三重県四日市市は、周辺17町村と共同し、電子申請など電子自治体の住民窓口サービスの共同利用を進める。三重県の電子自治体システムを共同で使う方法もあったが、四日市市が位置する北勢地域の文化的、経済的な結び付きを考慮し、独自に共同利用のシステム開発に踏み切る。運用先は、四日市市などが出資し、同地に本社を置く第三セクター方式の三重ソフトウェアセンターなどに委託する方針。ITベンダー各社は、委託先のセンターと提携することで、このビジネスの受注に全力を挙げる。(安藤章司)

合併議論と切り離し、システムを共同利用 四日市など北勢17市町

■最速、最安値のCATVブロードバンド網を整備

 四日市市も“平成の大合併”の荒波に揉まれている。当初、四日市市(人口約30万人)、鈴鹿市(同19万人)、桑名市(同11万人)と周辺の町村を足し合わせて70万都市をつくり、政令指定都市へ昇格する構想があった。だが、今年1月現在、政令指定都市に向けた構想は頓挫し、四日市、鈴鹿、桑名とも、それぞれ別の合併を模索する。

 大合併の構想は暗礁に乗り上げたものの、すべてが水の泡になったわけではない。電子自治体のフロントエンド(情報系システム)に相当する電子申請や地図情報システム(GIS)、これに伴う広域ネットワークなどは、北勢(三重県の北部を指す)地域内の17市町が連携し、独自のシステムを構築する。参加するのは、北勢主要3都市の四日市、鈴鹿、桑名と、周辺の14町だ。

 四日市市の堀川慶治・市長公室IT推進課長は、「同じ法律の下に、同じ事務をやっているのに、どうして同じシステムが使えないのか?。これでは矛盾があるし、自治体業務の効率化にも相反する。北勢地域17町村で話し合い、市町村合併の議論とは別の次元で、システムの共同利用を進めることにした」と話す。政治が絡む合併議論とは切り離すことで、効率的な広域情報システムをつくる。

 北勢地域だけで広域化する理由については、「昔からのつながりがあり、生活や経済圏が同じであるという背景から、共同利用の話を進めやすかった」と語る。三重ソフトウェアセンターでは、すでに住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)などの運用で実績があり、ここが電子自治体の情報系システムの中核になり得るというインフラ面での合理性も、17市町が共同利用に踏み切りやすい土台になっている。

 インフラ面で四日市市には、もう1つ利点がある。三重ソフトウェアセンターなどが、自治体側のインフラを支えているのに対し、住民側のインフラを支える基盤の整備も一歩リードする。

 まず第1に、当初、「名四国道(名古屋と四日市を結ぶ産業幹線道路)沿いにしか光ファイバーの交換機を設置しない」と主張していたNTTに頼み込み、市内9か所に1台数千万円するという交換機を設置させた。これにより、市内全域でBフレッツなど光ファイバーを引き込めるようになった。また、NTTだけではバランスが悪いので、四日市市などが出資するケーブルテレビ(CATV)会社、CTYのブロードバンド化を促した。

 さらに、現在CTYの通信料金は最大速度10メガビットで月額5800円だが、これを早い段階で、通信速度を20メガビットに高めた上で同4000円台へと引き下げる。四日市市は難視聴対策などから、市内11万世帯のうち、10万世帯がCATVに加入しており、20メガビット通信を同4000円台に引き下げ、一気にアクセスライン(住民宅まで伸びるブロードハンド回線)の水準を引き上げる。

 「全国でヤフーBBが軒並みトップシェアを更新しているようだが、四日市では、たぶん苦戦するだろう」とは、ある関係者。四日市市では、「世界最安値+最高速度」を謳い文句とするヤフーBBに挑戦状を叩き付ける。

■庁内システムで電子申請の“予行演習”

 四日市市では、住民のインフラ、自治体と住民の接点となる部分のインフラの整備は、ほぼ見通しがついた。

 次の段階として、文書管理や財務管理、住基ネットなどの基幹系システムと密接に関わる部分をどうするかが焦点となる。17町村は、情報系システムでは共同利用するものの、実際に合併するわけではないので、基幹系システムは少なくとも表向きは「統合する」とは言えない。ただし、電子申請システム(汎用受付システム)と表裏一体となって動く文書管理システムについては、市町各担当者から“共同利用化”への要望が強い。

 四日市市役所では、今年4月から庁内の出勤簿、休暇届、時間外勤務などの庶務事務システムをオンライン化。申請を受けて担当者が決裁し、また申請者に返すというシステムを動かす。これは今後、住民から受けた申請を決裁し、また住民に返すというシステムの“予行演習”だ。今年1年間は、庁内の庶務事務で“慣らし運転”をして、本番に臨む。

 この本番の際には、17町村で共同利用となるのか、単独で運用するのかは、「まだ未定」という。もう1つ、現在、四日市市は富士通のホストコンピュータを財務や住基ネットに使っている。堀川課長は、「これは16年前に導入したホストで、今の時流を考えれば、いずれはオープン化に移行するときがくる。だが、これまでのコボルで組み上げた資産は残したいという考えもあり、悩ましいところだ」と打ち明ける。

 仮に、文書管理システムや基幹系システムの部分まで、共同利用が進むとすれば、ホストで運用するのではなく、オープンシステムに移行しなければならないのは必至。17市町の共同利用がどこまで進むのか、まだ完全に見えていないだけに、未確定な要素が多い。加えて、合併の終着点もまだ見えておらず、結果は先送りになりそうだ。

 だが、合併議論とは切り離して、電子申請システムなどを広域で共同利用できる部分について、先に議論を進める三重県北勢地域の手法は、電子自治体システムを迅速に立ち上げるという観点からみて、大いに評価すべきだろう。


◆地場システム販社の自治体戦略

NEC三重支店

■電子自治体専属の宣伝チームを組織

 四日市市の共同利用事例のように、広域アウトソーシングの動向が焦点となっている。NECの杉本裕俊・三重支店長は、「いざアウトソーシングとなったら、第三セクター方式で運営している三重ソフトウェアセンター(四日市市)かサイバーウェイブジャパン(志摩郡阿児町)、あるいは民間の三重電子計算センター(富士通系)、松阪電子計算センター(日立製作所系)が運営先になる可能性が高い」と分析する。

 その上で、「基幹系、情報系システムを問わず、広域化やアウトソーシングの波に上手く乗れるかどうかが、NECとして勝敗の分かれ目になる」と話す。三重地区も担当営業エリアとしてカバーする富士通の中村巧・東海支社長も、「三重県を攻めるにあたり、以前のように単独メーカーで、主要業務システムを受注できるとは考えていない。地場のアウトソーシング運用会社などとの提携を進めることで、シェアを伸ばす」と意気込む。

 NECでは東海3県を対象に、5、6人で構成する「電子自治体システム専属の宣伝隊」を3チーム組織。各営業拠点からも支援を受け、県や市の三役向けのデモおよび原課(部門担当者)向けのデモを2種類に分けて、中央省庁のIT動向など詳しく説明する。「1市町村でも多く支持を取り付けることが、大合併のなかで最終的なシェアに結びつく」(杉本支店長)と必死だ。