変わるかシステム入札

<変わるかシステム入札>2.ヤス・クリエイト(上)

2002/04/08 16:18

週刊BCN 2002年04月08日vol.936掲載

 IT分野を中心にコンサルティング業務を行うヤス・クリエイトの安延申社長は、官公庁のIT入札の問題点について、通産省出身という官側の視点と、現在のコンサルティング会社社長という民間側の視点で意見を述べることができる。  安延社長から見て、現在の官公庁のIT入札にはどのような問題があると感じているのだろうか。

単年度予算の弊害

 ――官公庁のIT入札について、ズバリどのような問題があると感じているのか。

 安延
 3つの大きな問題点がある。

 1点目は「単年度予算主義」だ。例えば、3年かけて構築するシステムであったとしても、現在の予算では単年度で計上しなければならない。だが、3年かかるシステムであれば、初年度に入札を行った企業が次年度以降は随意契約ということで担当することが慣例化しているため、初年度は極めて安価な価格で入札し、次年度、次々年度を含めて黒字になるような価格づけを行っている。

 これまで適正でない安値入札が何度となく問題になり、公正取引委員会から勧告が出た。

 それにもかかわらず、依然として安値入札が続いているのは、この単年度予算に1つの原因がある。

 つまり、入札に参加する民間業者側に問題があるだけでなく、制度そのものに問題があるといえる。

 ――官公庁の案件では、単年度予算以外は認められないということか。

 安延
 建築物のように、完成までに複数年かかるのが当たり前になっているものに関しては、単年度ではなく複数年度で予算がついているケースもある。しかし、ITに関してはほとんど単年度予算になっているのが実状だ。

 ――2つ目の問題点とは。

 安延
 2つ目の問題点は、「評価」についてだ。現在は総合評価制で、技術、能力、価格という3分野において比較を行うわけだが、ある程度能力があるベンダーを比較しても、技術的差異はそう大きくはない。

 具体的にいえば、NEC、富士通、日立製作所の3社を技術的に評価せよということになっても、差をつけるのは極めて難しいことがお分かり頂けると思う。

 そうなると、実際に差異がはっきりするのが価格になってしまう。技術的に差がない以上、750円の価格をつけた企業と、1億円の価格をつけた企業では、750円の価格をつけた企業の方が落札することになる。

 ――しかし、750円の価格で適切なシステムができるとは考えにくい。

 安延
 実際に入札したものの、コストがあわずに辞退するケースもある。民間に置き換えてみると、銀行が新しいシステムを導入する際に750円の価格をつけた企業を指名するとは考えにくい。民間では起こりえないことが、残念ながら官公庁の入札では起こっている。

 問題の3つ目は、2つ目の問題点である評価とオーバーラップしているが、「外部人材を活用することがない」ことだ。

 政府内には、最適なITシステムをデザインする人材がいない。もし、そういう人材なら民間企業でトップクラスのSEになるだろう。また、そういう人材を政府で育てるのも非効率だ。むしろ、民間にアウトソースして人材を上手に活用していけばよい。

 だが、残念ながら日本の官公庁は、“知恵”という目に見えない価値にお金を出す習慣がない。また、役所自身がやればすべてが公正になるという過信がいまだに残っている。

 その道のプロである外部を積極的に活用し、そこに対価を払うというサイクルが起これば、経済活性化にもプラスになるのではないか。

(三浦優子)
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