フォントというと、書籍や雑誌などの紙媒体で使われるイメージが強い。しかし、今は放送、ゲーム、スマートフォンアプリなどのデジタル分野で使われるデジタルフォントを目にする機会の方が多いはずだ。このデジタルフォントの市場でトップシェアを取っているのがソフトバンク・テクノロジーの子会社であるフォントワークス。4月1日に原田愛氏が代表取締役社長CEOに就任し、新体制での方針を明らかにした。

IoT時代にニーズが高まるフォント

 1993年に設立したフォントワークスは、2013年6月にソフトバンク・テクノロジーのグループ会社となり、その後16年6月に100%子会社となった。

 日本で初めてフォントの年間定額制サービス「LETS」を開始したのは02年のこと。日本のDTP業界でもトップクラスの地位を築き、近年出版物だけでなく、放送、ゲーム、スマートフォンアプリなど、デジタル分野でシェアを伸ばしている。有名なところでは「新世紀エヴァンゲリオン」のタイトルテロップや、TVアニメ「キルラキル」などに同社のフォントが使われた実績をもつ。シェアはテレビ業界で90%、ゲーム業界で80%と圧倒的だ。
 
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原田 愛
代表取締役社長CEO

 ソフトバンク・テクノロジーの代表取締役社長CEOで、フォントワークスの前代表取締役社長CEOを務めた阿多親市氏は、「今後のIoT時代を考えたときに、どんどんチップが多機能化し、デバイスが小さく、液晶が高精細になる。ますます組み込み用のフォントのニーズが高まってくると感じている。これまでフォントをデジタルマーケティングのピースとして捉えていたが、今後はIoTのなかの重要なピースと考えている。新しいリーダーのもと、新しいビジネスモデルに変えていく」と今回の社長交代の意図を語った。

 IoT時代のフォント戦略を任された原田愛新社長。彼女はソフトバンク・テクノロジーに13年に入社し、16年4月には同社の営業統括第1営業本部 西日本支社長に就任。同年6月にフォントワークスの社長に就任した阿多氏に呼ばれ、取締役最高執行責任者として出向し、阿多前社長の元で、新たなビジネスモデルの戦略を練ってきた。そんな原田社長を阿多前社長は「大変よい営業マン。お客様の声によく耳を貸して、社内のリソースを整理できる。西日本支社長に就任した際は、難しいといわれる福岡のマーケットでお客様と社員の心をあっという間につかみ、50%の売上成長率をみせた。新しいIoT戦略を考えた時にフォントがないと完結しない。原田はフォントワークスが新しいデジタルフォントのメーカーとして世の中にデビューしていくのにふさわしい旗印だ」と評した。

 阿多前社長の期待を一身に背負った原田社長は「フォントは未来を形成するうえでも重要な技術。新しいフォントの価値を創出し、提供していく」と意気込みを語った。
 
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原田社長の名前、「愛」の字にはとめ、はね、はらいのすべてが使われている

多言語対応に向けた取り組み

 新体制の基本戦略として、原田社長は「次世代環境」「機能性の追求」「ローカライズ市場」の三つを掲げた。今や文字を使ったコミュニケーションは紙ではなくスクリーンを通して行われている。AR/VRという新しいデバイスが登場し、空中がスクリーンになる技術が発表されるなど、文字が投影される環境は大きく変化、多様化した。これまでは紙に文字を印刷することを前提にフォントを開発してきたが、これからは「次世代環境」に合わせ、あらゆるデバイス、環境下でも視認性、可読性、判読性などが高い書体が求められる。

 フォントを組み込むデバイスは小さく、ハードウェアのスペックもまだまだぜい弱だ。アプリケーションにも容量の制限がある。さらに多言語化が求められ、複数の言語を一つのハード、ソフトに必要とされるシーンも増えていく。レイアウトが異なる言語が混在し、複数の書体を一つに組み込まなくてはならないケースも増えるだろう。つまり、フォントファイルの軽量化、複数の言語を一つのファイルに収める技術など「機能性の追求」が必要となるわけだ。

 「ローカライズ」といえば、まさにゲーム産業で避けては通れない課題だ。ゲーム産業で世界最大のマーケットである日本は、日本でつくった良質のコンテンツを海外へ提供している。また逆に、海外企業が日本に進出するケースが今後さらに加速していくだろう。日本、海外と垣根をなくしてコンテンツを流通させるために多言語対応は必要不可欠となる。そのため、豊富な文字言語を揃えるほか、絵文字という共通の言語もつくっていく、とした。
 
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左からMonotype Imagingのジョー・ロバーツ シニア・バイス・プレジデント、
フォントワークスの原田 愛代表取締役社長CEO、
ソフトバンク・テクノロジーの阿多親市代表取締役社長CEO

 多言語対応の第一歩として同社が打ち出したのが、大手欧文書体メーカーである米・Monotype Imagingとの業務提携だ。この提携により、Monotypeの9000以上の欧文・多言語フォントを年間契約で利用できる「Monotype LETS」の提供を開始した。

 Monotype LETSは、Helveticaに加えFrutiger、Optimaなど有名な欧文フォント、Neue Frutigerに合う書体として開発したMonotype初の日本語フォントたづがね角ゴシックも収録する。Monotypeは、すでに国内で年間契約によるフォント提供を行っているが、Monotype LETSでの提供書体数は、直販と同等だという。

 フォントワークスはこの提携により、既存のLETSと合わせて、世界最大級の1万5000以上の書体を提供することになり、世界の言語の9割をカバーするという。

 原田社長は、「言語がない、書体がないという課題を解決し、デジタルコンテンツをつくる企業、クリエイターの皆様の国外ビジネス推進を後押しする。サブスクリプションタイプのフォントサービスとしては世界最多の書体数となり、世界中の言語をこの日本から提供する」と意気込みを語った。(山下彰子)