地域IT化の進捗状況には各県、各地域で大きな隔たりがある。山口県は2001年12月に「電子県庁アクションプログラム」を策定し、電子申請・届出や電子入札、庁内業務の電子化の実現をスケジュール化した。しかし、電子申請などは県下の市町村も関係する案件であり、今年10月になって、ようやく56市町村の情報化担当者を集めた連絡会議を開催した。すでに自設で「やまぐち情報スーパーネットワーク(YSN)」をつくり上げた山口県だが、下関市や宇部市など独自に情報化を進めている市と、それ以外の市町村の「情報化格差」の解消が課題になってきた。(川井直樹)

足並み揃わない県下市町村 「認識の低さ」が問題に

■下関市はICカード、電子入札を導入

 情報化推進のための連絡会議の第1回会合は、10月3日に開かれた。県下全市町村の情報化担当者が参集したが、そこで明らかになったことは「情報化に対する意識の低さ」だったという。市町村レベルになると、情報化の必要性に対する認識のバラつきが出るのは山口県に限ったことではないが、それでも来年度からの住民基本台帳ネットワークシステムの本格稼動やLGWAN(総合行政ネットワーク)接続を控えたこの段階で、「認識が低い」では済まされないだろう。

 山口県では連絡会の中に個別のタスクフォースを設け、電子申請・届出などそれぞれの課題を56市町村と早急に詰め、来年度のシステム開発につなげていく考え。しかし、その過程で、まず必要性に対する認識の統一を図らなければならない。

 山口県下56市町村のうち、下関市はICカードの実用化や電子入札の実施をいち早く取り入れた。下関市が発行するICカード「みらいカード」は、市役所の端末で住民票などの発行に利用できるほか、下関市内にある「市立しものせき水族館」などの施設で、市民料金で入場するためのIDカードとしての機能ももっている。

 下関市の中西安春・総合政策部情報政策課長は、「e-Japan重点計画を進めるためにも、行政のIT化は急がなければならないが、最終目的として市民の利便性向上が図られなければならない」としており、市民のためのIT化を主眼に置いているという。

 そのための届出・申請の電子化なのだが、「市役所内のバックオフィス機能と住民サービスのためのフロントオフィス機能の連係が必要になる。だが、一体化して新システムへ移行するのはコストがかかりすぎる」(中西課長)というのが悩み。

 コストをかけずに、どうIT導入を進めるか――。下関市は電子入札の実現で、この問題にチャレンジした。もともと「談合や不正入札を防ぎ、工事の入札の透明性を高めるための業務改革の一環」(同)だが、自らシステムを開発し保有するのではなく、いち早く電子入札を導入し成果を上げている神奈川県横須賀市のサーバーを使用するという方法を採用した。

 今年6月に業者を集めて、電子入札導入のための説明会を開催し、横須賀市と電子入札システムの使用協定を締結。7月には試行を開始し、8月から運用を開始するという速さ。下関市ではそれまで指名業者による入札を廃止し、郵便で受け付ける方法で工事入札を行ってきた。

 しかし、「指名業者の枠を外したことで、多数の業者が参加できるようになったが、1件の工事入札で膨大な数の書類が送られてくるようになった。その業務負担を減らすために電子入札が最適」(同)というのが、素早く電子入札に移行した理由。導入を急ぐためにも、すでに実績のある横須賀方式を選択したわけだ。「今年度は20件の工事で電子入札を行う」(同)予定になっている。

 下関市ですでに実用化している電子入札。山口県が県下市町村とともに検討している電子入札は、国土交通省の「公共事業支援統合情報システム(CALS/EC)」を採用することになる。

 この点について、中西課長は、「どの方式であっても移行は難しくない」としており、重要なのは「制度」として定着させることだという。下関市では、庁内システムでも財務会計の電子化をはじめ、来年度には文書管理や情報公開などを次々に電子化していく方針をもっており、県の取り組みを横目で見ながらも独自の路線は貫く考え。

■県は「着実なIT化」を計画

 山口県地域振興部情報企画課の坂田光徳・行政情報化推進班班長は、「県内には下関市のように独自に電子化を進めている自治体もあるが、県下の市町村がそれに倣うということにはならないだろう」と見ている。

 下関市のような「先進自治体」がリーダーシップをとっていくことは、市町村の集まりのなかでは難しいという。下関市も同様で、「県が中心になって進めていることだから」と中西課長も距離を置いている様子。

 「国のIT政策も変化している。県としては状況を見ながら、着実に地域IT化を進めなければならない。先進的であればいいというばかりではない。2番手、3番手ならコストメリットもある」(坂田班長)と、闇雲にIT化を推進していくことには批判的だ。

 電子申請・届出についても、来年度からは支払いの伴わない分野で一部実施を予定しているが、それも「決済システムがどうなるか見えない」ということが理由だ。ただ、県庁の業務改善のために、電子県庁の構築はチャンスではある。電子申請・届出により申請様式を現在の約4400種から2000種類へ絞り込むのは業務改革には不可欠。電子化という切り口があれば、その作業もはかどる。

 山口県では、県庁に日立製作所製のメインフレームを置き、情報政策課のシステム班でシステム開発、バッチ処理などシステムの運用を担当している。この方式も業務改革の一環として、クライアント/サーバー(C/S)システムへの移行も含めて今後の検討課題にしていくという。


◆地場システム販社の自治体戦略

システムサンワールド

■自治体ノウハウ蓄積、地元のメリット生かす

 市町村合併では、新しい市が誕生し行政規模が大きくなる。これに対し、地元のシステムインテグレータは危機感を募らせている。

 NECの販売特約店で山口県岩国市に本社を置くシステムサンワールドの岡本旨弘社長は、「これまで市単位はメーカーが担当し、町村レベルはわれわれ地元企業という線引きがあった。それが合併することにより自治体規模が大きくなることで、すべてメーカーのテリトリーになってしまう」と深刻な表情で語る。

 「同時に自治体がIT化を進めるなかで、弱いベンダーがもっている自治体ユーザーを獲得する動きも激しくなってきた」という。

 このため、古くからある地域の電子計算センターのような企業も苦戦を強いられているという。

 そのなかでビジネスを維持していくために、「地元インテグレータには町村をターゲットにシステムを構築してきたノウハウがある。大手ベンダーが合併してできる新市のシステムを受注しても、全国的にシステムエンジニアが不足している状況であれば、地元企業がそれに参加する余地はある。そのためにも基幹系でなくてもサブシステム開発とかで自治体システムのノウハウを蓄積しておかなければならない」という。

 既存ユーザーのサポートを強化するとともに、システムインテグレータがその独自のノウハウで、新市のシステム構築支援には不可欠な存在になることだと強調する。