OVER VIEW

<OVER VIEW>構造的不況下、世界市場での米IT企業決算 Chapter3

2003/03/17 20:44

週刊BCN 2003年03月17日vol.982掲載

 コンパックコンピュータを買収して、IBMに次ぐ巨大ベンダーになったヒューレット・パッカード(HP)は決算で苦戦が続き、コンパック合算で2年連続の純損益赤字だ。売上高はIBMに次ぐが、そのビジネス構成比は相変わらずハード偏重で、ITサービス比率がIBM、サン・マイクロシステムズなど他社に比べても極端に低い。さらにコンパック買収で狙った世界パソコントップの座も、独り勝ちのデルコンピュータに奪われてしまった。HPはコンパック買収効果がいまだに現われていない状況だ。HPが利益面でもIBMに次ぐ地位を確保するには、合併効果をどこに求めるかという課題が重くのしかかる。(中野英嗣)

合併効果のいまだ見えないHP

■2年連続の最終赤字へ陥るデル攻勢の直撃受ける

 2002年5月にHPは、コンパック買収手続きを完了し、IBMに次ぐ世界第2の巨大ベンダー新生HPが誕生した。HPのコンパック買収には、HP創業者一族株主の反対もあって紆余曲折を経てやっと実現した。01年9月の両者合併計画発表以後、同時多発テロ発生、あるいは00年秋口からのIT不況も重なって新生HPは厳しい環境にさらされた。HPとコンパック合算の決算がこの間の推移を物語る。

 両者合算(以下同)売上高は、00年の910億9200万ドルがピークで、同年はIBM売上高883億9600万ドルを3%も上回っていた。しかし、01年以後売上高は2ケタ減が続き、02年はピーク時の00年比20.6%減の723億4600万ドルとなった。これにともない損益も厳しくなって、01年、02年と純損益で赤字が続く。

 特にHPはIBMと異なって、パソコン、インテルサーバーのウエイトが高いため、この市場独り勝ちでシェアを伸ばすデルからの打撃を直接的に受けている。巨大ベンダーとなったHPの経営指標は、IBMと比較するとその実態が明確になる。両社はともにパソコンからエンタープライズシステムまでを手掛ける総合ベンダーであるからだ。

 両社の利益率を決定的に差別化する要因は総利益率である。IBMの総利益率が37%前後で推移するのに対し、HPは25%程度で2ケタの差がある。このため両社の営業損益率や純損益率にも大きな差がでる。IBMは02年にハードディスクドライブ部門の日立製作所への売却にともなう一時的経費やプライスウォーターハウスクーパース(PwCC)の買収による組織再編費用で、営業及び最終利益率は大きく落ち込んだ。これを除くとIBM営業利益率は13%台を維持する。HP営業利益率は、黒字時代でもIBMの半分程度にとどまり、01年以降は最終損益で赤字となっている。

■パソコン、エンタープライズ関連売上高が大幅減

 HP苦戦の原因は同社セグメント別売上高が示す。02年に前年より売上高が伸びたセグメントは同社得意のプリンタ部門のみで、その伸び率は4.3%だ。これに対しパソコン部門は18.1%減、エンタープライズ関連19.7%減、ITサービスも3.4%減となった。03年以降はデルが自社ブランドのプリンタも発売するので、HPはこの市場でもデルの影響を受けることになる。

 IBMもパソコン、エンタープライズ部門は02年は前年比減収となっているが、その減収率はパソコンで7.8%、エンタープライズ7.9%でHPよりずっと軽傷である。パソコン減収の理由は市場の低迷とデルの躍進だ。デルの売上高は同期間に13.6%も伸びているからだ。

 IDCによると、02年世界パソコン出荷台数は前年比1.4%の微増でデルが15.2%のシェアを獲得し、コンパックを買収したHPの13.6%を大きく上回り、トップの座についた。02年、デルは出荷台数を20%伸ばし、独り勝ちの基盤を固めた。即ち、世界上位のHP、IBMがパソコン売上高を大きく減らすなか、デルが2ケタの伸びを示したのは、デルがHP、IBMの市場を大きく浸食し、カニバリズム(共食い)戦争で両社に勝利しているからだ。

 また、エンタープライズ部門の大きな減収の原因は、特に米企業の大幅なIT投資削減である。フォレスターリサーチは02年、米企業のIT投資は前年比7.8%減、ピーク時の00年比28.5%減と報告している。さらにHPは、コンパック買収時に両社のエンタープライズ製品の主力、UNIXサーバーの統合でコンパックUNIXのHP-UXへの統合を発表し、使用中のITアーキテクチャの保存を強く意識する大企業ユーザーを失望させた。

■期待のITサービス減収減益、激しい価格デフレは続く

 IT不況下でも、世界のITサービス市場は手堅く推移している。このためIBMも減収のなかで02年はサービス売上高を4.0%伸ばしている。各ITベンダーはこれからもハード出荷台数減少と激しい価格デフレは続くと覚悟しているので、サービス重点へのシフトを進めている。UNIXサーバー1位のサン・マイクロシステムズも売上高減少に歯止めはかからないなかでサービスは大きく伸びている。しかしHPサービス売上高は、00年をピークに2年連続減少している。

 これによって02年のITサービス営業利益も9.0%の減益となった。HPとIBMの売上高構成比で極めて大きな格差があるのは、このITサービスである。IBMのITサービス構成比は99年の36.7%から02年には44.8%となった。これに対し同じ総合ベンダーHPの同構成比は15-17%で推移している。今後もハードビジネスの厳しさが増すことを考えると、HPの同構成比が極端に低いことは、利益回復の大きな阻害要因になるとも考えられる。

 サンも売上高は大きく減らしているが、ITサービスは00年から02年に年率12.6%の伸びを示し、この売上構成比も28.7%と高くなっている。これからeビジネスソリューションではITアウトソーシングの利用も主流になることが考えられる。このような潮流のなかで、巨大ベンダーHPのITサービス構成比が低いまま推移することは、HPがITの新しい潮流に乗り遅れる懸念材料ともなる。IBMとHPのセグメント別売上構成比は両社のビジネス重点が大きく異なることを示す。

 HPの売上高構成比では、プリンタ関連が27.8%、パソコン関連が30.0%で合計57.8%だ。これに対し、IBMのパソコンとプリンタ合計比率は僅か12.7%だ。さらに、メインフレームをもつIBMでも、サーバーやストレージなどエンタープライズ関連ハード比率は15.1%でHPの同22.5%より小さくなっている。02年IBM売上構成比ではサービス、ソフト合計のノンハード構成比は60.9%となり、同社税引き前利益の85.5%を稼ぎ出す。

 HPはソフト売上高を分離していないが、いずれにせよHPとIBMではノンハードの売上構成比や利益構成比には極めて大きな格差がある。HPのハード構成比が高いまま推移し、そのハードのなかでもデルの強いパソコンや新規に参入するプリンタでデルモデルが功を奏すると、HPはさらに激しくデルのカニバリズムにさらされることになる。
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