「独占禁止法は、すべての産業を律する競争の一般的ルールであり、職権を独立して行使する公正取引委員会により中立的に執行されるものである」(公取委『電気通信事業分野における競争促進に関する指針の公表について』より、2001年11月30日)。  これはきわめて当たり前のものであるが、公取委と総務省の連名で公表された今回のガイドラインの発表文には、改めて独禁法の基本的な考え方が書き込まれた。

 これは、ガイドライン原案に対するパブリックコメントの中に「電気通信事業法上のルールを遵守していれば独禁法上も問題ないとすべき」(NTTコミュニケーションズ、東京電力など)、「電気通信事業法の規定範囲を超えて、独禁法による規制をすべきではない」(NTTドコモなど)と、独禁法を理解しているとは思えない意見も寄せられたからだ。

 独占的な地位にある企業が、独禁法ではなく、電気通信事業法を優先したがる心理は分からないでもない。しかし、これはなかなか賛同は得られない主張だろう。

 さらに、ガイドラインの策定を総務省と共同でやること自体に対して、「公取委は電気通信事業法の問題点を認めたということか」との意見も聞かれる。

 これについては、「全くの誤解だ。電気通信事業分野においても、規制は最小限にし、原則、事後チェックにすべきと考えている。第1種、第2種の区分問題も含めて現行の電気通信事業法には多くの問題点があるとの考え方は全く変わっていない。今後も、これらの問題点を指摘していくと説明している」(経済取引局調整課・原敏弘課長)。

 公取委では、82年に、データ通信分野を含め16業種について調査結果を公表し、規制緩和の必要性を指摘して以降、規制緩和の取組みが行われている。

 電気通信事業分野においては、85年以降7回にわたり、規制緩和の必要性を指摘している。最近では、00年に「電気通信事業分野における競争政策上の課題」という報告書が公表され、第1種、第2種の区分規制の撤廃、NTTグループの持ち株比率の引下げ等が指摘されている。

 84年に米AT&Tが22に地域サービス会社に分割された次の85年に、日本でもNTTが民営化された。

 しかし、米司法省との戦いのなかで、コンピュータ分野など新規事業分野へ進出する代償として分割に応じざるを得なかった米国と、それまでの電気通信分野の規制をほぼ温存したまま単に民営化だけを行った日本では、競争という面で大きな差が生じたのも当然である。

 「我が国のIT革命への取り組みは大きな遅れをとっている」――。

 00年11月のIT基本戦略でこのように指摘されたこと自体、産業育成と競争促進との両方でバランスを取りながらひとつの役所で行うという行政手法が、すでに時代遅れになっていることが証明されたようなものではないだろうか。

 IT革命は、従来のリアルな社会に対して、ネット上にもうひとつ新しいバーチャルな社会を構築する試みでもある。何千年、何万年もかけて築かれてきたリアルな社会の規則やルールに加えて、バーチャルな社会の規則やルールを新たに構築していく必要がある。

 新しい問題が生じるごとに規則やルールを後追いで作って、それらのルールが決まるまではナップスター問題のように野放しにせざるを得ないのでは社会的な秩序は保てない。

 そう考えれば、独禁法のような「一般的ルール」が、今後生じるであろうさまざまな問題に、汎用的、かつ迅速に対応できる枠組みであるのは確かだ。

 すでに電子商取引などの新しいビジネスモデルについて、独禁法の観点から問題がないかどうかの事前相談に応じる活動も展開している。

 IT分野で公取委が活躍する範囲は、今後一段と広がる可能性があると言えるだろう。