AWS対抗のメッセージはより強烈に

【米サンフランシスコ発】米オラクルは、10月1日から5日までの5日間、米サンフランシスコで年次プライベートイベント「Oracle Open World(OOW) 2017」を開催した。ここ数年で本格的なクラウドシフトを打ち出しているオラクルは、当初、米セールスフォース・ドットコムを追い抜くという趣旨のメッセージを頻繁に発してきた。しかし、昨年のOOW 2016で、少なくとも外部向けのメッセージにおいては、クラウド市場での追撃の主対象は、明確にAWS(Amazon Web Services)に変わった。今年もその路線は継続。ラリー・エリソン会長兼CTOは、昨年以上に舌鋒鋭く、AWSに対するOracle Cloudの優位性をアピールした印象だ。(取材・文/本多和幸)

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次世代の自律型DBが
AWS追撃の切り札になるか

 米オラクルは、総合ITベンダーとして、IaaS、PaaS、SaaSの全方位でクラウドビジネスを成長させようとしているが、OOW 2017で前面に押し出したのは、データベース・ソフトウェアでの圧倒的な強みを、クラウドビジネス全般に生かそうという戦略だ。

 メインイベントともいえるラリー・エリソン会長兼CTOのオープニングキーノートでは、1時間の持ち時間のほとんどが、ただ一つの製品の説明に費やされた。それが、Oracle Databaseの次世代製品「Oracle Database 18c」だ。
 
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ラリー・エリソン
会長兼CTO

 エリソン会長はその特徴について、「世界初の完全自動化、自律型DB」だと説明する。機械学習によりDBのチューニングを継続的に自動化するほか、アップグレードやパッチの適用も自動で実行し、稼働しながらセキュリティ・アップデートを自動適用するという。また、コンピューティングやストレージのリソースも自動でスケーリングする。さらに、稼働率は99.995%をSLAで保証し、ダウンタイムは年間で30分未満になる。エリソン会長は、「ほかのベンダーが“高い信頼性と可用性”と口にするのは単なるマーケティング上の言葉だ」と、怪気炎を上げた。

 Oracle Database 18cはクラウドサービスのリリースが先行し、「Oracle Autonomous Database Cloud」が最初の提供形態になる予定。エリソン会長は、自らAutonomous Database Cloudのデモを行い、AWSを比較対象にその優位性を強くアピールした。具体的には、金融業界、保険業界、小売業界の実際のデータ分析ワークロードを、Autonomous Database Cloud、AWSのIaaS上で稼働させるOracle Database(Oracle Database on AWS)、そしてAWSのDWHである「Amazon Redshift」でそれぞれ実行してみせた。例えば、金融業界のデータ分析で処理が完了するまでの時間とかかった利用料金(秒単位の従量課金に換算したもの)は、Autonomous Database Cloudが34秒、0.04ドルだったのに対し、Oracle Database on AWSは255秒、0.23ドルという結果になった。また、別の金融業界のデータ分析ワークロードの処理をAutonomous Database CloudとAmazon Redshiftで比べた場合、Autonomous Database Cloudが23秒、利用料金0.03ドルで完了したのに対し、Redshiftは247秒、0.27ドルかかった。これらのデモの結果により、Oracle Autonomous Database CloudのRedshiftに対する優位性とともに、Oracle DatabaseはOracle Cloud上でこそパフォーマンスを最大化できることをあらためて強調したかたちだ。

Oracle Cloudの全方位での
成長に向けた起爆剤?

 さらにエリソン会長は、「AWS上で動かすどんなワークロードでも、Oracle Autonomous Database Cloudに移行した場合、利用料を半額以下にすることを契約書に明記する」と宣言。「デモの結果からもわかってもらえるように、Amazon RedshiftはOracle Autonomous Database Cloudと比べて9倍~15倍コストがかかる。だから、この約束は余裕をもって実行できる」と話した。

 なお、Oracle Autonomous Database Cloudは、DWH用途のAnalyticsバージョンを年内に先行リリースし、OLTPバージョンは来年6月にリリースする予定だ。「自律型」の機能が用途によって異なるため、リリース時期がずれるのだという。

 米ガートナーが発表している「Data Management Solutions for Analytics」部門のマジッククアドラントをみると、オラクルはリーダーポジションにいるが、Redshiftを擁するAWSも、年々その地位に近づいてきている。オラクルにとっては、拡大するクラウド市場でDBでの優位性を守ることができるかは死活問題といえよう。むしろここで競合に対する大きな差異化を図ることで、PaaSだけでなく、全方位でクラウドビジネスへの波及効果を狙い、クラウド市場のメインプレイヤーとしての地位を築きたいという意図が明確にみえたエリソン会長のプレゼンだった。

マーク・ハードCEO 「CEOの深き悩みを解決するのはOracle Cloud」
AIやブロックチェーンなど新興技術への注力姿勢も鮮明に

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マーク・ハード
CEO

 OOW 2017の2日目にあたる10月2日午前中の基調講演には、オラクルのもう一人の“顔”である、マーク・ハードCEOが登場した。近年のOOWにおけるハードCEOの基調講演は、マクロ経済の観点からエンタープライズIT市場の現状について言及するのが定番となっているが、今回も同様だ。「現在、世界のGDPは2%しか成長しておらず、GDPの成長と企業の成長には密接な関係があるため、企業のIT予算はこの5年間ほとんど伸びていない」と指摘。さらに、「IT予算の8割が古いシステムのメンテナンスに使われていて、ただでさえイノベーションのための予算が小さいのに、しばしばCEOは、自分のクビをつなげるためにここをさらに削減してしまう。そんななかで、ディスラプター(既存市場の破壊者)が登場してきて、苦しい戦いを強いられることになる」と話す。

