業は隆盛ぶりを示しているが、それ以外の産業が育ちにくい環境にある。

 一方で、札幌市を中心に、少ない投資で事業化できるIT産業が勃興し、集積地となった。しかし、市内のITベンダーは、手組み(スクラッチ開発)を主にする受託ソフトウェア会社が大半を占める。最近では、もっと粗利の高いパッケージビジネスを志向するITベンダーが増えているものの、パッケージビジネス自体も「SaaS/クラウド」の“荒波”にさらされそうな状況になってきた。

 札幌市が今回講じたIT産業活性化策には、時流をいち早くとらえ、先手を打ってビジネス展開を図ろうという狙いがある。予算額が乏しいために採用人員は少ないが、時代遅れになりそうなビジネスモデルに頑なにしがみつくITベンダーに、転換を促す起爆剤にはなりそうだ。

 その一方で、現に数多く存在する受託ソフト会社が直面している閉塞感を打破することにも対策を講じている。市内のITベンダー同士は、意外とつながりが薄い。お互いの強みを生かして協業で案件受注に注力すれば、「元請け」として通用する技術力はもっている。この点に着目した官が推進しようとしているのが「IT-JV方式」で、今回、予算付けを行ったのだ。

 現在、北海道では官主導で大規模な「コンテナ型データセンター(DC)」を設置する計画が進行中。石狩地区か苫小牧に設置するか、まだ流動的だが、東京・名古屋・大阪地区を中心とした企業のITシステムを“預かる”ビジネスを強化する狙いのようだ。

 札幌市のSaaS事業などは、DCを地場ITベンダーが「ハウジング」してSaaS事業を全国展開する機会創出にも応用できるだろう。いま地場のIT産業は、転換期にある。(谷畑良胤)