日本IBMがこのほど発表した「世界のAI導入状況2022年」日本語版によると、全世界でAIを業務に利用している企業の割合は35%で、前年と比べ13ポイント増加した。さらに42%の企業がAI導入を検討しており、同社はAIの活用は着実に進んでいるとの見方を示した。一方で、AIを導入していない企業では自社が適切なデータ管理ツールを有している自信がほとんどない、またはまったくないと回答した割合が増えたことから、さらなる普及にはデータ管理戦略が重要になるとみられる。
調査はIT関連の意思決定への知識、影響力を持つ7502人の経営層を対象に2022年3~4月に実施され、今回で3回目。7月12日に開いた記者会見で、同社は調査内容を報告するとともに、データ管理に関する課題へのアプローチを説明した。
AIを適用するためのデータ管理のあり方として、同社は組織全体でデータを物理的または仮想的に統合するデータ基盤アプローチとなる「データファブリック」を提唱する。その実現に向けて取り組むべき四つの技術要素として、「マルチクラウドデータ統合」「ガバナンスとプライバシーの確保」「顧客を中心としたデータ分析を実施する『カスタマー360』」「AIの予測モデルのライフサイクルを管理する『MLOps』環境の実装」を挙げた。
塩塚英己 執行役員
同社執行役員の塩塚英己・テクノロジー事業本部データAIオートメーション事業部長は「(技術要素に)手を付ける順番はなく、選択的に取り組める。各技術要素は相互に関連し合い、どの要素もデータファブリックの実現のためには不可欠だ」と語った。
調査では、80%の企業が「AIがどのように決定に到達したかを説明できることが重要である」とも回答。さらにAIをすでに実装している企業ほどAI倫理を重要視している傾向があることが浮き彫りとなった。
同社はAI倫理の実践には、データ、モデル、プロセスの3領域で信頼性を獲得することが必要とする。IBM本体はデータの信頼性の獲得に関する取り組みとして、データオブザーバビリティーソフトウェア開発のDataband.ai(イスラエル)の買収を発表している。
Databandのソリューションは、データの不完全性、異常、データ変更の破損などの問題を自動検出し、ビジネスに影響が出る前にトラブルシューティングにつなげることを支援し、データの品質担保を図る。モデル、プロセスに関しても、信頼性の確保につながる同社のテクノロジーを紹介した。
このほか、AIを中心としたテクノロジーを広く提供するため、パートナー・エコシステムの強化に力を入れる方針も示した。同社は21年4月から1年間で「パートナーソリューション共創センター」や「IBM地域DXセンター」など五つの共創センターを開設。今後も顧客やパートナーへの技術支援を推進するほか、新たな販売パートナーの獲得や支援にも注力するとした。
塩塚・執行役員は「大手のSIerを専門に、サポートや営業活動に取り組む体制を大幅に強化しており、社内外から人材を集めて体制の整備を進めている」とアピールした。
(大畑直悠)