スロバキアのコンピュータウイルス対策ソフト開発ベンダーのESET(リチャード・マルコCEO)が、じわりとシェアを伸ばしている。アジア太平洋地域ではニュージーランドでシェア第2位に食らいついたほか、日本では数年内にトップ3入りを視野に入れ、オーストラリアでも販売力の強化に努めている。ウイルス対策ソフトは開発競争が激しい分野で、トップ集団における技術的な差異化が難しい状況にある。こうしたなかでESETがトップ集団入りに手応えを感じるのは、同社の販売戦略によるところが大きい。

 ESETの販売手法は、国や地域ごとに独占的な販売契約を結ぶディストリビュータ(販売パートナー)を置く方式で、この販売パートナーの満足度やロイヤリティを最大限引き出すことで当該国・地域でシェアを伸ばす手法だ。アジア太平洋地域の販売を担当するESETシンガポール法人のパーヴィンダー・ワリア・セールス&マーケティングディレクターは「原則として国や地域別に独占的な販売契約を結ぶことが多く、エンドユーザーの満足度はもちろん、販売パートナーの満足度の向上も重視している」と話す。

 アジア太平洋地域では、各国・地域の販売パートナー向けの営業・技術支援や、マーケティング全般を担当する拠点をシンガポールに設置。ほかにはオーストラリアに地場のパートナー支援向けの拠点を置いており、日本でも独占的な国内総販売代理店であるキヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)との連絡窓口の役割を担う駐在拠点を整備する準備を進めている。キヤノンITSが属するキヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)グループは、法人と個人の両方の販売チャネルに精通しており、「日本のそれぞれの市場セグメントに向けて最適な販売戦略を打ち出してくれている」(ESETシンガポール法人の黄薈・チャネルマーケティングマネージャー)と高く評価する。

 ESETでは、同社のウイルス対策ソフト製品がターゲットとする法人、個人のそれぞれの市場セグメントに販売チャネルをもつディストリビュータに向けて集中的な営業や技術の支援を行うことで、連携を強化。パキスタンやネパールといった一部のアジア成長市場では、流通チャネルが成熟しきれていないために複数の販売パートナーと組むことはあるが、主要市場においてはエンドユーザーと販売パートナーの満足度の両立を指向しているのが特徴である。

 販売パートナーの側からみても、トップ集団入りを狙える有力セキュリティ商材を独占できるメリットは大きい。中長期的な収益の見通しが立てやすいため、販売面の強化だけでなく、例えば、ESET専任の技術者や未知のウイルスが発生した場合の初期的な対応ができるラボ機能の強化など、技術・サポート面の先行投資も可能になる。こうした取り組みによって販売力がより強まる好循環を生み出しているのだ。(安藤章司)

パーヴィンダー・ワリア・ディレクター(右)と黄薈マネージャー