コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第23回 大阪府(上)

2003/04/14 20:29

週刊BCN 2003年04月14日vol.986掲載

 日本経済が先行き不透明のなか、財政が厳しい地方自治体は多い。大阪府も例外ではない。だが、厳しい財政をバネに、IT投資のコスト削減を目指し、低価格で最適なシステム構築に向け、約70人のSE(システムエンジニア)からなるIT専門部隊を配置した。基幹系システムの構築を図るための「総務サービスセンター」の設置に関しては、大阪府として初めて「総合評価一般競争入札」方式を採用。松下電器産業など3社からなる企業連合が総務の基幹系システムを落札した。今後は、IDC(インターネットデータセンター)を2003年度の早い時期に立ち上げ、各市町村との共用を目指す。IDCを武器に近隣県との連携も視野に入れている。(佐相彰彦)

SE部隊の設置でコスト削減、IT投資の費用対効果を重視 IDC設立で近隣県との連携も視野に

■失業率が全国2位、低コストで最適なシステム構築目指す

 総務省によると、大阪府の完全失業率は2001年平均が7.2%、02年平均が7.7%。失業率の高さは、沖縄県に次いで全国2位。大阪市や東大阪市を中心に中小企業が集積しているが、景気の悪化により倒産や廃業に追い込まれる企業が多く、失業者の増加につながったようだ。加えて、大阪を本拠地とする企業の多くは、マーケティング機能を東京にシフトするなど、地元のビジネスよりも、東京でのビジネス拡大を図っている傾向が高いことも影響する。

 こうした状況について、大阪府の行祥雅・総務部行政改革室IT推進課企画補佐は、「今の状態が長引けば、大阪の産業が伸び悩む可能性が高い」と危惧しており、「財政が厳しくなっているのは事実。IT予算が決して多いとはいえない」と打ち明ける。

 そのため、大阪府ではIT関連の専門部隊として70人程度のSEを配置し、システム構築にかかるコストを最小限に抑えることを目指す。「受注側のSE技術だけに頼ることなく、安くて最適なシステムを構築することが重要だ」(行企画補佐)と強調する。

 たとえば、「総務サービスセンター」の入札では、各社からの提案を外部有識者から構成する審査委員会で評価する「総合評価一般競争入札」を取り入れた。この結果、松下電器産業、NTT西日本、富士通の3社で構成する企業連合が約27億円で落札した。

  同センターは、人事、給与、福利厚生、財務会計、物品調達などの基幹系システムを整備し、職員の相談対応などサービス部分のシステムと連係を図るために設置。今回の案件は、一体的な整備から開発、保守、運用まで7年間の業務を委託するというものだった。

 「入札に参加した企業の多くは、『7年契約では、50億円程度のコストがかかる』という見方が強かった」(同)という。大阪府側のSE専門部隊が、低価格で最適なシステムを構築できるかを試算することでコスト削減を実現した。

 同センターは、03年4月に準備体制を整え、システムのプログラミングに着手。職員への研修活動や、総務サービス事業の運営に必要な機器の配置なども順次行う。今年秋からは、新システムへのデータ移行や各種システムのテスト稼動に入り、04年春に本格稼働させる。

 このほか、電子申請システムにおいてもSE専門部隊が極力自力で構築し、外部委託する場合に比べコストを4分の1程度に抑えた。各種申請の電子化については、イベントや講座の参加申込みなど、認証や決済が不要な簡易な申請手続き110項目を02年度に実施。

  また、職員採用試験の申込みや自動車税の住所変更届の受け付けなど、本格的な申請手続きについては、年間300件以上の申請があるものの中から10項目弱を電子化した。

■「近畿ブロック広域ブロードバンド圏構想」推進

 大阪府がIT化への具体的な取り組みを始めたのは01年度から。01年3月にIT推進戦略として「e-ふちょう」アクション・プランを策定した。便利な府庁を目指した「バーチャル府庁」、庁内の効率化を図る「シェイアップ府庁」、総合的な行政サービス提供を目指す「ネットワーク府庁」の3項目を重点課題に挙げ、03年度をめどに実現を目指す。

