大航海時代

<大航海時代>第22篇●新しき勇者たちへ 第334話 ハングリー精神

2002/05/27 16:18

週刊BCN 2002年05月27日vol.942掲載

水野博之 コナミ 取締役

 いま、韓国ソウルにいる。久しぶりのソウルだが、相も変わらず活気に満ちている。皆、口を開けば「不景気だ、不景気だ」と言っているが、街を歩いている若者たちに不景気の面影はない。第2次世界大戦後、繊維産業からスタートした韓国の産業は、重工業、さらにはハイテクのエレクトロニクスにいたるまで幅を広げ、最先端のダイナミック・メモリでは世界最強の地位を築いた。これに反して日本勢はどうか。かつて世界を制覇した面影はない。どうしてこんなことになったのか。話はもうはっきりしている。韓国の人たちはよく働く、ということだ。2班2交代24時間が当たり前の国と競争して、3班3交代4班3交代なんて国が汎用品のコストにおいて勝てるはずがないのである。

 労働者の権利を守ることは大切なことだ。しかし、木を見て森を見ない偏狭な運動が、現在の労働者の不遇を招来した原因の1つになっていることは、大いに反省しなければならないだろう。労働者を保護するための運動が労働者を苦境に落し入れているのだ。韓国勢とダイナミック・メモリ市場を二分している米マイクロンの会長がかつて私に語ったことがある。「アメリカ人が働かないなんてひどい誤解だ。わが社は24時間2班2交代で1年中稼動している。休みは正月1日だけ」。これは当時の日本の首相が「アメリカ人はもっと働かないといけない」と語ったことに対する反論だったと思えば、「ジャパン・アズ・No.1」の時代も遠くなった。韓国の友人が同じことを言った。「日本人はもっと働かんといかんのと違いますか。かつての日本の迫力はなくなったなぁ。日本人は金持ちになったからね」後の半分はなかば皮肉である。言われてみればその通り。いま日本に欠けているのは、ハングリーな起業家精神なのであろう。(仁川国際空港にて)
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