【米ソルトレークシティー発】米Qualtrics(クアルトリクス)は米国時間の3月19日、米ソルトレークシティーで開催中のプライベート年次カンファレンス「Qualtrics X4」で、AIエージェント機能「Experience Agents」の概要を公開した。基調講演に登壇したジグ・セラフィンCEOは「顧客や従業員と"自律的"に対話を重ね、人間のエクスペリエンスを理解する全く新しいレベルのインテリジェンス。効率重視の他社のトランザクショナルなAIエージェントとは大きく異なる」と語り、競争が激化するAIエージェント市場において独自の存在感を強めていく姿勢を見せた。(取材・文/五味明子)
AIエージェント「Experience Agents」が発表された「X4」
「共感的」なやりとりを実現
Experience Agentsは同社が提供するエクスペリエンスマネジメントプラットフォーム「Qualtircs XM Platform」上で動作する。クアルトリクスが長年に渡って顧客や従業員から収集してきた膨大なフィードバックをベースにトレーニングされており、人間を介在することなく、AIエージェントが顧客や従業員と直接対話できるように設計されている。エージェントは「高度にパーソナライズされ、積極的かつ共感的な方法で顧客や従業員とやりとりし、ロイヤリティーやエンゲージメントを高めることを可能にしている」(ブラッド・アンダーソン・製品/エンジニアリング担当プレジデント)という。
アンダーソン・製品/エンジニアリング担当プレジデントは、Experience Agentsのケーパビリティーを示す例として、釣具店のオンラインショップにおけるケースを紹介。ユーザーの商品閲覧に応じて、AIエージェントが実装されたチャットボットがポップアップされ、ユーザーの過去の購入履歴やチャットボットとの会話履歴などを参照し、ユーザーの好みの釣りのスタイルを把握して、それに適した商品をいくつかレコメンドする。ユーザーが商品の購入を決定したら、その決済までも自律的にアシストしてくれる。また、商品の決済時にクレジットカードの情報を正しく入力しているにもかかわらずエラーメッセージが出てしまった場合、AIエージェントはユーザーの負の感情を予測して即座に謝罪のメッセージと(ガードレールで設定された範囲内の)補償を提供するといったことも可能となる。
Experience Agentsのチャットボットへの実装例。
オンラインショッピング中のユーザーに対して、
閲覧履歴や購入履歴、ボットとの会話履歴などをもとにユーザの好みを特定し、
ニーズに沿った商品をチャットボットが提示している。
この例ではユーザーが淡水魚釣りを好んでいることを把握し、最新のソナーを推奨している
アンダーソン・製品/エンジニアリング担当プレジデントは「これまでのAIエージェントはユーザーから苦情が寄せられた後でしか対応できなかったが、Experience Agentsはトラブルが起こっている最中にアクションを起こせる。人間の感情を理解し、即座に適切な行動に移す能力をもったAIエージェントだからこそできることだ」とExperience Agentsの独自性を強調する。Experience Agentsの提供開始時期については「2025年後半」となっており、現時点ではこの機能が使えるようになるまでの明確なスケジュールは示されていない。
感情からニーズを導き、即座に行動
XMプラットフォームは、企業が顧客や従業員といった対象とするターゲットとの"つながり(コネクション)"」を最大化し、物理/デジタルのすべてのタッチポイントでターゲットのエクスペリエンスを最適化する製品として、大企業を中心に数多くの導入実績を誇る。Experience AgentsはこのXMプラットフォームのケイパビリティーをさらに高めるために開発されたAIエージェントで、前述した例のようにターゲットの"感情"からニーズを導き出し、リアルタイムでそのニーズに応じた行動を取ることでターゲットとのつながりをより深めることを目指している。
アンダーソン・製品/エンジニアリング担当プレジデントは「(クレジットカード決済の失敗など)デジタルなタッチポイントはユーザー(ターゲット)にとってフラストレーションの発生源になりやすく、そうしたネガティブなエクスペリエンスはユーザーがその企業から離れていく最大の要因となる。Experience Agentsはポジティブなエクスペリエンスはスケールし、ネガティブなエクスペリエンスには即座に、かつ共感的に対応することで、ターゲットとの信頼関係をより深めていくことを支援する」と語っており、一つ一つのタッチポイントで発生するループのすべてを可能な限りポジティブな状態で閉じることで、ロイヤリティーやエンゲージメントの維持/改善を図るとしている。
セラフィンCEOは「われわれがXMプラットフォームで構築してきたのは"人間ベース"のデータベースだ。他社のAIエージェントは定型的なタスクの効率化を図る"トランザクショナルエージェント"だが、Experience Agentsはターゲットの趣味嗜好を最初から理解している」と述べ、同社のAIエージェントがフィードバックという"感情のリポジトリ"をベースに構築されている点を優位性として強調する。大手ITベンダーによる競争が激化するAIエージェント市場において、同社が主張する"人間の感情"にフォーカスしたAIエージェントがどう評価されるのか、提供開始が待たれるところだ。
Experience Agentsを含む「Qualtrics X4」全体のカンファレンスレポートは後日、掲載を予定する。