00年秋口から始まった世界IT不況は、02年末までに回復への出口は見えなかった。世界的にテレコムは巨額負債増に苦しみ、ここでのIT投資落ち込みも激しい。とくに世界IT市場の40%を占める米国は、ネットバブルに躍った過剰投資の調整に長期を要する。市場の冷え込みは当然日米のハイテク企業決算数字を直撃する。世界IT投資は00年がピークだったが、米国ハイテク企業利益はピーク時より大きく落ち込んだままで、大きな回復の動きは見えていない。このIT不況の元凶は米国だということもできよう。(中野英嗣)

米国発進源のIT不況

■巨大産業に巨額負債増が

 米国商務省が発刊する「デジタルエコノミー2002」によると、2001年世界の「ICT(情報通信技術)」生産額は2兆4000億ドル(296兆円)と、世界産業のなかで最大規模に達している。

 ICTとは、現在使われているIT(情報技術)にAV(音響・映像)機器、通信サービスなどを加えたハイテク産業全体を指す。

 このICT生産高の国別構成比は米国33.2%、日本17.1%と、わが国は欧州先進3か国のドイツ、英国、フランスの合計16.8%より大きい。

 先進5か国の人口比は僅か10%だが、生産高では構成比67.1%と、人口比90%の他国合計32.9%を大きく凌駕する。ICT生産高および市場規模では世界的デジタルデバイドが既にきわめて明白であることに留意すべきだ(Figure1)。

 しかし、02年このICT業界が未曽有の不況に陥って、年末になっても遂にそこからの出口が見い出せなかった。とくにICTのなかでも米欧の通信サービス(テレコム)の苦境が一段と明白であった。

 これは通信帯域(バンドウィズ)の需要低迷や通信設備過剰も原因だが、テレコム業界は98年から02年の4年間に負債を1兆2567億ドル(155兆円)も増やしてしまったことが最大の要因で、米長距離大手ワールドコムも倒産した(Figure2)。

 世界的にICT負債増額は1兆5533億ドル(192兆円)と巨額だ。増加地域別構成比は米国43.8%、EU 35.5%で、合計で80%近い。

 これに対しわが国は5.1%で巨額負債増からは逃れている。産業別ではテレコムが80.9%と、当業界が負債増負担の直撃を受けた。テレコム業界は通信機器、大型サーバー/ストレージの巨大需要先で、巨額負債で投資は大幅に削減され、世界のIT業界不況原因の1つになっている。

■02年はIT産業最悪の年

 米ハイテク調査会社IDCによると、世界の企業・官公庁を含めたIT投資総額は、01年の8956億ドル(110兆円)から02年は2.3%減の8750億ドル(107兆円)となった。IDCは「02年はIT業界にとって最悪の年」という。

 IT投資ピークの00年は約9329億ドル(115兆円)であったので、02年はピーク時比6.2%と大幅な減少となった(Figure3)。

 02年の投資減少のなかで、パソコン、サーバー、ストレージなどハードは8.8%減であったのに対し、ITサービスは1.6%増、ソフトは3.8%増で、これからのIT市場の主役はハードではなく、ノンハードであることも印象づける。

 ハイテクはパソコン、携帯電話などの市場サチュレーションによる出荷台数減とともに、ハイテクデフレによる価格破壊のダブルパンチを受けた。これによって、02年世界のIT市場では初めてハードとITサービスの市場規模の逆転が起きた(Figure3)。また、IDCによると、03年も02年比で楽観値で5.8%増、悲観値2.0%増と発表し、回復基調となっても00年ピーク時に届かない。これからの期待分野であるITサービス、ソフトだが、この分野にもハード以上の価格デフレが米国では報告されており、油断はできない。02年は大きく落ち込んだ01年より若干マイナス幅が縮んだ。これは中国、東南アジアなど発展途上国の遅れていたIT投資が活性化したからだ。

 従って米日欧の先進地域でのIT不況は一層深刻になっている。

 とくに世界IT市場の40%を占める米国市場の不振がIT不況に大きく影響していると指摘するのが米フォレスター・リサーチだ。

 フォレスターによると、米市場は92年の2249億ドルから99年には2.2倍の4883億ドル、そして00年には20.0%と大きく伸びたが、01年には逆に13.7%も大きく落ち込んだ(Figure4)。

 フォレスターによると、02年米国市場は大きく落ち込んだ01年より更に4.7%落ち込むことになる。96年からのネットバブルに躍って米企業はIT投資を大幅に増やした。

 しかるに00年秋口からの世界不況、01年9月の同時多発テロによって経済は低迷し、ネットバブルも弾けてしまった。結果的にはIT設備過剰の調整は03年以降の長期にわたるとフォレスターは分析する。

 いずれにせよ、フォレスターによると、米国IT投資は92年からの8年間に2.6倍、年平均伸長率12.7%となって、ユーザー企業利益を圧迫する要因になっているのは否定できない。

 このためとくに米国企業ではIT投資効果(IT-ROI)追求が厳しくなり、これも投資抑制要因になっている。

■ハイテク決算も大幅落ち込み

 長引く世界的IT不況は、当然ハイテク企業決算を直撃する。米アナリストの経済分析を集約する米ファースト・コールは米国ハイテク主要83社の合計営業利益を発表している。

 これによると、IT投資ピークの00年各四半期比で01年から02年まで営業利益は大きく落ち込んだままでマイナス数字が並ぶ(Figure5)。

 02年1-3月は大きく落ち込んだ01年同期比で更にマイナスであったが、4-6月はプラス4%、7-9月はプラス14%と好転はしているものの、ピーク時の00年同期比では大きな減益だ。これは米国IT不況の1つの証となろう。

 当然日米の有力ITメーカーの決算も厳しい。世界IT市場の縮図と考えられるIBMの直近6か月売上高も、01年比で2.3%減、ピークの00年比で10.3%減だ。

 わが国の有力ITメーカー02年4-9月売上高も落ち込んでいる。前年同期比で日立製作所は0.5%微減にとどまったが、NECは11.9%減、富士通も9.9%減と厳しい決算となった(Figure6)。

 とくにNEC、富士通はともに不振の米テレコム向けの通信システムの売上高が2ケタの落ち込みとなった。

 またIT不況下、業界最大の合併、コンパックを買収したヒューレット・ハッカードの直近6か月売上高も11.6%減となった。

 同社はパソコン、インテル・サーバーのデル躍進で出荷台数を大きく減らしたことも大幅減収の要因となった。