ラクスは自社製品へのAIエージェント導入を急ピッチで進めている。メール共有管理システム「メールディーラー」では、7月中にメール文章の自動作成エージェントの提供を予定し、さらなる機能追加も予定する。主力の楽楽シリーズでも本格展開に向けて準備を進めており、5月には経費精算システム「楽楽精算」の事業統括部内に開発専門組織を設置した。中村崇則社長は「生成AIに対応しなければ、(市場で)劣後してしまう。速度を上げてサービスを実装したい」と意欲を示す。
(藤岡 堯)
中村崇則 社長
ラクスは2024年末にAI機能の開発に関するロードマップを公開している。ロードマップではより自律的に動くAIエージェント関連の記載はなかったものの、市場のAIエージェントに寄せる期待の膨らみやLLMなど技術進化による実現性の高まりを受け「ラクスとしてもスピード感をもって対応する」(中村社長)との考えから、サービスへの実装、開発体制の構築に乗り出した。
メールディーラーでは問い合わせ対応の完全自動化を目標としている。文章作成支援では、担当者が返信の要点を入力するだけで、AIがビジネス文書として整ったメールを即時生成する。10月には蓄積された過去の対応履歴やFAQなどのナレッジを参照して、回答を作成するエージェントを予定する。27年3月期中には問い合わせ対応の内容を自己学習するエージェントなども盛り込む計画だ。
メール関連でのAIエージェントが先行する理由について中村社長は、AIエージェントによって「サービスがディスラプトされる」と表現する。テキストベースのメールはAIとの親和性が高く、活用による省人化の効果も大きい。将来的にメール関連ソリューションのあり方が根本的に変わる可能性もあり、早期の段階からキャッチアップを図る姿勢だ。
楽楽精算では、まずは申請者向けの機能として、申請者がアップロードした領収書などの情報に基づき、AIエージェントが精算用の申請データを自動作成する仕組みから着手している。事前申請の内容や過去の実績、ひもづいているクレジットカードのデータなどとも連携して申請案を生成。申請者は内容を確認した上で承認フローに回すだけとなる。
25年中に一部の顧客に向けたクローズドβ版を予定し、26年3月までには一般提供を開始したいとする。現時点ではオプション提供となる見通しだ。中村社長は「すぐに財務効果があるとは期待していないが、今後3年ぐらいを考えれば、ARPU(有料ユーザー1人あたりの平均単価)の上昇につながる可能性はある」と話す。
開発に向けては専任の組織を、楽楽精算事業統括部の直下に配置した。同社は事業部門とは別に開発部門を設けているが、あえて事業部門内に置くことで、より迅速な開発につなげている。
宮川拓也 事業統括部長
チームは5人体制で、楽楽精算事業統括部の宮川拓也・事業統括部長は「発足から1カ月程度だが、すでにモックアップ、プロトタイプまで至っている。かなりスピーディーに開発サイクルが回っている」と語る。一部ユーザーには開発中の機能を見せており、反応は上々だという。宮川事業統括部長は「お客様と一緒につくっていくような開発になる」と今後も積極的に意見を反映させる構えだ。今後は承認者や経理担当者向けのエージェント機能も展開し、業務全体の支援につなげていく。
楽楽精算以外のシリーズ製品への実装も検討している。中村社長は「サービスごとにエージェントが必要になるシーンを検討し、固まってくればリリースする」として、各製品とエージェントの相性を見極めて判断する方針だ。
次期計画は「AI変革」へ
ラクスでは製品へのAI導入を加速する一方で、社内でのAI活用にも注力している。開発部隊でのコード生成ツールなどの利用はもちろん、事業部門でも業務に応じた生成AIサービスを取り入れ、業務改善を推進している。中村社長は27年3月期からの次期中期経営計画は「AIトランスフォーメーションを意識したものになる」と述べ、製品への実装、社内活用の両面でAIを積極的に取り入れ、生産性の大幅向上に努める考えだ。