【米ポキプシー発】米IBMは7月22日(現地時間)、ニューヨーク州ポキプシーの同社工場内部と、メインフレーム製品の製造過程を日本メディアに公開した。ポキプシーの事業所は同社のメインフレームの組み立てと出荷を担う拠点で、IBMがIT業界の覇者となる決定打となった「System/360」も製造した、歴史ある工場だ。現在は6月に提供が始まった最新機種の「IBM z17」を主に出荷している。
IBM z17
工場の内部。組み立ての一部はロボットが行う
メインフレームは顧客の求めに応じて、1台1台が受注生産でつくられる。まず、倉庫に保管されている部品を集めて作業場に運び、「ブック」と呼ばれる演算エンジンとなる部分に従業員がプロセッサーやファンなどを組み込んでいく。内部の狭い空間の作業や、手作業では均一にならず正確さが求められる箇所など、組み立て過程の一部にはロボットが導入されているが、工程の多くは人の手による作業だという。
z17の「ブック」
出来上がったブックは、品質テストを経ていったん保管される。メモリーモジュールの数などは顧客ごとの注文によって違うため、調整して搭載する。フレームを構成する部品に、ブックなどが積み込まれていく。
従業員が手作業で組み立てる
メインフレームの組み立てが終わると、電源を投入してシステムとしての品質テストを実施。製品の構成規模によって、3日~1週間ほどかけて正常に機能するかが確認される。注文時点で求められているキャパシティーに関わらず、出荷前に全ての回路は必ずテストを行っている。後に顧客がより多くのキャパシティーを必要とするようになった場合、マイクロコードを更新するだけで追加の性能を有効化できるので、物理的に回路を追加するためにシステムを止めずに済む構成となっている。
品質テストの様子
テストでは特殊な部屋の中でシステムに負荷をかけ、高温や低温の環境でも耐えられるかなどの試験を行う。問題がないことが確認されれば、出荷用の木箱で梱包され、顧客のもとに発送されるのを待つ。ポキプシーの工場からは、1四半期におおむね1000台前後が出荷されているという。時期によって生産数はばらつきがあるため、従業員はさまざまな業務を任せられるようにトレーニングされている。
メインフレームは木製の箱で梱包される
1964年発表の「System/360」も製造した、歴史ある工場だ
zシリーズは3世代先の製品まで常に開発に取り組んでおり、将来の市場動向やニーズなどを予見して製品の方向性を定めているという。現在のIT市場ではクラウドの伸びが大きいが、メインフレーム事業を推進し続けるIBMは、クラウドを利用するコストが想定より高い場合や、社内の情報を自社で管理が及ばない場所に出してはいけないケースがあると指摘。ユーザーの選択の幅を広げるため、今後もクラウドと共存できる設計を戦略としてメインフレームの開発や販売を進める方針だ。
(下澤 悠)