中小企業のIT化ニーズを考えた時、産業別の温度差というものもあるだろう。その中で、ITを活かし、経営を改善していこうとする指向が最も強いのは中小製造業者ではないだろうか。

 確かに、中小製造業者の置かれた環境は厳しい。ある電子部品メーカー経営者は、「複写機のC社が最近生産を大幅に中国へ移管したため、下請企業が軒並み仕事を失った」と語る。製造立国となった中国が、日本の中小製造業者へ与える影響は甚大だ。1991年度に85万社あった中小製造業者は99年度、20%減って69万社となった。現時点ではさらに減っているだろう。

 こうした状況を踏まえ、「中小製造業者にIT投資余力があるわけがない」と断じるIT業界関係者もいる。だが、環境が厳しいからこそ真剣にITを活用しようとする向きがある点を見過ごしてはいないだろうか。「人件費が20分の1、諸経費が数分の1の中国勢に打ち勝つには、IT化による生産性アップしかない」(電子部品メーカー経営者)と考え、奮闘している企業は少なくない。

 例えば、大阪のダンは靴下の製造販売という業種ながら、国内生産を堅持し、業績を伸ばしている。IT業界がSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)と騒ぎ立てる以前から、徹底したIT投資で一気通貫の生産体制を築いてきた。「靴下が1足売れると、川下の染物工場にまでリアルタイムに販売情報が流れ、何色の生糸がどれだけ必要かが分かる」(丸川博雄常務)。

 和歌山のある和装染色業者は、インターネットを活用して、中国へ仕事が流出するのを食い止めた。核となるデザイン工程を細分化して、主婦を中心とした全国の在宅勤務者へ仕事を割り振り、大幅に納期とコストを改善したのである。パソコンとインターネットという基本的なIT基盤の導入によって、地域性の呪縛から飛び出し、中国勢に打ち勝つ納期とコストの相乗関係を実現できたのだ。

 否が応でも熾烈な国際競争にさらされている中小製造業者が生き残っていくには、もはやIT化は不可欠な要素である。そして言うまでもなく、日本は製造業で産業基盤、国力を維持している。IT業界は、もっと中小製造業者の動きに注目すべきではないだろうか。(坂口正憲)