 まず取り組んだことは、庁内パソコンの1人1台体制の整備。現在は、本庁で約4700台を導入している。

 「01年度以前は、パソコンの導入率が他の自治体と比較して下から数えたほうが早かった。01年度中に1人1台をほぼ実現した」(行企画補佐)と語る。出先機関ではまだ1人1台体制を達成していないが、02年度の時点で約3700台、03年度中に約5000台に引き上げる予定だ。

 IT化による費用対効果については、03年度をめどに生産性10%以上の向上を掲げ、可処分時間の創出や超過勤務時間の削減、職員数のスリム化などを徹底する。とくに職員数については、1年間で300人以上のスリム化が目標だ。「定年退職する人の数と新規採用人数を調整することで、スリム化につなげたい」(同)としている。

 03年度の大きな取り組みは、「府立インターネットデータセンター」(仮称)の整備だ。同センターは、国の01年補正予算事業である「地域IT拠点整備事業」を活用することで設立。

 設置場所は大阪市浪速区内で、NTT西日本が整備・運営を受注した。基本機能は、「サーバーやサーバー用ラックおよびそのスペースの貸し出し」、「データの保管」、「開発室の貸し出し」など。「自治体や中小企業向けのホームページ作成サービスや少額課金サービスなどの提供」、「先進技術の各種実証実験の場」、「大阪府のホームページや電子申請サービス」、「府の各機関や国・市町村などとのネットワーク接続拠点」として活用する。

 IDCを設立した最大の利点は、市町村との共同運営を加速できる点にある。大阪府では府内44市町村と、電子入札システムの共同運営に関する研究を行う「大阪電子自治体推進協議会」を02年4月に設置した。

 だが、共同利用に賛同しているのはまだ10市町村弱。今後は「強制しないものの、IDCを最大限に活用するために各市町村の共同利用参加に向けた施策に取り組む」(同)という。

 近隣県との連携については、大阪府を含め京都府や滋賀県、徳島県、兵庫県、奈良県、福井県、三重県、和歌山県の2府7県が共同で取り組む「近畿ブロック広域ブロードバンド圏構想」(仮称)を02年度にまとめた。各府県との連携強化に加え、「近隣県にIDCを活用してもらうことも促していきたい」(同)意向だ。


◆地場システム販社の自治体戦略

富士通関西支社

■民間の落ち込みを自治体でカバー

 大阪府と和歌山県を中心にビジネスを展開する富士通関西支社では、2002年度(03年3月期)の自治体ビジネスが売上比率で約30%を占め、売上高は前年度比10%増で推移したもようだ。

 和田信雄・関西支社長は、「大阪は、企業向けビジネスの落ち込みが激しい。自治体ビジネスの拡大により、売上高を伸ばしていく」と意気込む。

 大阪の自治体ビジネス市場において、同社のシェアは約35%を誇る。

 市場の状況については、「競争が激しいため、自社の強みと弱みを見極めて展開する。場合によっては競合他社とのコラボレーションも必要」と強調する。

 昨年度は松下電器産業、NTT西日本と共同で、大阪府の「総務サービスセンター」を受注。IDCの整備・運営は、NTT西日本が受注したが、「この事業にも何らかの形で参画する」構えだ。

 大阪府は、低価格かつ最適なシステムを構築するためにSEの専門部隊を揃えており、各システムにかける予算が低いケースも多い。
 そのため、受注したとしても大きな利益につながらない可能性も出てくる。

 これについて、和田支社長は、「予算が低ければ、ボリュームビジネスとして多くの案件を獲得しなければならない。短期的にみると厳しいが、予算内で最適なシステムの開発を徹底することで質の高いものを完成できれば、長期的にはビジネス拡大につながる」とみる。

 同社は、大阪府に電子申請システムを導入した。富士通の電子申請システム「インターコミュニティ21」は、「大阪府に導入するために開発したものが全国区の製品になった」と自信をみせる。
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