コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第17回 高知県(下)

2003/03/03 20:29

週刊BCN 2003年03月03日vol.980掲載

 高知県が地域情報化への具体的な取り組みを始めたのは1997年。「情報生活維新・こうち2001プラン」を策定し、情報化の施策を次々に実行してきた。幕末から明治維新への道筋をつけた坂本龍馬を生み出した土地柄であり、情報化計画にも「維新」と名付けて、情報ネットワーク時代を見越し、自治体としていち早く情報化に着手してきたわけだ。そして、01年からはさらに密度の濃い施策を盛り込んだ「こうち情報化戦略2001」へ移行。情報ネットワーク基盤の強化や電子自治体構築を打ち出している。(川井直樹)

ギガビットネットワークを構築、回線を民間にも開放 「究極の借り上げ方式」を自認

■NTTの光ファイバーで情報ハイウェイを

 県内の地域ネットワーク基盤整備に早くから着手した先進自治体が抱える課題は、最新の高速ネットワークへのアップグレードをどのように行うか、ということにある。民間の通信事業者が相次ぎ高速ネットワークによるサービス拡充を進める中で、県の基幹回線網のスピードが遅くては、電子自治体の構築もままならない。

 高知県も同様で、「こうち2001プラン」で整備した情報ネットワークが、急速な通信技術の進歩で陳腐化してきたことから、03年度から06年度の4年間の契約でNTTの光ファイバーネットワークを借りることを決めた。

 「セキュリティや最新技術への対応、さらに365日24時間稼動の電子政府を考えると県庁でネットワーク専門の職員を抱えることはできない。そのために、自設のネットワークは無理と判断した」(西岡輝幸・高知県企画振興部情報企画課主任)というのが借り上げの理由。

 民間事業者の回線を借り上げる手法は他県にも広がっている。しかし、高知県では借り上げた回線を民間にも開放しようという点が異なっている。

 経済産業省四国経済産業局がまとめた「四国情報化ガイドブック」によれば、1企業あたりの情報処理関係諸経費の水準は、全国平均が年間9億6000万円程度なのに対して、高知県は3億2600万円にとどまっている。また、ソフト系IT企業の開業率も全国平均の13.3%に対して、高知県は10.6%と下回る。

 「高知県だけでなく四国全体が全国平均を下回る項目が多い。それだけ情報化では遅れているとも言える。しかし、教育用コンピュータの普及台数や地方公共団体でのLAN整備率などは全国を上回っている」(藤沢清隆・四国経済産業局産業部政策課情報政策室長)と、公共分野では情報化が進んでいることを示している。

 民間の情報化投資を促し、IT企業の誘致を進めるためにも、高知県の情報ハイウェイを開放することに決めたわけだ。「単に借り上げるだけなら他県でもあるが、借り上げた回線も使いやすいサービスを提供してもらう契約になっている。サービス内容をオーダーメードできる究極の借り上げ方式」(西岡主任)というのが“高知流”で、そのサービスを民間にも活用してもらおうというわけだ。

■ICカードを使った電子申請を実施

 高知県では、経産省の01年度補正予算「IT装備都市研究事業」による、ICカードを使った電子申請などの事業を開始している。高知市で約5万枚のICカード「よさこいタウンカード」を配布し、証明書の自動交付のほか、医療機関での保険証資格確認サービス、商店街での小売ポイントサービスといった市民向けのサービスを計画したほか、ICカードにより、53市町村と森林組合、同連合会87か所から県庁に対する造林補助金の電子申請を実施している。

 さらに、今年度はCDC(コミュニティデータセンター)の開発・実証研究といったように、補助金事業を有効に生かした電子化の基盤整備を着々と進めてきた。こうした実情について、四国経産局の藤沢情報政策室長は、「行政評価という観点からみれば、高知県では経産省の予算を有効に活用してもらっている」と高い評価。

 高知県内の情報ネットワーク整備という点では、高知県内のベンチャー企業で、富士通がIDC「高知富士通テクノポート」を建設するのと同じ南国オフィスパーク(南国市)のセンタービルに入居するシティネットが運営する大規模無線LANもユニークな存在だ。

 駅やホテルなどのホットスポットサービスで注目を集める無線LANだが、シティネットでは屋外でのネットワークとしての導入を図っている。

 「まだブロードバンドネットワークがなかった98年頃から、大容量ネットワークとして無線LANに注目していた」(渡邊基文・シティネット専務取締役)とスタートは早かったが、技術面での壁もあり、思うようには普及しなかった。そのうちに、ブロードバンドが一般化し、低料金のADSLや光サービスが登場したことで、無線LANを使ったネットワークインフラとしての事業性は失われてしまった。

 「条件が良ければ5キロメートルほど離れていても電波は飛ぶ。最長では20キロメートルというデータもある」(片岡幸人・シティネット取締役)というが、大出力の無線に比べれば安定性という点で条件は厳しいという面もある。

 しかし、南国市は、河川やその周辺部の監視カメラの防災ネットワークインフラとして同社の無線LANを導入し、99年10月から運用している。「無線LANを使うことで大規模な中継用アンテナが不要になるなど、コストを大幅にカットできる。電力消費も少ないため、必要なバッテリーを搭載することで災害時の停電でも稼動できる」(渡邊・シティネット専務)という。

 高知県では、CDC設立をはじめとしてギガビットネットワークの民間開放など、独自のIT戦略を進めており、ICカードによる電子申請など一部では他の自治体に先んじて、モデル事業の開発を進めてきた。

 高知県企画振興部情報企画課の伊藤博明チーフは、「けっして“高知モデル”として先進性をアピールできるようなものではない」と笑うが、その取り組みのアプローチは他県にはないユニークさが目立つ。

 幕末の激動の中を走り去ったのが坂本龍馬ならば、e-Japanという大きな変革の中で規格化されつつある電子自治体に対して、独自の取り組みで情報化を進めているのが高知県というふうにも見える。


◆地場システム販社の自治体戦略

高知電子計算センター

■CDC運営に賭ける

 高知県で、CDC(コミュニティデータセンター)の開発・実証事業を進める中心的存在が高知電子計算センター。日立系の同社からすれば、日立製作所が同事業に参加しているのは当然だが、松下電器産業や自治体ソリューションのベンチャーなども参加した大所帯をまとめていくのも大変な作業だ。

 すでに、経済産業省に提出するレポートの作成を始めたという山本茂和・情報事業本部システム部長は、「高知電子計算センターだけでは力不足。多くの企業に協力してもらった」と語り、県レベルでは全国唯一のCDC事業を何とかまとめることができたと安堵している様子。

 しかし、CDCの設立は、高知県の情報システム運営を担当している同社にとっては、大きな問題でもある。CDCの運営を委託されれば、市町村も含めて大きなビジネスになるが、参加できなければ死活問題に関わってくる。

 「社名に高知とついているので、なかなか全国を相手にしたビジネスは難しい。高知県内の情報化ニーズを取り込んでいくことがメインであることに変わりはない」とあくまでも高知県の情報化の中心でいることを目指す。

 「CDCに対して、アプリケーション開発の提案とかビジネスチャンスはないわけではない」というが、それでももっとも重要なビジネスは、CDCそのものの運営。今回、中心になってCDCを取りまとめたことは、「大きなアドバンテージと思っている」と自信も覗かせている。
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