 ハードCEOは、「CEOにとってのこの巨大なリスクを革新的な方法で解決しなければならない」として、前夜の基調講演でエリソン会長が発表した「Oracle Database 18c」や「Oracle Autonomous Database Cloud」が、その救世主になるとアピールした。「オラクルのスケーラブルでセキュア、そして標準技術にもとづいた最も完全かつスイートなクラウドは、リスクや複雑性に対するコストを排除する」。

 なお、エリソン会長は3日目午後の2回目の基調講演で、クラウド型の統合監視サービスである「Oracle Management Cloud」の機能拡張について説明しており、ここでも機械学習を活用した自動化により、「システム運用の負荷を低減するとともにセキュリティの高度化を実現した」としている。

 OOW2017ではこのほか、PaaS領域で、コンテナ・ネイティブな開発環境や、ハイパーレジャー・ファブリックをベースとした“エンタープライズグレード”のブロックチェーン・プラットフォーム、AIを活用したアプリケーション開発環境の提供を開始するといった発表もあった。関連して、ERP、HCM、SCMなど、オラクルのSaaS商材に新たにAI機能を組み込むことも明らかになった(CRMやECを含む「Oracle CX Cloud」では一部実装済み)。さらに、IaaSでも、AIの活用拡大などを見据え、ベアメタルGPUインスタンスのパフォーマンスやコスト競争力などを強化して他社との差異化を図っているといった発表があった。

 全体的に、新しい技術トレンドに対応してあらゆるレイヤでOracle Cloudの進化を図ったという印象が強い。
 

新パートナープログラムも発表
SaaSのインプリパートナーを強化

 オラクルは、OOW 2017で新たなパートナープログラムとして、「Oracle Cloud Excellence Implementer(CEI)プログラム」を正式にローンチした。文字通り、SaaSのインプリメンテーション(実装)を担うパートナーを強化するもの。ユーザーがオラクルのSaaSを導入するにあたって、成果をあげて導入プロジェクトを成功させるためには、実装段階でのパートナーの働きがとくに重要であるという判断から、オラクルのSaaSのインプリメンテーションについてハイレベルな専門知識やスキルをもつパートナーを認定する新しいプログラムを立ち上げた。

 日本のパートナーでは、TIS、テクノスジャパン、東洋ビジネスエンジニアリングがすでに認定済みだ。
 

特別インタビュー 日本オラクル
フランク・オーバーマイヤー執行役CEOに聞く
国内市場でのプレゼンスをどう高める?

 OOW 2017の会場では、日本オラクルのフランク・オーバーマイヤー執行役CEOにインタビューする機会もあった。就任から4か月が経過し、日本オラクルの針路をどう定めたのか、さらには今回のOOWをどうみたのか──。

──就任以降、日本オラクルで取り組んできたことは?
 
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フランク・オーバーマイヤー
執行役CEO

オーバーマイヤー お客様を知る、社員全員がクラウドの専門家になる、社員の働く環境を整備するという3点を優先事項として取り組んできた。

 非常に重要なお客様と30件以上のミーティングをしたが、お客様はそれぞれ自分たちの業務のデジタル変革を追求していることを実感した。ただし、まずはお客様がクラウドへの道のりのどこに現在位置しているかを確認する必要がある。オラクルには、あらゆるニーズに応えられるクラウドソリューションが揃っている。しかも、性能やコスト削減といった、どの会社も優先している事項ですぐれている。

──日本オラクルのビジネスはパートナービジネスが中心。クラウドでもその戦略は変わらない?

オーバーマイヤー 変わらない。パートナーにも新しいチャンスが広がっているはず。お客様だけでなく、パートナーに対してももっと積極的な情報発信が必要だと思っている。

──「顧客を知る」という点で、日本のパートナーはすでに十分なレベルにあると思うか?

オーバーマイヤー そこは日本オラクルとパートナーが、一緒に取り組んでいかなければならないところ。パートナーの知識、ノウハウ、スキルに助けられている部分はもちろんあるが、デジタル変革の時代を迎え、ITソリューションを提案する側に従来以上に幅広い知識・知見・技術が求められるようになっていることは、パートナーもよくご存じだ。

──今回のOOWでは、AWSへの対抗意識を非常に強く感じた。本気で勝とうとしているのか?

オーバーマイヤー AWSはすばらしい仕事をしている。多くのお客様にパブリッククラウドをどう使うかを伝えた。これは市場に対していい影響を与えている。ただ、率直にいってAWSはインフラの会社だと私は思っている。オラクルは違う。クラウドのインフラからアプリケーションレベルまでカバーしていて、お客様は完全に統合された製品を使うことができるし、パフォーマンスもすぐれていてコストも安い。すでにAWSを使っている人にこそ、Oracle Cloudの価値はよくわかってもらえると思う。いずれにしても、強い競合がいることは、私たちのクラウドビジネスの成長にとってポジティブなことだ。