SIerの日本ラッド(長岡均社長)は、空調機を実質的に使わない新方式データセンター(DC)の商用サービスを来年度上期(2010年4~9月期)中をめどにスタートする。クラウド/SaaSの基盤となるDCの消費電力のうち約3分の1は、サーバーを冷却するための空調に費やされるとされ、この部分を大幅に削減することでDCサービスの価格競争力を高める。空調機の削減は、現場の技術者レベルのアイデアとして従来からあったが、この方式で実際の商用サービスに踏み切るのは、国内SIerでは最も先駆的な取り組みとなる。

サーバー7~10万台を視野に

 空調設備を実質使わないDCの仕組みは簡単で、強い風をサーバーのCPUや電源、マザーボードなどの発熱部に当てることで温度を下げる。パソコンに扇風機を当てるようなもので、部屋全体を空調で冷やすよりも、消費電力を大幅に削減できる。現在のDCは、室内の温度設定を二十数℃の低めに設定しているが、日本ラッドの新方式DCは外気を直接取り入れて、サーバーに強く吹きつけることで温度を下げる。冬期などに外気を一部取り入れ、空調による冷房と組み合わせるハイブリッド型は実用段階にあるが、全面的に外気に依存したDCで商用サービスを始める国内SIerは極めて珍しい。

 同社では、今年8月から東京都内のDCで実証実験を続けており、真夏でもサーバーの発熱部を40℃前半に保つことに成功した。実験ではサーバーの最高温度が70℃に達しても稼働し続けることを確認しており、40℃台に保てば「十分に安全圏内」(岡田良介・執行役員ビジネスソリューション事業本部SaaS事業部長)と自信をみせる。同方式では外気を直接取り入れるため、塵の侵入を防ぐ仕組みや、静電気防止のための湿度維持の技術検証を進めており、「技術的なめどはほぼついている」(加藤俊輔・データセンター事業本部技術総責任者)という。

 では、これで何ができるのか。まずはDC費用のコスト構成比が大きいグループウェアやSFA(営業支援システム)など比較的カスタマイズが少ないフロントオフィス系のクラウド/SaaSだ。同サービスの主なコストは、DCにかかる費用や人件費、サーバー機材、通信回線などが挙げられる。サーバーの価格や通信費は以前に比べて格段に下がっており、また企業個別のカスタマイズや固有の運用サービスを極力抑えることで人件費も抑制できる。現にメールや、ウェブサイトなどのユーザー共通の基礎的なサービスは、現在でもほぼ無人で運用されており、人件費は限りなく低減されている。最後に残るのがDC費用であり、「米国などに比べて、日本はとくにDC費用が高い」(岡田執行役員)ことが課題だった。

 空調レスのDCでは、空調部分の電力消費をおよそ95%カットすることで、停電時のバックアップ用の自家発電機や無停電電源装置(UPS)、電源周りの変圧器や配電盤などの設備投資の削減や原価償却費の負担も軽減できる。こうしたコストメリットを前面に出すことで、サービス開始から3年間で7~10万台のサーバーを同方式のDCに収容し、クラウド/SaaSビジネスを急拡大させる。


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価格競争を引き起こす恐れも

 データセンター(DC)運営上の大きな課題が、サーバーをはじめとするIT機器の発熱問題だ。温度を下げるために高コストの大型空調機を投入せざる得ない。熱によってコンデンサなどのIT機器の重要部品の寿命が著しく短くなる恐れがあり、とりわけサーバーメーカーは高温での稼働を推奨していない。

 だが、DC運営に携わる技術者は、「あくまでもコストとの兼ね合いであって、考え方次第だ」(SIer技術者)と打ち明ける。例えば、サーバーの減価償却を4年に設定するところを2年に縮め、新しい機材に早く入れ替えたほうが得策という発想の転換である。

 実際、今売られているサーバーは2年前に比べて格段に処理能力が高い。集積度を高めて、DC全体の運用効率の向上を図ることもできる。ブレードサーバーや仮想化のような技術的ブレークスルーがこの先2年の間に起こる可能性も否定できない。つまり、サーバーの寿命が仮に半減したとしても、採算が合うというのだ。さらに、耐用年数がIT機器よりも大幅に長く、減価償却が長期にわたる空調をなくし、停電時にしか使わない発電機やUPSが安価な小容量のもので済むのならば、コストメリットはさらに膨らむ。

 では、なぜ“空調レス”DCの商用サービスがこれまで本格化しなかったのか——。まず、コンピュータメーカーはそもそも推奨しておらず、かつグループ会社に空調機メーカーがあれば、その設備が売れなくなってしまう。また、先行投資したDCサービスの単価を少しでも上げるためには“空調完備”という付加価値が要る。しかし、Googleなど世界の大手パブリッククラウドベンダーは、空調の見直しを進めているといい、持ち前の規模のメリットと相まって、価格優位性をより強めるのは必至。日本ラッドの空調レスDCの商用化がトリガーとなり、他の国内DC事業者が追随し、価格競争が一気に激化することも考えられる。(安藤章司)