IoT時代のシステム革新をねらう

  米シリコンバレーのスタートアップ企業でIoT時代に対応した開発基盤をもつ米VANTIQ(バンティック、マーティン・スプリンゼンCEO)が、昨年8月に日本市場に参入した。同社は、調査会社ガートナーが提唱する「イベント・ドリブン型」のアプリケーション開発に必要な基盤提供で先行する注目ベンダーだ。日本では、レジェンド・アプリケーションズ(久保努社長)が販売などを手がける。米VANTIQ幹部の来日を機に取材した。

PaaS型の開発環境を提供

 米VANTIQは、米フォルテ・ソフトウェア(Forte Software)の創業メンバーらが、リアルタイム・アプリケーション基盤を開発するITベンダーとして3年ほど前に設立。昨年8月、日本市場に参入し、国内でアライアンス先など、パートナー開拓を進めている。
 
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左から、IT事業インキュベータであるフィット・ワン・ホールディングの柳原孝志取締役、
米VANTIQのブレイン・マテウ最高マーケティング責任者、ミゲル・ヌーチ最高業務開発責任者、
業務提携したレジェンド・アプリケーションズの須田崇裕・AMS事業部 ATグループゼネラルマネージャー

 IoT時代が到来し、コンピュータ・デバイスに記録されたデータだけでなく、センサ・デバイスやスマートフォン、SNSなどから得られる多くのイベント(ユーザーや他のプログラムが実行した操作)をもとに、リアルタイムに即応する必要性が高まっている。ただ、既存のシステム環境では、アプリ構築が難しく高額であり、高度な技術が必要だ。

 ブレイン・マテウ最高マーケティング責任者(CMO)は、「従来のアプリは、3階層(スリーティア)システムで構築していた。ERP(統合基幹業務システム)やCRM(顧客情報管理)など、データベース(DB)中心のシステムだ。だが、IoTや人工知能(AI)、ロボット、AR/VRなど、データソースが増え、それらから得たデータを瞬時に使うことで、人の働き方が変わってきている。こうしたアプリを普及させようとすれば、3階層アプリでは限界だ」と、開発手法のパラダイムシフトが必要だと説明し、「イベント・ドリブン型」アプリの普及と定着をねらう。従来型アプリに比べ「イベント・ドリブン型」アプリの開発は、大量イベント、複雑なルール設定、分散環境、高度なセキュリティが求められる。これに対し同社は、「ソフトのダウンロードやインストールをせずに利用が開始できるPaaS開発環境を提供している。開発に必要な要素を基盤として包括的に提供することで、『イベント・ドリブン型』アプリを高速・短期に開発でき、運用も容易だ」(ミゲル・ヌーチ最高業務開発責任者)と強調する。

 マテウCMOは、「企業活動の多くで、人がプロセスに関与している。リアルタイムに人を動かせるような、人とマシンが協調する環境に適用した経営をすることは、企業の競争力強化につながる」と話す。

 例えば、空港の飛行機運行管理では、荷物の処理などにあたり、乗客や機体、設備、気象データなどの常時記録されるデータストリームを取得し、業界の規制やルールを取り込み判断材料をつくる。いちいち、イベントが発生するたびにDBにデータを入れながらの運用では、判断が遅れてしまう。
 
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独自言語「VAIL」がつなぐ

 同社サービスで構築したアプリを使えば荷物が紛失した際などにもっとも適切な人が対応できるようになるという。また、「既存のアプリにある情報を参照することも、容易にできる。適切な判断を下すまでに、1秒間に数千、数万のイベントを同時に処理できる」(ヌーチ最高業務開発責任者)。国内で同社は、IoTをすでに推進している製造業のほか、小売り、物流、運輸、金融、医療など、リアルタイムに判断を下したり、業務改善のスピードを上げることを求める企業に対し提案していく。

 マテウCMOによれば、「イベント・ドリブン型」と銘打ったアプリ開発ツールは、他社からも出ている。「イベントのプロセス処理をするだけならば、IBM製品でいい」と話す。前述の航空会社規模のシステムになれば、「これらの世界的に使われているメーカーの製品を複数組み合わせて開発したら、数百人で2年をかけたプロジェクトになる」(同)といい、開発費は膨大だ。

 国内では昨年、システムインテグレータのレジェンド・アプリケーションズが同社と業務提携した。同社の須田崇裕・AMS事業部 ATグループゼネラルマネージャーは、「VANTIQは、『イベント・ドリブン型』アプリを実現するため、独自の開発言語『VAIL』(SQLとJavaScriptにもとづいたドメイン固有言語)を開発した。これは、分散環境に対しセキュアにアプリをデプロイできる。既存のソフトをアッセンブリして開発したのではなく、専用の言語として開発した。VANTIQを後発組が追い越すには、5年程度は要する」と、独自言語の存在を米VANTIQと提携した理由の一つとして挙げた。レジェンド社は、VANTIQのビジネスで初年度に3億円、東京五輪時に10億円の売り上げにする計画だ。

 ガートナーによれば、2020年までに、新しいユーザー向けアプリの50%が「イベント・ドリブン型」アプリになると予想している。この予測データの裏づけとして、ERPの導入が一巡していることが挙げられる。ヌーチ最高業務開発責任者は、「今後、多くの企業がERPを一斉に取り換えるとは考えられない。既存システムを維持しつつ、新たな開発を進めるだろう。当社サービスの実際の販売は、昨年3月頃からスタートしている。並行して米国やブラジル、イスラエル、中国など、世界で25のプロジェクトが動いていて、実証時期を終え本格導入に移行する」と、急激な立ち上がりを見通す。(谷畑良胤)